笑顔は最大の特効薬

長津九季

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二作目

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 ホラーを書こうと思っていた春樹だが、そういう話は興味がなく、かと言って霊やお化けなどを見た経験もない。
「ホラー小説を持ってこいだって?」
「ああ。こうなったら挑んなことのないジャンルを描こうと思う。なんでもいい。2冊くらい持ってきてくれないか。」
「別にいいけど、締め切りには間に合わせなさいよ。」
 都築に何か頼むは嫌だが、他に頼むアテがない。とりあえず、ホラーを書く前に執筆途中の原稿を書き終えようと続きを書く。
 書くのに集中していたからなのか、隣のベットに明日香がいないのを今になってやっと気づいた。検診に来た看護師に聞いてみた。
「田崎さんですか?確か今日はCTと血液検査の結果の報告日ですよ。そのうち戻られると思います。」
「あの、田崎さんってなんの病気なんですか?」
 看護師は周りを見渡して耳打ちしてくれた。
「白血病です。」
「え?」
「あんな若いのに重たい病気にかかってしまうなんて運命は残酷ですね。」
 看護師はそう言って病室を出た。運命なんてそんな一言で済ませられるものなのだろうか。
 しばらくすると明日香は戻ってきた。笑顔のイメージしかない彼女からは想像できないほど、無表情というより悲しみが張り付いているような顔をしていた。
 春樹と目が合うと明日香は無理矢理笑った。
「すみません。暗い顔をしちゃって。書けたんですか?ホラー小説。」
「いや、まだですけど。大丈夫ですか?」
 大丈夫ですか?なんてもうちょっとマシな質問はできないかと春樹は自分に言いたかったが、一度吐いた言葉は飲み込めない。
「大丈夫ですよ。ちょっと入院が延びるだけですから。」
 明日香は笑って答えてくれた。明日香は知らないが、春樹は明日香が白血病を患っていることを知っている。そのせいなのか他にどんな言葉をかけたらいいのか春樹はわからなかった。
「私、実は白血病なんです。」
 明日香は自分の病気を告白した。
「高校卒業と同時に体が重たくなったように感じて、病院で検査したら白血病って診断されました。骨髄の適合者が見つかって手術して治ったと思ったんですけど、大学2年生の時に再発しちゃって、また入院。今日検査結果を聞いて、明日からお薬を強いのにしましょうって言われたんです。その代わり副作用が酷くなるって言われて。ちょっと怖かったんです。これからどうなるのかなって。でも、どんな薬よりも効果があるものを私見つけたんです。それは笑顔です。心の底から笑顔になれば病気をやっつけられるかもしれないって。だからどんなに辛いことが遭っても笑顔でいようって決めたんです。」
 明日香が笑顔なのは完治して退院したいというサインだった。春樹は無理矢理作った笑顔じゃ効果は無いと思った。
「すみません。ホラーは作らないです。」
 春樹の言葉に明日香は驚いた顔をした。
「笑顔が病気に勝てる手段なら俺は笑顔になるような話を書きます。あまり作ったことないから探り探りですけど、あなたに元気になってもらってまた感想を聞かせてほしいんです。元気になったらその時はホラーを書きます。感想も聞かせてください。」
 すると明日香は手を伸ばした。握手を求めてきたのだ。
「なら、お互い頑張らないといけないですね。私は病気に勝てるように。春樹さんは私を笑顔になれるような作品を作れるように、ね。」
「わかりました。お互い頑張りましょう。」
 そう言って春樹と明日香は握手を交わした。
 その翌日から春樹は明日香を笑顔にするための執筆に取り掛かった。記念すべき一作目は特別感のない家族がほのぼのと日常を過ごすという話だった。タイトルは「今日はどこに行こう」。
「試しに書いてみました。よかったら感想を聞かせてください。」
 明日香は春樹から本のデータをもらうと早速タブレットで読んでいた。
 感想はその日の夜に返ってきた。
「春樹さん。読ませていただきましたけど、少し単調すぎます。あと、子供の気持ちになりきってください。あんな大人染みた子供いないですよ。ませた子供でもここまでひどくはないです。次回作、楽しみにしてますね。」
 この言葉に触発されたのか、春樹は思いつく限り物語を書き続けた。短編すぎてもいい。物語を読んで面白かったと笑顔で言ってくれる明日香を見たい。その一心で春樹はパソコンとにらめっこを続けた。
 二作目は男子校生3人組が近所の言い伝えの真実を確かめに行くという話。「ありがちな話」というタイトルにした。三作目は真逆で女子高生があんな男がいたとか、こんな女がいたとかで盛り上がる女子会の話を書いた。タイトルは「吐き出しの会」。
 しかし、感想は満足いくものではなかった。そのうち春樹は笑顔がわからなくなった。どうすれば明日香は笑顔を見せてくれる?どんな話をすれば彼女は満足したと思うことができるだろうか?書いて消して書いては消しての繰り返しだった。
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