人形屋

炊き込みご飯

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人形屋

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序章 始まり
 とある小さな町に人形屋と呼ばれる洋館があった。そこにはありとあらゆる人形が置いてあった。けれどもその館は繁盛しているわけではなく、洋館の主は町の人達すら見たことがなかった。やがて忘れ去られ、その洋館が何であるか知る人はいなくなった。
 これはそんな忘れ去られた洋館の物語。

「話を始めましょう。さあ、どうぞお掛けになって?」



第一章 訪れ
 古い洋館に二人の警官が訪れた。若い男が口を開いた。
「おい。こんなおんぼろな洋館に本当にいるのか?」
四十代後半の男がため息をつきながら、
「しょうがないだろ、ジョン。上は必死なんだから。あの殺人鬼の情報が少しでもあれば上は満足なんだろうな」
「あーやだな。何で俺らがこんなことやんなきゃならねーんだよ!」
「文句言ったって帰れないからな。ちゃっちゃと終わらせて帰るぞ」
ジョンと呼ばれた若い男はため息をつくと乱暴に門を開いた。
「こんなところにいるわけ無いだろ!」
まだ文句を言いつつも洋館の中に入り、辺りを見回した。
「うわ・・・・・・。ボロいなぁ」
「あちこち床が抜けているな。とてもじゃないが住もうとは思えない」
「もう上にはなんもなかったって言おうぜ」
「さっさと見て帰るか。ロビーをざっと見て何も無かったら帰るぞ」
「あいよ。センパイ」
そう言うと二人は手分けして探索し始めた。
「ん? 人形?」
ボロボロの床にこれまたボロボロのアンティークドールが置いてある。
「どうした、センパイ?」
「いや、人形を見つけて・・・・・・」
そう言うとジョンは怪訝そうな顔をしながらこちらにきた。
「どれどれ・・・・・・本当だ。ボロボロだな」
「何か呪われそうだな」
「気味が悪い。早くここを出よう」
「そうだな、ジョン」
二人は踵を返すと早足で出口に向かった。しかし、扉はどうしてかびくともせず二人は他の出口を探すことにした。その時、先ほどの人形が二人のことを見ていた何て二人は知るよしも無かった。


第二章 人形
昔の話をしましょう。私には夫がいました。しかし、夫は私を置いて、先に逝ってしまいました。私は多分寂しくて人形を作っていたのでしょう。次第に人形作りに熱中してきて気付けば館は人形だらけになっていました。その頃から近所の人達とは交流がなくなっています。今じゃ誰一人この館には訪れません。・・・・・・いえ。違いますね。貴方が来てくれましたね。えぇ、とても、とても嬉しいです。・・・・・・え? いつの話をしているのかって? ・・・・・・さぁ、いつの話でしょう。そうこうしているうちにお茶の準備ができましたよ。それと・・・・・・新しいお客様が来たようですね。お出迎えしなければ。

「冗談じゃないぞ・・・・・・。何でどこの扉も開かないんだ?」
「センパイ、窓に椅子をぶつけてみたんだが、全く割れる気配がない・・・・・・」
「どうなっているんだ。・・・・・・奥に進めってことか?」
「絶対行きたくねぇ・・・・・・」
「絶対何かいるだろ・・・・・・」
怖がらなくてもいいのよ。
「何か言ったか?」
「え? なんも言ってないぞ」
早くいらっしゃいな。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
あら? どうしたの?
「・・・・・・なあ」
「・・・・・・なんかいるな」
そんなに怖い顔をしないで。私はあなた方を取って喰おうなんてしないから。お茶でも飲みながらお話ししましょう。
「それは本当なのか?」
「暗闇で喋ってないで出てこい。じゃないと信用できない」
・・・・・・なら姿を見せるけど驚かないでね。
「ひっ!」
「・・・・・・あんた人間じゃないな」
ごめんなさいね。驚かせるつもりではなかったのよ?
「あんた、その体は・・・・・・」
「まんま等身大のアンティークドールだな」
えぇ、私はこの体を気に入っているのだけれど、皆私を見ると怖がるのよ。
「そりゃ等身大のアンティークドールが口をカタカタさせながらぎこちなく近づいてきたら誰だってびびるわ!」
「心臓に悪い・・・・・・」
そんなに早口にならなくてもいいのに。さあ、お茶にしましょう。先に別のお客様がいるけど大丈夫よね?
「センパイ、どうします?」
「別に襲ってこないならいいが・・・・・・」
なら、大丈夫ね。こっちよ。


第三章 思案
変なのに会ってしまった。そうジョンは思った。突然声が聞こえたと思ったら等身大のアンティークドールがひとりでに動いていたのだ。センパイは何か策があるのか、あの人形についていくことにしたが改めて見ると思った以上に気味が悪い。指の関節と口は人形のそれだし、肌は陶器で出来ているようだった。ただ、今の時代には合わない、西洋風のドレスを着ている。そしてこの人形はどこかで見たことがあるような気がする。どこだったか? ・・・・・・この人形、ロビーに置いてあったものとそっくりだ。まさか、同じものか? 最初から俺らを見ていたのか?
「さあ、ついたわよ。どこに座ってもいいわ。楽にしてね」
そう言われて辺りを見回して絶句した。大量の人形、人形、人形、人形。そして、一つだけ椅子に座った人形の顔が――

「指名手配の殺人鬼・・・・・・」

ぽつりと、そうこぼしてしまった。
「・・・・・・あら、そうなの?」
まるで今気が付きましたという口振りで人形が訊いてきた。わざとらしい口振り。椅子に座っている人形は嫌にリアルだ。あれは本当に人形なのか? 嫌な想像をしてしまう。そんな気持ちを振り払うために椅子に座り、人形が用意したお茶に口をつける。普通の紅茶の味がして少し落ち着いた。ふと、人形のほうを見ると、人形も紅茶を飲んでいた。一体どうやって飲んでいるんだ、あれ? 気を紛らすためにそんなことを考えてしまう。
「うふふ、こんな短期間にお客様が三人もくるなんて初めてだわ」
人形は口をカタカタさせながらそう言った。やはり、人形が動くってのは気味が悪いな。居心地が悪く、身動ぎをした。相変わらず先輩は仏頂面である。そのまま、無言のお茶会が終わり、何事もなかったかのように人形が
「さ、お開きにしましょう。門までおくるわ」
と言った。
結局、殺人鬼のことは聞けずじまいで本部に帰ってきてしまった。しかし、終始当たり障りのない話をしていた先輩が俺の方を向き、こう言った。
「殺人鬼は行方不明。いいな?」
「は?」
どういうことだ?
その言葉どうり、先輩は本部に洋館に殺人鬼はいなかったと報告した。俺はその日の夜に先輩から呼び出しを受けた。

「センパイ! 本部に虚偽の報告をするなんて何てことしているんですか!」
「まあ落ち着け。俺がこれから虚偽の報告をした理由について話すからお前はとりあえず座れ」
「はぁ? まあ理由があるなら聞きますけど・・・・・・」
「あー、うん。どこから話そうか・・・・・・」
「センパイ、勿体ぶらないで下さい」
「分かってるよ。そうだな・・・・・・。お前はオカルト系は嫌か?」
「? まあ、普通ですかね」
「簡単に言うとあの洋館は呪われている。入ってきた者は洋館のルールに従わなければ、生きたまま人形にされる」
「え・・・・・・」


第四章 真実
とある地域におとぎ話があった。
町一番の洋館には仲のいい夫婦が住んでいた。けれども、不幸なことに二人の間には子供が産まれず、夫は若くして亡くなった。それを嘆いた妻は夫に良く似た等身大の人形を造った。次に、二人の特徴を取り入れた子供の人形を造った。彼女はまるで取り憑かれたかのように人形を造り続けた。洋館は瞬く間に人形で埋め尽くされた。それでも、彼女は人形造りをやめなかった。やがて彼女自身も年老い、亡くなった。しかしその時造っていた陶器の人形に彼女の魂が宿った。その後、洋館自体が一種の異空間になってしまった。人々は恐怖した。洋館には独自のルールがあった。
曰く、彼女の言う通りに行動する。
曰く、館の人形を壊してはならない。
ルールは少なく、簡単だったが守れない者が多かった。その者達は一生、自我を保ち人形のまますごすことになった。


終章
「・・・・・・と言うわけだ。俺はこの話を知っていたから何もしなかったし、本部にも何もなかったと伝えた。お前はこれ以上詮索するな、いいな?」
「・・・・・・はい」
先輩から聞いた話は到底信じられる話ではなかったが真剣に話しているため返事をしてしまった。その日はそのまま帰って行った。

二日後、洋館に再調査に行った同僚二人が行方不明になった。同僚は先輩の報告に疑問を感じ、独断で調査に行ったそうだ。











「・・・・・・と言う話よ。時には秘密にしておいた方が良いこともあるの。・・・・・・でも、秘密はとっても甘いモノよね・・・・・・」
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