ニュクスの眠りに野花を添えて

獅子座文庫

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夕食を終え、ベッドに沈み込んだラニエラは大きく息を吐く。
今日は部屋の前を行き来する人が多くて気が張っていた。
今頃オルテガは同じように寝所で休んでいる頃だろうか。
一年越しに帰還したというのに妻が出迎えもしない事に怒っていないだろうか。
きっと明日から、使用人たちは今まで以上に自分を白い目で見るだろう。
明かりもそこそこに、ラニエラは夜になるとそんな事を考える。
この城のシェフが作る桃のタルトが美味しくてつい食べ過ぎてしまったせいで、消化を促そうとぐるぐると胃が唸っている。
このままでは眠れそうにないと、ラニエラはベッドから立ち上がってバルコニーに向かった。
二階にあるこの部屋には、それなりに広いバルコニーがある。
ラニエラは夜になると窓を開け、夜風を浴びるのが好きだった。
肌寒い季節にはなって来たが羽織を取りに戻るのも億劫で、ラニエラは薄着のまま窓に手を掛ける。
開けるとスーッと新鮮な空気が部屋に流れ込んできた。
全開にして素足のままでバルコニーに足を踏み入れる。
大きく深呼吸をすると、ほんの少しだけ前向きになれる気がするのだ。
空気が淀んでいると気持ちまで淀んでしまうものだ。
明日になったら、ちゃんとオルテガに会って「おかえりなさい」と言おう。
それから出迎えられなかった事をきちんと謝罪して—…そう前向きに考えていたのに。
「ぁ…」
自分を見上げるその人に、鋭い視線に、頭が真っ白になった。
考えもしなかった。
こんな夜遅い時間に、誰かいるなんて。
視線が確実に交わった瞬間、強い風が吹いた。
力が抜けていたラニエラの体はいとも簡単に風に揺れて、テラスに両手をついた。
その時に名前を呼ばれた気がして顔をあげると、もう一度強く風が吹く。
訳も分からぬまま体が軽くなって、視界に映る世界はゆっくりと上下逆さまに回っている。
バルコニーから落ちたと理解した時にはもうどうしようもなくて、ラニエラはきつく目を閉じて歯を食いしばった。
どうせ死ぬなら桃のタルトをお腹がはち切れるまで食べておけばよかった—…。
そんな事を思ったのが最後に、ラニエラの意識は途絶えた。











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