朝比奈歩 短編集

朝比奈歩

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一話完結作品

気になるあいつは窓際にいる

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――あーヤバイ……寝そう。
亨はあくびを噛み殺し、なんとか意識を保とうと窓際に視線をやった。
視線の先には、クラスメイトの姿。
名前は、御堂将之みどうまさゆき
整った横顔を俯かせて、几帳面にノートを取っている。
よくもまあ、こんな単調な授業を眠くなりもせずに聞いていられるものだ。
亨は感心すると、将之をじっと見やった。
通った鼻筋、長いまつ毛、くっきりとした二重の目。
どれをとっても美形だ。
おまけに勉強も出来る。
残念ながらスポーツも万能だ。
非の打ち所がない。
亨はため息をついた。
不意に、将之が顔を上げ視線を亨に向ける。
目線が合うと、将之はフッとその表情を和らげた。
そして、その顔に綺麗な微笑みを浮かべる。
――へ?
亨はポカンと口を開けると、持っていたシャープペンシルを取り落とした。
カシャン、と静かな教室に音が響き渡る。
「こら、山﨑!ボーッとしてないでさっさと拾え!」
「あ……っ。……スンマセン」
亨は何が何だかわからないまま、自分の頬が熱くなっているのを感じる。
ただ、視線があった。
笑顔を向けられた。
それだけなのに。
眠気なんて、どこかに飛んでいってしまった。
亨は、再び将之を目で追う。
もう、将之は視線を黒板に戻していた。
ホッとしたような、残念なような、不思議な感覚。
亨は小さくため息をついた。
笑顔ひとつで、振り回させるなんて。
亨は、ノートに小さく将之の名前を書く。
そして、ハッとしたようにぐちゃぐちゃと消した。
――なにやってんだ、おれは。

気になるあいつは、窓際に居る。
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