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パパラッチフィーバー!

パパラッチフィーバー11-3

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おれは仕事がすむと、ありすちゃんが取ってくれたホテルへの部屋に入った。
どさりと荷物を置くと、ベッドへと倒れ込む。
ジクジクと、胸が痛い。
この胸の痛みはなんの痛みだろう。
おれは、ベッドに仰向けになると天井を見つめる。
一人のベッドは広い。
広すぎて寒い。
おれはスマホを取り出すと、凛とのLINEトークを開く。
『今、何かしてる?』
おそらく、凛もメンバーと一緒にいるか、ホテル住まいのはずだ。
しばらくして、凛から返信がある。
『いま清十郎の家にいる。清十郎は今フロ。どうかした?』
『いや……ちょっとやな事があって……話しかけただけ』
すると、すぐに凛から着信があった。
こんな時の行動、早いよな。
さすがは親友。
『なんだ、どうした?』
凛は努めて明るくおれに話しかける。
「今から言うおれの話を聞いて、引かないでくれるか?」
おれの真剣な言葉に、電話の向こうの凛が居住まいを正す音がした。
『おう。真面目な話なら、真面目に聞く』
おれは凛の言葉に自分の口を開きかけて、そのまま閉じる。
心臓がドキドキと高鳴って、じっとりと変な汗が出た。
凛は真面目に聞いてくれるはずだ。
けど、万が一。
気持ち悪いと突っぱねられたらーー。
おれは頭を振ると、ふうと大きく息を吐いた。
「おれーー綾斗と……その、した」
『したって……え?そう言う意味でのシたって事?』
「……うん」
『……嘉神と付き合うことにしたの?』
「ーーいや」
『え?』
「なんで言ったらいいのか分かんないけど……泊まってる時にそういう雰囲気になって、でもやっぱおれが腰が引けて……待ってって言ったのに待ってもらえなかったと言うか」
『………』
凛が息を飲む音が聞こえる。
「や、やっぱこんな話気持ちわりーって思うよな……」
『じゃなくて!』
「……え?」
『それって……秋生の意思を無視してってことだろ?』
「……うん」
『嘉神、最悪じゃん。好きな人の気持ち無視するとか……もうそれレイプじゃん!』
レイプ。
その言葉に、おれは胸の中が焦げ付くように痛んだ。
この痛みはなんだ?
「……っ」
『あっ…でかい声出して悪い……つい、ムカついちゃって……』
「いや……気持ち悪がらずに聞いてくれてサンキュー」
ジクジクと胸が痛む。
凛はおれのために怒ってくれたのに、綾斗のことを悪く言われて腹が立っている自分がいた。
なんでだ。
さっきまで、綾斗のことをひどい奴だと少なからず思っていたのに。
自分自身の考えの揺れ具合に嫌気がさす。
『……で、何を悩んでるの?』
「わからない……頭の中がぐしゃぐしゃで…何を悩んでるのか、何が悲しいのか、何が辛いのかがわからないんだ……」
おれの言葉に、凛はすこし間を置いて言葉を選びながら聞いた。
『秋生は……嘉神のことをどう思ってるの?』
凛の言葉に、胸がズキリと痛む。
「………どう、なんだろう」
『嫌いじゃないんだね?』
「うん……」
『その…昨日以外にキスとか…されたことは?』
「ある」
『その時、どう思った?』
「嫌じゃ……無かった」
そう、嫌では無かった。
むしろ、離れるのが寂しいと思ったことさえあったのだ。
おれは、胸の奥に潜む微かな気持ちの正体に気づく。
おれが黙ると、凛は優しげに吐息だけで笑ったような気配がした。
『あとは……自分でわかりそうだね』
遠くで凛を呼ぶ声が聞こえる。
「ああ……ちゃんと自分で考えてみる」
『前にも言ったけど……おれは、秋生が幸せになるなら相手が誰でも応援するからな!』
「ああ、それはおれもだ」
少しだけ、気持ちが浮上する。
「話聞いてくれてーーありがとうな」
『親友の悩みくらい聞くさ!』
おれはベッドから起き上がると、見えない凛に向かって頭を下げる。
電話が切れると、おれは持ってきたギターをケースから出した。
譜面と鉛筆を出してギターを構える。
おれは、迷いながらも一つの結論を出した。
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