高卒サラリーマンが脱サラして田舎でスローライフするだけの話

らいお

文字の大きさ
17 / 85

夢への足掛かり編 第六話

しおりを挟む
7月9日 PM18:00

 ほなみさんとご飯を食べに行くと決めた俺は、ほなみさんが店じまいをするのを店外で待っていた。手伝いをしようか聞いてみたものの、客にやらせるわけにはいかないらしいので、俺は大人しく待つことにした。

「お、お待たせしました…」

 俺が店外で待って数分後、ほなみさんが来た。店じまいは終わったのだろう。

「いえいえ、店じまいお疲れ様で――」

 言葉を失った、とはまさにこの事を言うのだろう。私服姿のほなみさんは……とても、とても綺麗だった。いつも会うほなみさんは仕事着のエプロン姿だった、という事もあってか今回はじめて私服を見たわけだが、大人しめな服装ながら、白をベースとしたトーンイントーンのカラーコーディネートでまるで天使でも見ているような……いかん、何を考えているんだ俺は。
 いつもと違う服装というだけでこんなにも良く見えるだろうか?いや、元の素材が良いからだろう。テレビに出るような女優やモデルに比べると多少の見劣りはするものの、着飾らず自然体で、こんなにも綺麗な人はそうそういないはずだ。

「どうかしましたか?」
「い、いえ。なんでもないですよ。」
「ふふっ、孝文たかふみさんはおかしな人ですねっ」

 ふわりと香る花のようなほのかに甘い香りは、香水だろうか?とても良い香りだ。リラックスできるような、ほなみさんに合っている香水だ。
 あぁ、無意識にほなみさんを食事に誘ってしまったわけだが、ちょっと失敗したな。女性は準備に色々と時間がかかると言うが、俺はそれを考えずに誘ってしまったわけだ。申し訳ない事をした。女性経験の少なさがここに来て出ている。

「では、行きましょうかっ!」
「あ、はい、行きましょうか。」

 ほなみさんに促され、俺たちは駅前に向かう。
 ほなみさんが店じまいをしている間に、美味しい焼肉屋は調べていたので問題ない。もちろん食べ放題ではない、ちょっとお高めの所。予約する前にほなみさんが来てしまったが、空席情報はほぼ空いてるとの事なので大丈夫だろう。

 「最近は休みなしでお店開いていたので、こういう外食は久しぶりなのでなんだかワクワクします!」
「おや、そうだったんですか。頑張るのはいいですけど、ちゃんと休まなきゃダメですからね?」
「わかってますよーだ。孝文さんはお母さんみたいな人ですねっ」

 クスクスと可愛らしく笑うほなみさん。楽しそうだ。
 いや、別に俺はお母さんでは無いんだが、マジで休まなきゃダメだよ。俺は休み無しで働いてぶっ倒れた人を何人も知っているわけだし、ちょっと心配だ。

「頑張るのも大事ですけど、それと同じように休む事も大事なんですよ。身体は資本ですからね。」
「はーいっ」

 ダメだ、こりゃまともに聞いてないな。

「あっ、お店ってここですか?」
「そうそう、ここです。なんか評判良いらしいですよ。」
「ここ、一度来てみたかったんです!やったっ!」

 ほなみさんはピョンピョンと小さく跳ねながら全身を使って嬉しさを表現する。小柄な人は、みんなこうなのだろうか?俺が趣味でやっているゲームにも小柄な種族がいるが、小柄な分他の種族よりも全身を使ってエモートをよくしていたな。そういうものなのかな?

 店内に入ると、先程調べた情報通り空席があったのですぐに通された。
 メニューから適当に頼む。正直、高い肉はよく分からないのでほなみさんが食べたいのを中心に頼んでいく。

「何飲みますか?」
「あ、私あんまりお酒は得意じゃないのでソフトドリンクでもいいですか?」
「もちろんですよ、好きなのを頼んでくださいね。」

 そしてほなみさんは烏龍茶を、俺は梅酒のロックを頼む。

「梅酒、好きなんですか?」
「あー、他の酒と比べて好きですね。俺もそこまで酒が好きというわけではないんですけど、梅酒だけは飲めるんですよ。」
「へぇ、なんだか不思議ですね!」

 まぁ確かに不思議と言えば不思議か。あまり酒は好きではないのに梅酒だけは好き。なんでだろうなぁ。昔よく祖母と一緒に庭先の梅で梅酒を作っていたからかな?あれ、結構楽しいんだよね。

 その後俺たちは焼肉を美味しく食べながら更に雑談に花を咲かせる。ほなみさん、結構食べるんだよね。その小さい体のどこにそんなに入っているのか不思議なくらい。でも、本当に美味しそうに食べるんだから、食事に誘ってよかったよ。

 焼肉を楽しんで外に出ると、綺麗な月が雲の隙間から顔を覗かせていた。

「ごちそうさまでしたっ!とっても美味しかったです!」
「いえいえ、俺も楽しかったですよ。美味しかったですね。」

「ほなみさんの家って、“Katze”の2階でしたっけ?」
「そうですっ!」
「じゃ、送っていきますよ。こんな時間に女性を一人で歩かせるわけにも行きませんからね。」
「じゃ、じゃあ…お願いしますっ!あっ…ちょっと、歩いても良いですか?」

 ふむ、どこか寄りたい場所でもあるのかな?

「別に構いませんよ。どこか行きたい場所でも?」
「いえっ、ちょっと風にあたりたいなぁ、って!」

 そして俺は、ほなみさんについていく形で歩いていく。
 少しすると、小さな公園が見えて来た。

「あの公園、少し寄ってもいいですか?」
「もちろんいいですよ。」

 公園には小さいブランコと滑り台のある、The公園といったようなものだった。

「なんだか懐かしいですね。大人になってからは公園なんて来ませんから。」
「そうですね!ちょっとワクワクしちゃいます!」

 ほなみさんはパタパタと小走りで公園内を回ると、滑り台で滑ってみたり、ブランコで遊んだりしている。
 俺はそれを少し遠くから眺めるように見ているわけだが、なんだか小さい子供の世話をする親のような感覚だ。

「あんまりはしゃぎすぎないようにしてくださいねー、怪我しますよー。」
「はーい!」

 ほなみさんはもう少し遊具を楽しむと、俺が腰掛けていたベンチに座る。

「すみません、楽しくなっちゃってはしゃいじゃいました…」
「いえいえ、いいんですよ。こういう時くらい楽しみましょう。」

 こういう時くらい羽目を外すのが丁度いい気分転換になるんだよね。気分もリセットできるし、たまにはこういうのも良いだろう。


「孝文さん。」
「はい?」

 ほなみさんは少し真剣な表情で話しかけてくる。 

「もうすぐ引っ越しちゃうんですよね…?」
「…そうですね。まだ準備してませんけど、今月中には。お店にもなかなか行けそうにないかもしれませんね。」

 確かに行けない距離ではないだろうが、流石に片道2時間はキツい。

「そう、ですよね…」

 ほなみさんは下を向いて俯いてしまう。

「でも、今の時代は便利なのでスマホさえあれば連絡できちゃうじゃないですか。料理の報告、楽しみにしてますよ。」

「「……」」

 無言の時間が流れる。何か、話題を出したほうが良いだろうか。

「孝文さん。」
「…はい、なんでしょう。」

 ほなみさんは真剣な表情で顔を上げ、俺の目を見て、まるで決意を決めたかのような表情をする。
 ゆっくりと深呼吸をして、口を開く。

「孝文さん。私、あなたの事が好きです。」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密

まさき
青春
 俺は今、東大院生の実験対象になっている。  ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。  「家庭教師です。住まわせてください」  突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。  桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。  偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。  咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。  距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。  「データじゃなくて、私がそう思っています」  嘘をついているような顔じゃなかった。  偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。  不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。 でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。 今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。 なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。 今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。 絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。 それが、いまのレナの“最強スタイル”。 誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。 そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...