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閑話-小さなお客さん
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ある日の暮れの事。
夕飯を済ませてゆっくりと自分の時間を過ごしていたが、元気な呼び声が掛かる。
「孝文ー!来たよー!」
「お、今日も来たか」
サクラコに呼ばれて俺は、小さな来訪者の相手をする事となる。
リビングに向かうと、サクラコが窓を見つめていた。
「今日はどんな感じだ?」
「大きいのが1匹に、小さいのが2匹!」
窓を見ると、そこにはヤモリが3匹張り付いていた。
そう、来訪者とはこのヤモリの事である。
先週あたりから夕飯を済ませたあたりの時間帯に大きなヤモリが窓に張り付きだし、日を追うごとにどんどんと増えていったのだ。
この2匹いる小さなヤモリはおそらく大きいヤモリの子供だろう。子連れでの来訪なんて、我が家はファミレスじゃないんだぞ。
だが、ヤモリが現れるのは良い事だ。ヤモリは漢字で書くと「守宮」や「家守」と書かれることがある。つまり、家を守ってくれる縁起の良い生き物なのだ。
臆病な性格だからこそ人間に害を与えないし、それでいて毒も持っていない。しかしながら主食がシロアリやワラジムシ、はてはゴキブリだったりと家を脅かす害虫なので人間にとっては良いこと尽くしの益獣なのだ。
……まぁ、裏を返せば餌である害虫が豊富って事なんだろうな。
「今日も子供を連れてきたな」
「でも、お父さんいないのかなぁ」
そうか、サクラコはこの大きいヤモリを母ヤモリと思ったのか。
ヤモリの雌雄の判別はどうやるのかは知らないが、確かに子連れだと母親だと思ってしまうのはなんか分かるな。
「まぁ、子連れって事はどこかにお父さんがいるかもしれないな」
「そうだね!」
サクラコはキラキラした目でヤモリたちを見つめている。
この反応を見ると、昔の事を思い出すな。
◇
あれは確か俺がまだ中学生の頃だっただろうか。
教室で授業を受けていて、急に女子が叫びだして何だと思って見てみると、窓に一匹ヤモリが張り付いていたんだよ。
それを見た女子は「キモい」だの「汚い」だのと叫んでいたが、ヤモリの気持ちも考えてみてほしいものだ。
ただひたすらに生きるために餌を探して迷い込んだのであろうヤモリにそんな罵声を浴びせる必要は無いだろう。
そんな事を思いながら止める事もせずただ眺めていた俺だったが、この状況は一人の女子生徒によって一遍したんだよな。
その子は動物や昆虫が大好きで、動物保護のボランティアまでしているような子だった。だけど、そんなにクラスメイトとは打ち解ける様子はなく、学校生活は友達らしき人を作る事も無くただ寡黙に授業を受けてるだけが印象に残っているような子。
そんな子が突然騒いでる女子達に対し、「ヤモリだって必死に生きてるんだからそんな酷い事を言うのは止めて!」と止めに入ったのだ。
俺はただただ感心した。そんな事を突然に言い出したら空気もピリつき、悪口の対象はその子に変わってしまうだろう。
案の定、その後騒いでいた女子達の悪口の対象はその子に変わっていたよ。
先生が途中で止めに入ってくれたからその場は何とかなったが、それ以来その子は女子達からは毛嫌いされていた。
その子は悪口を言われていようが何食わぬ顔でその後の学校生活を過ごしていたが、俺はその子の勇気にただただ感心し、何度か話しかけに行ったっけなぁ。
最初は「何で私なんかに話しかけてくるんだ?」と言わんばかりに不思議そうな表情をしていたが、俺も動物が好きだと分かると次第に表情が和らいでいった事を覚えている。
中学を卒業してからは一度も会っていないが、あの子は今何をやっているのかな。きっと、今では動物に関わる仕事にでも就いているんだろうな。
◇
「サクラコは優しいなぁ」
俺は中学時代のその子の事を思い出し、サクラコと重ねてつい口に出してしまった。
「うん?何か言った?」
どうやら、聞こえていなかったらしい。
「いいや、何でもないよ」
聞こえていなければそれでいいさ。
サクラコの動物を慈しむ気持ちをずっと忘れることなく大人になってくれることを願いつつ、昔の事を思い出しながら夕飯終わりの優雅な時間を過ごしていくのだった。
夕飯を済ませてゆっくりと自分の時間を過ごしていたが、元気な呼び声が掛かる。
「孝文ー!来たよー!」
「お、今日も来たか」
サクラコに呼ばれて俺は、小さな来訪者の相手をする事となる。
リビングに向かうと、サクラコが窓を見つめていた。
「今日はどんな感じだ?」
「大きいのが1匹に、小さいのが2匹!」
窓を見ると、そこにはヤモリが3匹張り付いていた。
そう、来訪者とはこのヤモリの事である。
先週あたりから夕飯を済ませたあたりの時間帯に大きなヤモリが窓に張り付きだし、日を追うごとにどんどんと増えていったのだ。
この2匹いる小さなヤモリはおそらく大きいヤモリの子供だろう。子連れでの来訪なんて、我が家はファミレスじゃないんだぞ。
だが、ヤモリが現れるのは良い事だ。ヤモリは漢字で書くと「守宮」や「家守」と書かれることがある。つまり、家を守ってくれる縁起の良い生き物なのだ。
臆病な性格だからこそ人間に害を与えないし、それでいて毒も持っていない。しかしながら主食がシロアリやワラジムシ、はてはゴキブリだったりと家を脅かす害虫なので人間にとっては良いこと尽くしの益獣なのだ。
……まぁ、裏を返せば餌である害虫が豊富って事なんだろうな。
「今日も子供を連れてきたな」
「でも、お父さんいないのかなぁ」
そうか、サクラコはこの大きいヤモリを母ヤモリと思ったのか。
ヤモリの雌雄の判別はどうやるのかは知らないが、確かに子連れだと母親だと思ってしまうのはなんか分かるな。
「まぁ、子連れって事はどこかにお父さんがいるかもしれないな」
「そうだね!」
サクラコはキラキラした目でヤモリたちを見つめている。
この反応を見ると、昔の事を思い出すな。
◇
あれは確か俺がまだ中学生の頃だっただろうか。
教室で授業を受けていて、急に女子が叫びだして何だと思って見てみると、窓に一匹ヤモリが張り付いていたんだよ。
それを見た女子は「キモい」だの「汚い」だのと叫んでいたが、ヤモリの気持ちも考えてみてほしいものだ。
ただひたすらに生きるために餌を探して迷い込んだのであろうヤモリにそんな罵声を浴びせる必要は無いだろう。
そんな事を思いながら止める事もせずただ眺めていた俺だったが、この状況は一人の女子生徒によって一遍したんだよな。
その子は動物や昆虫が大好きで、動物保護のボランティアまでしているような子だった。だけど、そんなにクラスメイトとは打ち解ける様子はなく、学校生活は友達らしき人を作る事も無くただ寡黙に授業を受けてるだけが印象に残っているような子。
そんな子が突然騒いでる女子達に対し、「ヤモリだって必死に生きてるんだからそんな酷い事を言うのは止めて!」と止めに入ったのだ。
俺はただただ感心した。そんな事を突然に言い出したら空気もピリつき、悪口の対象はその子に変わってしまうだろう。
案の定、その後騒いでいた女子達の悪口の対象はその子に変わっていたよ。
先生が途中で止めに入ってくれたからその場は何とかなったが、それ以来その子は女子達からは毛嫌いされていた。
その子は悪口を言われていようが何食わぬ顔でその後の学校生活を過ごしていたが、俺はその子の勇気にただただ感心し、何度か話しかけに行ったっけなぁ。
最初は「何で私なんかに話しかけてくるんだ?」と言わんばかりに不思議そうな表情をしていたが、俺も動物が好きだと分かると次第に表情が和らいでいった事を覚えている。
中学を卒業してからは一度も会っていないが、あの子は今何をやっているのかな。きっと、今では動物に関わる仕事にでも就いているんだろうな。
◇
「サクラコは優しいなぁ」
俺は中学時代のその子の事を思い出し、サクラコと重ねてつい口に出してしまった。
「うん?何か言った?」
どうやら、聞こえていなかったらしい。
「いいや、何でもないよ」
聞こえていなければそれでいいさ。
サクラコの動物を慈しむ気持ちをずっと忘れることなく大人になってくれることを願いつつ、昔の事を思い出しながら夕飯終わりの優雅な時間を過ごしていくのだった。
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