龍の王〜Lord of Bahamut〜

朝比奈歩

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永泰の夜

第十五話 2

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平安寺は朝に来ても相変わらず寂れていた。
五人は門を通り、庭をぬけ、墓碑の前までやってきた。
「そもそも、明明がいなくても、あの男は現れるのでしょうか?」
ジュードはそう言って墓碑を見上げる。
「さあな。しかし、現れなきゃ終いだ」
ぶっきらぼうにそう言うハーシムを睨むと、ジュードは再び墓碑へと視線をやった。
「まあ、物は試しだ。やってみよう」
ユースィフは懐から羊桂英の遺灰を取り出すと、サラサラと墓碑に巻く。
一同はごくりと唾を飲むと、男が現れるのを待った。
「……出ませんね」
士英の言葉に一同がため息をつく。
「やっぱり、夜じゃないからでしょうか……」
「どうでしょう……」
と、次の瞬間、生温かい湿った風が五人の頬を撫で上げた。
「ーー来たか!」
朝にも関わらずどこからか雲が現れると、陽の光が翳りあたりはまるで食の時のように薄暗くなる。
ふわり、ふわりと「もや」がわだかまり、人の形を作ってゆく。
それは次第に『二人』の人影になると、ゆらゆらと五人の前に姿を表した。
今度はジュードたちの目にも『二人』の姿が見える。
二人はユースィフたちを見下ろすと、その口を開き、声にならない声をあげる。
「ーー何か言っているようですね」
「礼でも言ってるんじゃないのか?」
「いえ、違いますーー」
ジュードは注意深く、二人を観察する。
二人は悲しげな顔で一同を見つめると、女ーー羊桂英の口が閉じたり開いたりし何かを訴えかけた。
「何かを言っていますが……私には堯語がわからない」
「なんだよ、まだ何かあるって言うのかーー」
ハーシムが頭を掻きむしると、再び羊桂英は口を開く。
尭語と聞いて、今度は士英が注意深く羊桂英の口元を見た。
「か」
「ん」
「ざ」
「し」
「ーー簪?」
士英がそう繰り返すと、羊桂英は頷いて自らの髪を指さす。
「おい、ちょっと待て。どの簪のことだ」
ハーシムが困ったように言うと、ジュードは肩をすくめる。
「どんな簪でもいいーーというわけではないでしょうね」
「かといって、高級なものであればいい、というわけでもないでしょうし……」
士英はため息混じりにそう言った。
「あの……」
おずおず、といった体で声を上げたアスアドに、ハーシムは面倒そうに視線をやる。
「ーーなんだよ」
「簪、というのは髪にさす飾りのことですよね」
「それ以外に何があるんだよ」
イライラしてそういうハーシムをわずかに睨むと、アスアドはユースィフに向き直った。
「そのーーおれが思うに、その簪とは、羊桂英が自害するときに使った簪ではないでしょうかーー」
「あっ!」
合点したようなジュードの声に、ユースィフは頷く。
「うん、オレもそう考えていた」
ユースィフの賛同を得て、アスアドはホッと安堵の吐息をついた。
「よく思いつきましたね」
感心したように士英が言うと、アスアドは口籠る。
「それはーー印象に残っていたからです。簪で自害するのは難しい」
景興の話を聞いたとき、女性の力で刃のない簪を刺し、死に至るというのは相当の力と覚悟がないとできない芸当だと、武芸を嗜むアスアドは思ったのだ。
「で、その簪とやらはどこにあるんだ?」
「それは、おれにはーー」
ハーシムの言葉にアスアドの困った顔を見て、ユースィフは何事か考える。
「仕方ない。蜻蛉返りになるが、1番知っていそうな人間のところへ行くか……」
「え、それは誰です?」
ジュードの言葉に、ユースィフは笑顔で答えた。
「円覚のところさ」
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