あなたの恋、応援します!! 〜気がついたら悪役令嬢だったので、破滅回避のために全力で王太子の真実の恋を応援することにしました!!【嘘】

友坂 悠

文字の大きさ
37 / 46

【寝室】

しおりを挟む
 ◆◆◆


 気がつくとそこは見覚えのあるベッドの上。
 見覚えのある天井。

 ああ、刻が遡ったのね、そう安堵する。

 飾り気はない小さな部屋。アリシアが日常を過ごしていた寝室。
 公爵家の屋敷としてはかなり小さい部屋だけれど、それもそのはず元々ここはアリシアの母の衣装部屋だった。

 元々の、母と一緒に暮らしていた寝室は今はマリサの部屋となっていた。
 他にももっと部屋はあったはずだけれど、その母の寝室は女性らしい彫刻やシャンデリアの装飾、壁紙の作りなどが贅を凝らしたものになっていたため、マリサがこの部屋を欲しがったのだ。
 衣装部屋に追いやられたことには特に何も思わなかった。
 それよりも、母の衣装の匂いに包まれている事が嬉しくて。

 窓も小さな出窓があるだけの本当に小さな部屋。ベッドも使用人が使うような質素なもの。
 家具、と言えば母が使っていたタンスが一応一棹残されていたからそれを使っていた。ドレスも、母のお古だけしか無かった。
 当然、アリシア専用の使用人などはいなかった、はずだった。

「おはようございます。お嬢様」

 そうノックして入室するのは男の人。
 執事服に身を包みいかにも執事然としているけれどアリシアには見覚えがない。

「え? あなた、誰?」

 ベッドから半身だけ起こし、思わずそう言い放っていた。本当にお屋敷の従業員だったらものすごく失礼だろう。でも。

(こんな男性、わたくしは知らない……)

 そう思って、毛布で体を隠しながらその彼を見つめる。


「俺のこと、もう忘れたの?」

 そう、ウインクする彼。

 漆黒の髪、浅黒い肌に切長の瞳。
 口元は真一文字に開くけれど、妙に色っぽいその赤い唇。
 ——まさか! 

「あなた、魔王? 魔王ウィルヘルムなの?」

「は。やっとわかった? 俺、君付きの侍従ってことになってるからよろしく」

「ちょっと待ってよ。だって、わたくしこれでも未婚の女性なのよ? それなのにこんな部屋の中まであなたみたいな人が入ってきたらどう思われるか」

「そっか、一応そんなこと気にするんだ。じゃぁ、こうしようか」

 そういうと。
 彼の周囲にブワッと黒い霧が巻きおこる。
 一瞬ののちに現れたのは、今度は黒いメイド服に身を包んだ女性だった。

「これなら、いいでしょう? この姿の時はヴィルヘルミーナ、ね」

 そう、怪しく笑うその顔。真っ赤な唇の口角をニッとあげ、妖艶にその場でくるっと回る、彼女?

 スカートが円形に膨らんで、閉じる。
 少し見えた足元も、完全に女性のそれに見える、そんな姿。

「お父様や他の皆が怪しんだりは、しないのよね?」

「ええ。その辺は任せておいて。あたしの存在は認識阻害の魔法で目立たなくなっているし、それに。周囲の人たちの記憶には少しだけ干渉しておいたから。周りにはただのモブにしか見えないから」

「ただのモブって、あなた……」

「ふふ。楽しいわ」

「なんだか、まるでロマンス小説の登場人物のような言い草ね」

「ふふ。だってそうでしょう? あなただって、こんなふうに人生をやり直しているんだもの」

 そう言って。フワッとアリシアに向けて魔法をかける。
 一瞬で身支度が整うその奇跡に。


「今は、いつなのかしら?」

 窓の外を眺め、今更ながらにそう呟く。

「うーんとね。今はちょうどあなたの十五歳の誕生日。春生まれのあなたがこれから貴族院最後の一年間を送る、そんな、刻、よ」

「そっか。ミーナ。ありがとう」

 そう、少しだけはにかんで。
 アリシアは、ウィルヘルムに右手を差し伸べた。

「そうね、ミーナ。いい響きだわ。あたしのことはこれからそう呼んでちょうだい。あくまであたしはあんたのメイドのミーナ。それで行きましょう」

 そう言って、ミーナもアリシアの手を握る。

 ——卒業パーティまでは一年、ないか。ううん、それまでにやれることをやるのよ。

 もう二度と、あんな思いをしないために。
 アリシアはそう決意を胸にして、窓の外の青い空を眺めた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】黒の花嫁/白の花嫁

あまぞらりゅう
恋愛
秋葉は「千年に一人」の霊力を持つ少女で、幼い頃に龍神――白龍の花嫁として選ばれていた。 だが、双子の妹の春菜の命を救うために、その霊力を代償として失ってしまう。 しかも、秋葉の力は全て春菜へと移り、花嫁の座まで奪われてしまった。 それ以来、家族から「無能」と蔑まれながらも、秋葉は失われた力を取り戻すために静かに鍛錬を続けていた。 そして五年後、白龍と春菜の婚礼の日。 秋葉はついに霊力が戻らず、一縷の望みも消えてしまった。 絶望の淵に立つ彼女の前に、ひとりの青年が現れる。 「余りもの同士、仲良くやろうや」 彼もまた、龍神――黒龍だった。 ★ザマァは軽めです! ★後半にバトル描写が若干あります! ★他サイト様にも投稿しています!

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

ある公爵令嬢の死に様

鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。 まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。 だが、彼女は言った。 「私は、死にたくないの。 ──悪いけど、付き合ってもらうわよ」 かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。 生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら 自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

処理中です...