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二人の未来図
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宴の熱気が去り、静寂が戻った居間。
サクラコは遊び疲れて座布団の上で丸くなって眠ってしまい、俺は彼女を抱き上げて寝室へと運んだ。
アリスもケージの中で安心しきった寝息を立てている。
居間に戻ると、ほなみさんが食器を片付け終え、縁側に腰掛けて夜空を見上げていた。
手には温かいお茶が入った湯呑みが二つ。
「……お疲れ様、ほなみさん」
「あ、孝文さん。お疲れ様です」
俺が隣に座ると、ほなみさんは湯呑みを一つ手渡してくれた。
湯気と共に立ち上るほうじ茶の香りが、昂った神経を優しく鎮めていく。
「さっきの話……本気なんだよね?」
俺が切り出すと、ほなみさんは夜空を見上げたまま静かに頷いた。
「はい。……私、今までずっと『お兄ちゃんのお店を守らなきゃ』って、そればかり考えてました。お兄ちゃんの夢が消えてしまうのが怖くて、必死にしがみついて……」
彼女の声は震えていなかった。以前のような迷いはもうない。
「でも、ここで孝文さんやサクラコちゃんと過ごして、美味しい野菜を育てて、それを料理して……気づいたんです。私がやりたいのは『お店を守ること』じゃなくて、『美味しいもので人を笑顔にすること』なんだって」
彼女は俺の方を向き、月明かりの下で微笑んだ。
「だから、一度『Katze』は閉めます。場所を変えて、形を変えて……ここで、私の新しい夢を始めたいんです。孝文さんが作った野菜で、私が料理を作る。……ダメ、ですか?」
ダメなわけがない。
むしろ、それは俺が思い描いていた「最高のスローライフ」そのものじゃないか。
「大歓迎だよ。……俺の作った野菜を一番美味しく料理してくれるのは、世界中でほなみさんだけだからな」
「ふふっ、責任重大ですね」
二人の笑い声が、静かな夜に溶ける。
今なら、言える気がした。いや、今言わなければ男じゃない。
俺は湯呑みを置き、居住まいを正してほなみさんに向き直った。
「ほなみさん」
「はい」
「……以前、約束したこと、覚えてる?」
ほなみさんの頬が、ほんのりと朱に染まる。
「お互いのやりたい事が叶えられた時、その時が来たら……って話ですよね」
俺は深く息を吸い込んだ。
心臓の音がうるさいくらいに鳴っている。会社のプレゼンよりも、黒塗りの車と対峙した時よりも、ずっと緊張している。
「俺のやりたい事は叶った。田舎に来て、動物たちと暮らして、サクラコっていう家族ができて……そして今、ほなみさんという最高のパートナーと一緒に未来を描けるようになった」
俺はほなみさんの手を取り、その小さな手を両手で包み込んだ。
「俺は、ほなみさんが好きだ。……これからもずっと、俺の隣で笑っていてほしい。俺と、付き合ってください」
直球ど真ん中。
何のひねりもない言葉だったけれど、これ以上の言葉は見つからなかった。
ほなみさんの瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
それは悲しみの涙ではなく、宝石のように輝く嬉し涙だった。
「……はいっ……! 私でよければ……末永く、よろしくお願いします……!」
ほなみさんは泣き笑いの表情で、俺の手に自分の手を重ねてきた。
俺は彼女をそっと引き寄せ、抱きしめる。
華奢な肩の震えと、温かい体温。
柔軟剤の優しい香りが鼻腔をくすぐる。
「……夢みたいです。ずっと、この時を待ってました」
「俺もだよ。……待たせてごめんな」
「もう……いじわる言わないでくださいね」
腕の中で呟くほなみさんの声は、甘く、擽ったい。
幸せだ。
会社を辞めたあの日、将来への不安で押しつぶされそうだった俺に教えてやりたい。
お前の選んだ道は、こんなにも温かい未来に繋がっていたんだぞ、と。
「……あーっ!! ズルいー!!」
突然、背後から大きな声が響いた。
飛び上がるほど驚いて振り返ると、襖の隙間からサクラコが顔を出してニヤニヤしていた。
「サ、サクラコ!? 寝てたんじゃ……!?」
「喉渇いて起きちゃったの! そしたら孝文たちがイチャイチャしてるんだもん!」
「い、イチャイチャなんてしてないっ!」
「してたー! 抱っこしてたー!」
サクラコはドタドタと走ってくると、俺とほなみさんの間に強引に割り込んで座った。
「私も混ぜてよー! 家族なんでしょー!?」
「も、もちろん! サクラコちゃんも一緒だよ!」
真っ赤な顔で慌てるほなみさんと、悪戯っぽく笑うサクラコ。
俺は二人をまとめて抱きしめた。
「あぁ、そうだ。俺たちは家族だ。……これからは、もっと賑やかになるぞ」
庭からは、夜行性でもないのに空気を読んだのか、クロエの「メェ~」という鳴き声が聞こえた気がした。
冬の澄んだ夜空には、満天の星が輝いている。
俺たちの新しい生活は、まだ始まったばかりだ。
●あとがき
クロエ「ついに! 結ばれたわね!」
烏骨隊長「ここまで長かったであるなぁ……」
作者「私が更新止めたのも長かった要因の一つでしょうね」
クロエ「ほんとよ、まったく」
烏骨隊長「とはいえ、めでたいのであーる!」
サクラコは遊び疲れて座布団の上で丸くなって眠ってしまい、俺は彼女を抱き上げて寝室へと運んだ。
アリスもケージの中で安心しきった寝息を立てている。
居間に戻ると、ほなみさんが食器を片付け終え、縁側に腰掛けて夜空を見上げていた。
手には温かいお茶が入った湯呑みが二つ。
「……お疲れ様、ほなみさん」
「あ、孝文さん。お疲れ様です」
俺が隣に座ると、ほなみさんは湯呑みを一つ手渡してくれた。
湯気と共に立ち上るほうじ茶の香りが、昂った神経を優しく鎮めていく。
「さっきの話……本気なんだよね?」
俺が切り出すと、ほなみさんは夜空を見上げたまま静かに頷いた。
「はい。……私、今までずっと『お兄ちゃんのお店を守らなきゃ』って、そればかり考えてました。お兄ちゃんの夢が消えてしまうのが怖くて、必死にしがみついて……」
彼女の声は震えていなかった。以前のような迷いはもうない。
「でも、ここで孝文さんやサクラコちゃんと過ごして、美味しい野菜を育てて、それを料理して……気づいたんです。私がやりたいのは『お店を守ること』じゃなくて、『美味しいもので人を笑顔にすること』なんだって」
彼女は俺の方を向き、月明かりの下で微笑んだ。
「だから、一度『Katze』は閉めます。場所を変えて、形を変えて……ここで、私の新しい夢を始めたいんです。孝文さんが作った野菜で、私が料理を作る。……ダメ、ですか?」
ダメなわけがない。
むしろ、それは俺が思い描いていた「最高のスローライフ」そのものじゃないか。
「大歓迎だよ。……俺の作った野菜を一番美味しく料理してくれるのは、世界中でほなみさんだけだからな」
「ふふっ、責任重大ですね」
二人の笑い声が、静かな夜に溶ける。
今なら、言える気がした。いや、今言わなければ男じゃない。
俺は湯呑みを置き、居住まいを正してほなみさんに向き直った。
「ほなみさん」
「はい」
「……以前、約束したこと、覚えてる?」
ほなみさんの頬が、ほんのりと朱に染まる。
「お互いのやりたい事が叶えられた時、その時が来たら……って話ですよね」
俺は深く息を吸い込んだ。
心臓の音がうるさいくらいに鳴っている。会社のプレゼンよりも、黒塗りの車と対峙した時よりも、ずっと緊張している。
「俺のやりたい事は叶った。田舎に来て、動物たちと暮らして、サクラコっていう家族ができて……そして今、ほなみさんという最高のパートナーと一緒に未来を描けるようになった」
俺はほなみさんの手を取り、その小さな手を両手で包み込んだ。
「俺は、ほなみさんが好きだ。……これからもずっと、俺の隣で笑っていてほしい。俺と、付き合ってください」
直球ど真ん中。
何のひねりもない言葉だったけれど、これ以上の言葉は見つからなかった。
ほなみさんの瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
それは悲しみの涙ではなく、宝石のように輝く嬉し涙だった。
「……はいっ……! 私でよければ……末永く、よろしくお願いします……!」
ほなみさんは泣き笑いの表情で、俺の手に自分の手を重ねてきた。
俺は彼女をそっと引き寄せ、抱きしめる。
華奢な肩の震えと、温かい体温。
柔軟剤の優しい香りが鼻腔をくすぐる。
「……夢みたいです。ずっと、この時を待ってました」
「俺もだよ。……待たせてごめんな」
「もう……いじわる言わないでくださいね」
腕の中で呟くほなみさんの声は、甘く、擽ったい。
幸せだ。
会社を辞めたあの日、将来への不安で押しつぶされそうだった俺に教えてやりたい。
お前の選んだ道は、こんなにも温かい未来に繋がっていたんだぞ、と。
「……あーっ!! ズルいー!!」
突然、背後から大きな声が響いた。
飛び上がるほど驚いて振り返ると、襖の隙間からサクラコが顔を出してニヤニヤしていた。
「サ、サクラコ!? 寝てたんじゃ……!?」
「喉渇いて起きちゃったの! そしたら孝文たちがイチャイチャしてるんだもん!」
「い、イチャイチャなんてしてないっ!」
「してたー! 抱っこしてたー!」
サクラコはドタドタと走ってくると、俺とほなみさんの間に強引に割り込んで座った。
「私も混ぜてよー! 家族なんでしょー!?」
「も、もちろん! サクラコちゃんも一緒だよ!」
真っ赤な顔で慌てるほなみさんと、悪戯っぽく笑うサクラコ。
俺は二人をまとめて抱きしめた。
「あぁ、そうだ。俺たちは家族だ。……これからは、もっと賑やかになるぞ」
庭からは、夜行性でもないのに空気を読んだのか、クロエの「メェ~」という鳴き声が聞こえた気がした。
冬の澄んだ夜空には、満天の星が輝いている。
俺たちの新しい生活は、まだ始まったばかりだ。
●あとがき
クロエ「ついに! 結ばれたわね!」
烏骨隊長「ここまで長かったであるなぁ……」
作者「私が更新止めたのも長かった要因の一つでしょうね」
クロエ「ほんとよ、まったく」
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