高卒サラリーマンが脱サラして田舎でスローライフするだけの話

らいお

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不思議な女性との出会い編 第三話

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 私、猫村ねこむらほなみは昔から火を使うのが苦手でした。
 幼稚園の頃に家族で花火をした時でしょうか。火をつけると地面をクルクルと回る、ネズミ花火が跳ねて私の顔に向かって飛んできたんです。幸いにも、火傷の痕はもう消えているのですが、それ以来どうも火を扱うのが苦手でした。
 両親からは、「こんなに火を怖がるようでは、将来嫁に貰ってくれる人なんていないぞ。」と、常日頃から言われています。
 私もその言葉に危機感を感じたので、頑張って克服しようと思いました。
 幸いなことに、お兄ちゃんが喫茶店をやっていてそのお店は料理も提供するので、火の克服のために働かせてもらう事にしました。

 働いてみると、とっても楽しくって!
 お兄ちゃんが作った料理を、お客さんが美味しそうに食べてくれる。お客さん達は、楽しそうに、嬉しそうにお店を楽しんでくれる。それが、ほんとに楽しかった。

 でも、そんな中お兄ちゃんが突然倒れました。
 その日の朝、お店の準備をしているお兄ちゃんが、少しだけ胸を押さえたのを覚えています。「どうしたの?」って聞いたけど、お兄ちゃんは「大丈夫。」って言ってた。私は、それを信じちゃった。
 その日のお昼過ぎ、一番お店が混み合う時間に、お兄ちゃんは胸を押さえながら倒れました。
 すぐに救急車を呼んだけど、病院に着く前に亡くなってしまいました。
 病名は急性大動脈解離。朝の時点で病院に行っていたら、助かっていた可能性はありました。後悔だけがずっと残っています。

 お兄ちゃんは子供の頃からコーヒーが大好きで、おじいちゃんに連れられてよく喫茶店に行っていました。その頃から自分の喫茶店を開きたいと思っていたんでしょう。よく、「将来は自分の喫茶店を開きたい!」と目をキラキラさせながら言っていたのを思い出します。

 そして、お兄ちゃんは念願叶って自分の喫茶店『Katze』を開きました。苗字が猫村だから、ドイツ語で猫を表す”Katze”。ネーミングセンスの無いお兄ちゃんにしては、良い名前だと思います。
 お兄ちゃんの夢だった『Katze』。だから私は、お兄ちゃんのお店を残したい。
 だけど、現実はそう簡単にはいきませんでした。
 お兄ちゃんが倒れた時間が悪く、お客さんがたくさんいた時間帯。そんな、混み合う時間帯に人が亡くなったお店には人が来なくなってしまいました。
 私は悩みましたが、そこまで頭も良くないので良い打開策は思いつきませんでした。というよりも、どうにかしなきゃ、って考えが先走り過ぎて焦っていたんだと思います。

 お客さんが来ないまま、何日も経ちました。やはり私にはこのお店を残すなんてことは出来ないんだと思い出してきました。
 ですがその時、久しぶりにドアの鈴の音が鳴ります。
 ハッとしてドアのほうを見ると、ひとりの男性がいました。
 久しぶりのお客さんです。嬉しくて、声が上ずってしまうそうになるのをなんとか我慢できました。

「いらっしゃいませ!お好きな席へどうぞ!」

 その男性は軽く笑みを浮かべながら会釈すると、壁側の席に座りました。
 男性がパラパラとメニューを一通り眺めたことを確認すると、私は接客にいきます。

「お決まりですか?」
「コーヒーと、何か軽い食事をお願いできますか?」

 これはまずい、と思いましたが、ここで良い印象を持ってもらわないとまたお店に来てもらえなくなっちゃう!
 そう思った私は、こう言ってしまいます。

「でしたら、サンドイッチがオススメですよ!」

 どうしようどうしよう!こんな事言ったら頼まれちゃうよ!

「では、サンドイッチをお願いします。」

 ほらやっぱり!もうどうしようっ!

 ひとまず私は、落ち着かせるためにコーヒーを用意します。
 お兄ちゃんが考えた、氷をコーヒーで作るアイスコーヒー。氷が溶けても、味が薄くならないお客さん思いのそのアイスコーヒーを、私は作ります。

「お待たせしました!サンドイッチは少し待って下さいね!」

 男性に持っていくと、少し驚いたような表情をしていました。確かに、このお店のアイスコーヒーは想像を良い意味で裏切る見た目をしています。
 キッチンに戻りながら、チラっと男性を見てみると、美味しそうに飲み、微かに笑顔を浮かべていることが分かりました。それを見た私は、嬉しくなります。

 よぉし、サンドイッチ、頑張って作るぞ!大丈夫、お兄ちゃんが作っている所はずっと見てきたんだもの、上手くできるはず!

 そう思っていざ調理をしてみるものの、その意気込みは儚くも砕け散りました。
 やはり火を見るのが怖い。どうしても慌ててしまう。
 それに拍車をかけるようにお客さんに早く提供しなければ、という思いがさらに私を焦らせます。
 呼吸が荒くなっているのが分かる。どうして上手くいかないのか。自分を責める気持ちが強くなっていくのを感じました。

「お姉さーん、サンドイッチできましたかー?」

 すると、キッチンの外からそんな声が聞こえてきました。

「すすすすすすみません!!!も、ももも、もう少々、お、おお待ちいただけますかっ!?」

 焦っているからか、言葉が上手く出ませんでした。

「めっちゃどもっとるがな。落ち着きなさい。」
「はぅっ!?」

 この人、凄く正直だっ!

 「えっと…何かお困りですか?」

 正直だけど、優しさを感じるようなそんな声で、男性は私に言います。
 これはもう正直に言った方がいい…お兄ちゃんごめんね…

「……すみません、私、料理が苦手で…」

 男性は少し考えると、あのコーヒーを飲んでいた時のような優しい笑顔で私にこう言います。

「ま、まぁそんなに落ち込まないで下さいよ。サンドイッチはもう大丈夫なので、コーヒーをもう一杯いただけませんか?」

 この人、怒ってないのかな…?

「…わかりましたっ!すぐにお持ちします!」
「美味しいの、頼みますよ?」
「!!」

 その人の言葉は、私を励ますような、元気づけるような、そんなふうに感じられました。

 この人に、この優しさに、頼ってみてもいいのかな…
 そんな感情が私の中で生まれたことがわかりました。

 私はコーヒーを用意して、男性に持っていきます。
 そして、図々しいと思われるでしょうが、その男性の向かいの席に座ります。

 「先ほどはすみませんでした。」

 私は、誠心誠意謝ります。
 でも、その男性は怒った様子もなく、優しく朗らかに私の話を聞いてくれました。
 お兄ちゃんが亡くなった話。お兄ちゃんのサンドイッチが本当のオススメ料理だった話。
 そして男性はこう言いました。

「…お姉さんはお兄さんのこの喫茶店を、潰したくなかったんですよね。だから無理してでも苦手な料理を。」

 私はハッとしました。少ない言葉の中で、意図を察してくれたのです。まるで、お兄ちゃんのようでした。

 この人にだったら、相談しても、いいのかな…うんっ、ダメでもともと!

「…相談に、乗っていただけませんかっ!」




 その男性…孝文たかふみさんは、相談に乗ってくれただけじゃなく打開策まで考えてくれました。
 そして、料理の練習にまで付き合ってくれました。これからも、時間があれば付き合ってくれるそうです。
 もちろん、料理が上手くなるかは分かりません。いまだに火も苦手なままです。

 だけど…孝文さんは、お店の危機を救ってくれる打開策を考えてくれた救世主です。
 少なくとも、私にとっては英雄です。


~ 不思議な女性との出会い編 完 ~
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