龍の王〜Lord of Bahamut〜

朝比奈歩

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永泰の夜

第十一話 2

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三日ほどそれを続けた時、ふとこの絵を道で広げてみようという気になった。
もしかしたら、誰かがこの二人のことを知っているかもしれないと、そんな興味も有ったからだ。
明明は昼の仕事を終えると、描いた絵を持って目抜き通りへ出かけた。
もっとも、この貧民街ではも抜き通りと言っても、数人の物売りがいる程度。
中には物乞いもいる。
絵など買ってくれるわけはないと思いながらも、明明は絵を広げて待ち続けた。
一刻ほどそうしていたが、絵を買うどころか見向きもされない状況に、明明は流石に諦めようと絵を仕舞いかける。
そこに、貴人が通りかかった。
明明は
「なぜこんなところに貴人がいるのか」
「なぜ自分のようなものから絵を買う気になったのか」
など、本来気になる筈のところが全く気にならなかったことに、気付いてすらいなかった。
絵が売れ、薬と食べ物を買い意気揚々と帰った明明は、取り憑かれたようにその後も絵を描き続けたのである。
しかし、彼の絵で死人が出た。
直接の関係はないというが、それでも全く関わりがないわけではない。
明明は、もうあの絵を描くのはやめようと決意した。
ーー筈だった。
なのに、なぜか夜になると自らの意思とは別に、ふらふらと平安寺へ向かってしまうのである。
いよいよ、明明は怖くなった。
そんな折に、ユースィフ達がやってきたのである。

「なるほど……」
見れば、明明の目には隈が浮いている。
何日も夜も寝ずに絵を描き続け、昼は母親の看病をしていればそうなるだろう。
ユースィフは思案げな表情を浮かべた。
「あの……柚先生」
おずおずといったように明明はユースィフに声をかける。
「ん?なんだ」
「柚先生にも、あの人たちが見えるんですか?」
明明の問いにユースィフは笑う。
「ーーああ、見えるぞ」
ユースィフの答えに、明明は少しだけ安堵したような表情を浮かべた。
「良かった……ぼくだけじゃなかったんですね」
「ああ。しかし……このまま放っておくわけには行かない」
「え?」
「このまま毎夜出歩いていたのでは、君がいつか倒れてしまう」
「……はい」
ユースィフは「うん」と独りごちると、その顔に笑顔を乗せる。
「とりあえず、今日は帰ろうーー」
ユースィフの言葉に、一同は揃って平安寺を後にした。

「ーーで、どうするんです?」
景興は、アスアドの背に揺られて眠る明明の顔を見ながら、ユースィフに問う。
「そうだなぁ」
ユースィフは頭の後ろで手を組みながら空を仰いだ。
「景興殿が手がかりをくれたお陰で何となくやることは見えて来たんだが……になるものが見つかってない」
「肝になるもの?」
「ああ」
「それは何です?もったいをつけるのはあなたの悪い癖だーー」
景興の言葉に、ユースィフ以外の四人は苦笑いをした。
彼らは今でこそ慣れてしまったが、あまり付き合いのない人間ならそう思うだろう。
「ーー遺灰さ」
ユースィフは、景興の言葉に笑いながら言った。
「遺灰?」
「そう。羊桂英の、遺灰だよ」
「なぜ、そんなものが要るのです」
それには答えず、ユースィフは明け始めた空に視線をやる。
「何でだろうなぁ」
「あなたも、わかっていないのですか?」
「半々ってところだな。予想はついてるが、確信じゃない」
「では、その予想とやらをお聞かせ願いたい」
「まあ、それは見つけてからの楽しみということにしよう」
「あなたという人はーー」
景興のため息に、四人は再び苦笑をした。
こうやって、皆このユースィフという人間に囚われていくのである。


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