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家族御迎編 第二話
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サクラコと共にヤギ達のいる柵の中に入る。すると、群れているヤギ達はより一層俺たちから距離を取り出した。やっぱり警戒してるな、こいつら。
「みんな離れていっちゃったね」
「あぁ、そうだな。こういった動物は警戒心が強いからな。当然の事さ」
当然の事とは言え、ちょっと悲しくなるよな。そんなに距離を取らなくてもいいじゃないか。
ほとんどのヤギは自分も続け、と距離を取るのに対し、角の無いヤギはまったく動かず我関せず、といった感じだった。とはいえ、俺達が近づくと視線を逸らしていたあたり多少は興味を示している、という事だろうか。
触れられる距離まで近づいてようやく気が付いたが、このヤギは顎下にヒゲのような毛が無い事から雌だという事が分かった。
「孝文、この子にしようよ!」
突然、サクラコが目をキラキラとさせながらそう言い出した。
「どうしてこの子なんだ?」
「だって、とっても綺麗な顔してるから!」
綺麗な顔、か……確かに、このヤギは他と違い角が無い分スッキリとした印象を受ける。綺麗と言えば綺麗だろう。
「俺としてはこの子でも構わないが、他の子も見なくていいのか?」
「わたしは、この子にビビっと来たの!」
なんだそのアイドルをスカウトするプロデューサーのような意見は。
とはいえ、この子は今日初めてここに来た俺達でも分かるくらいに孤立している。わざわざ群れの中から選んで群れに騒がれても面倒だし丁度良いとも言える。ふむ、どうしたものか。
「そいつに決めましたか?」
後ろから声を掛けられ振り返ると、おじいさんだった。
「この子は、どんな子ですかね」
「そうですねぇ……」
おじいさんは少し考えてから言う。
「生後7ヵ月くらいなんですけどね、あまり群れからは受け入れられていませんね。そのせいか性格はおとなしいので飼いやすいと思いますよ」
まぁ、そうだろうな。近づいてもその場に留まり続けるのは俺達に興味が無いかおとなしいかだろう。
「して、そいつにしますか?」
おじいさんが聞いてくるのに対し俺はサクラコを横目で見ると、うんうんと頷いていた。サクラコはもうこの子以外眼中に無いらしい。
「……分かりました、この子にしますよ」
◇
その後俺達は簡単な手続きをして、ヤギを連れて帰るために布を被せ、箱に入れ車に載せた。その間ヤギは鳴いたり暴れたりすることも無く、とてもおとなしかった。
「何と言うか……凄いところだったな……」
「うん、疲れた……」
車に乗り込んだ俺とサクラコは溜息をついていた。普段嗅ぎなれていない強烈な臭いに、たかが数十分しか滞在していなかったのに疲労感がたっぷりと溜まっていたんだろう。
「……よしっ、さっさと帰るか。家に着いたらヤギを洗わないとな。この臭いを落としてやろう」
「早く帰ろー!」
俺は車を走らせ、さっさとこの臭いの元から離れるために帰路を急いだ。
家に着くと、まずはヤギの入った箱を車から出した。
「はやくクロエ出してあげて」
「はいはい、さっさと出しま――クロエ?」
「うん、クロエ。この子はクロエだよ!」
もう名前決めたのかー、早いなぁ。おそらくだが、体毛が黒いからクロエなんだろうな。漢字だと黒江かな。なかなかいいじゃないか。俺は名前決めるのにいちいち悩んでしまうからこうパッと決めてくれるのはありがたいな。
「そうか、クロエか。そんじゃ、クロエを出すぞー」
俺はクロエの入っている箱を開け、布を被ったままだったのでそれを取る。
「いらっしゃい、クロエ。今日からここがお前の家だ」
クロエは突然布を取られたからか目を閉じてしまったが、声を掛けるとゆっくりと目を開き、箱の中のクロエを覗く俺とサクラコをじっと見つめていた。
少しするとゆっくりと立ち上がり、近づいてきたので抱き上げて庭に連れていく。抱えてみて思ったが、クロエはとても細かった。あまり食べていないんだろう、しっかりと食べさせてあげなきゃな。
「孝文ずるい!わたしも抱っこして!」
「抱っこしてほしいんかい」
そんなよく分からない問答をしながらクロエを抱えて庭まで歩いてきたが、本当におとなしいのな。普通はもっと暴れると思うし、こんなにも身を預けてこないだろう。
庭の真ん中あたりまで来たので、クロエを降ろしてやる。キョロキョロと周りを物色し、ゆっくりを歩きながら地面の感触を確かめているようだ。
「さぁクロエ、存分に楽しむといい。ここでは自由だぞ」
「いっぱい遊ぼうね!」
俺とサクラコが頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。多少は俺達に慣れてくれたようだな。
すると突然クロエが走り出した。それはもう元気に、まるで吹っ切れたかのように。清々しい走りっぷりだ。
「いやぁ、元気だなぁ……っておいおいまだ繋牧用の綱繋いでないぞ!サクラコ、クロエを捕まえてくれ!」
「駆けっこだね!わたし速いんだよー!」
「違うっ!あぁもうなんだこれ!」
クロエの敷地内からの脱走を危惧して捕まえてくれと頼んだものの、どうやら遊びと勘違いするサクラコ。傍から見れば楽しそうに見えなくもない光景だが、俺だけ真面目にやべぇやべぇと焦っていたのだった。
そして、その光景を猫村さんに無駄に性能の良い一眼レフで撮られていたと知り恥ずかしくなるのは、もう少し先の話。
「みんな離れていっちゃったね」
「あぁ、そうだな。こういった動物は警戒心が強いからな。当然の事さ」
当然の事とは言え、ちょっと悲しくなるよな。そんなに距離を取らなくてもいいじゃないか。
ほとんどのヤギは自分も続け、と距離を取るのに対し、角の無いヤギはまったく動かず我関せず、といった感じだった。とはいえ、俺達が近づくと視線を逸らしていたあたり多少は興味を示している、という事だろうか。
触れられる距離まで近づいてようやく気が付いたが、このヤギは顎下にヒゲのような毛が無い事から雌だという事が分かった。
「孝文、この子にしようよ!」
突然、サクラコが目をキラキラとさせながらそう言い出した。
「どうしてこの子なんだ?」
「だって、とっても綺麗な顔してるから!」
綺麗な顔、か……確かに、このヤギは他と違い角が無い分スッキリとした印象を受ける。綺麗と言えば綺麗だろう。
「俺としてはこの子でも構わないが、他の子も見なくていいのか?」
「わたしは、この子にビビっと来たの!」
なんだそのアイドルをスカウトするプロデューサーのような意見は。
とはいえ、この子は今日初めてここに来た俺達でも分かるくらいに孤立している。わざわざ群れの中から選んで群れに騒がれても面倒だし丁度良いとも言える。ふむ、どうしたものか。
「そいつに決めましたか?」
後ろから声を掛けられ振り返ると、おじいさんだった。
「この子は、どんな子ですかね」
「そうですねぇ……」
おじいさんは少し考えてから言う。
「生後7ヵ月くらいなんですけどね、あまり群れからは受け入れられていませんね。そのせいか性格はおとなしいので飼いやすいと思いますよ」
まぁ、そうだろうな。近づいてもその場に留まり続けるのは俺達に興味が無いかおとなしいかだろう。
「して、そいつにしますか?」
おじいさんが聞いてくるのに対し俺はサクラコを横目で見ると、うんうんと頷いていた。サクラコはもうこの子以外眼中に無いらしい。
「……分かりました、この子にしますよ」
◇
その後俺達は簡単な手続きをして、ヤギを連れて帰るために布を被せ、箱に入れ車に載せた。その間ヤギは鳴いたり暴れたりすることも無く、とてもおとなしかった。
「何と言うか……凄いところだったな……」
「うん、疲れた……」
車に乗り込んだ俺とサクラコは溜息をついていた。普段嗅ぎなれていない強烈な臭いに、たかが数十分しか滞在していなかったのに疲労感がたっぷりと溜まっていたんだろう。
「……よしっ、さっさと帰るか。家に着いたらヤギを洗わないとな。この臭いを落としてやろう」
「早く帰ろー!」
俺は車を走らせ、さっさとこの臭いの元から離れるために帰路を急いだ。
家に着くと、まずはヤギの入った箱を車から出した。
「はやくクロエ出してあげて」
「はいはい、さっさと出しま――クロエ?」
「うん、クロエ。この子はクロエだよ!」
もう名前決めたのかー、早いなぁ。おそらくだが、体毛が黒いからクロエなんだろうな。漢字だと黒江かな。なかなかいいじゃないか。俺は名前決めるのにいちいち悩んでしまうからこうパッと決めてくれるのはありがたいな。
「そうか、クロエか。そんじゃ、クロエを出すぞー」
俺はクロエの入っている箱を開け、布を被ったままだったのでそれを取る。
「いらっしゃい、クロエ。今日からここがお前の家だ」
クロエは突然布を取られたからか目を閉じてしまったが、声を掛けるとゆっくりと目を開き、箱の中のクロエを覗く俺とサクラコをじっと見つめていた。
少しするとゆっくりと立ち上がり、近づいてきたので抱き上げて庭に連れていく。抱えてみて思ったが、クロエはとても細かった。あまり食べていないんだろう、しっかりと食べさせてあげなきゃな。
「孝文ずるい!わたしも抱っこして!」
「抱っこしてほしいんかい」
そんなよく分からない問答をしながらクロエを抱えて庭まで歩いてきたが、本当におとなしいのな。普通はもっと暴れると思うし、こんなにも身を預けてこないだろう。
庭の真ん中あたりまで来たので、クロエを降ろしてやる。キョロキョロと周りを物色し、ゆっくりを歩きながら地面の感触を確かめているようだ。
「さぁクロエ、存分に楽しむといい。ここでは自由だぞ」
「いっぱい遊ぼうね!」
俺とサクラコが頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。多少は俺達に慣れてくれたようだな。
すると突然クロエが走り出した。それはもう元気に、まるで吹っ切れたかのように。清々しい走りっぷりだ。
「いやぁ、元気だなぁ……っておいおいまだ繋牧用の綱繋いでないぞ!サクラコ、クロエを捕まえてくれ!」
「駆けっこだね!わたし速いんだよー!」
「違うっ!あぁもうなんだこれ!」
クロエの敷地内からの脱走を危惧して捕まえてくれと頼んだものの、どうやら遊びと勘違いするサクラコ。傍から見れば楽しそうに見えなくもない光景だが、俺だけ真面目にやべぇやべぇと焦っていたのだった。
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