コガレル

タダノオーコ

文字の大きさ
27 / 75
恋の嵐

3

しおりを挟む



「兄貴のこと好きなの?」

ドラマがCMに変わると准君が聞いてきた。
驚いて振り返ると、相変わらずスマホをいじってる。

何も答えられないでいると、准君が続けた。

「兄貴いいやつだよ、ガキだけど。
それに、」

弟にガキ扱いされる圭さん。
確かに初めはクールで取っつきにくい印象だったけど、感情の起伏が激しくて、単純で実は甘えたがりで子供っぽい一面を知った。

逆に目の前の准君は親しみやすく見えて、その実あまり感情を表にさらけ出さない。
お兄さんより間違いなく複雑にできてる。

それに、と言ったまま准君は言葉を続けなかった。
私が余計なことを言う前に、この会話を終わらせるチャンスだったのに続きが気になった。

「それに?」

准君はスマホから顔を上げた。
感情のない目で私を見た。

「ああ見えて、本当は優しい人だよ。
俺が母親を殺したのに、一度も責められたことはないし」

その時、バンッと部屋のドアが開いた。
帰宅した圭さんが、ノックもしないでいきなり開けた。

扉が弧を描いて起こした風と、圭さんの存在が部屋の空気を一変させた。

圭さんの視線は准君から私へ、それからテレビへと流れたのは確実だった。
再び私に視線が戻ると、やけにゆっくりとした口調で言った。

「葉山さん、飯、お願いしてもいいかな?」

私の背筋はピッと伸びた。

「お、お帰りなさい。今温めます…」

そそくさとテレビを消すと、イスを元に戻した。

「准君、ごめんね」

部屋を邪魔したことと、会話を途中で放棄してしまう意味を込めて謝ると、准君は言葉なくただ微笑んだ。

一階に降りると圭さんはソファに座ってた。

「圭さん、あの、准君が、」
「座って」

圭さんが自分の隣をポンポンと叩いた。
黙って腰を下ろすと圭さんは腕を組んで私を見た。

「准の部屋で何してた?」

「ごめんなさい。やっぱりドラマの続きが気になってテレビを…」

圭さんはため息をついた。

「見たらさ、気にするでしょ?」

そんなの分かってる。
見るなって言うのは圭さんの優しさだって。

「…気にしますよ。
成実さんと違ってスラッともしてないし、爪だってネイルもしてないし、仕事もなくて、家もなくて、敵うところが一つもないって思い知らされます」

圭さんは黙って聞いてる。
なんて幼稚で面倒な女って思われてるかも知れない。

「それでも、見たくなくても見ちゃうんです。週刊誌もドラマも。
圭さんが気になるから…見て…それで後悔します…」

最後には自分の言葉にさえ後悔し始めた。

圭さんの “見るな” っていうのは、きっと正しい。
禁止されたものを見て、勝手に悲しくなって…

圭さんの手が、うつむく私の視界に現れた。
手を握られた。
それからゆっくりと王子様がお姫様をエスコートするように、圭さんの手の平に置かれた私の右手。
手入れもしないで、ただ切り揃えられた爪が恥ずかしくなった。
手を引こうとしたら、キュッとまた握られた。


「俺は美味しい飯作ってくれる、この手が好きだよ」

そう言って私の手の甲にキスした。

「上から見下ろすおでこも可愛いし、」

そう言って、額にキス。

「美味しそうに何でも食べるこの口も好き」

今度は唇同士が触れた。
触れた肌全てに鳥肌が立った。
心臓がトクントクンと大きく音を立てるから、止めたくなった。


「次はどこにする?
 ぷよぷよの二の腕とか?」

唇が完全に離れてないのに、喋る圭さん。

「ひど、」

ひどい、と胸を叩こうとした手をつかまえられて、言葉はキスに奪われた。


「もういいよ、何を見ても。
隠し事はナシにしよう」

身体が離れると圭さんは言った。

「妬いたら可愛いし」

「もう、妬きません」

「無理だな。なんか俺、最近色気が出てきたって言われるし」

さっきできなかった、圭さんの胸を叩いた。
圭さんは大げさに痛がって見せた後、言った。


「で、准がどうしたって?」

聞こえてるのに、後回しにするんだから…

「母親を…その、殺したって…」

「准がそう言ったの?」

私が頷くと、圭さんは腕を組んで背もたれに身体を預けた。


「准を産んで二日後に母は亡くなったから」

それって病気か何かでしょう?

「生まれたての准君にはどうすることも…」

圭さんは頷いた。

「子供の頃は学校で母親の話題になると暴れたり、喧嘩したり、手がつけられなかった」

今の准君からは想像できない。

「だからうちでもいつの間にか、母親は禁句になった」

私は圭さんの手を握った。
准君の怪我の手当てをしてた、っていつか言った圭さん。
この屋敷の中で、黙々と手当てしてた兄弟を想像したら切なくなった。

「准が母親の話をするなんて珍しいよ」

圭さんが私の手を握り返した。


「きんし」

きんし…
今、何の話をしてたっけ?

きんし?
禁止?


「准の部屋で二人っきりになるの禁止」



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

皇帝陛下!私はただの専属給仕です!

mock
恋愛
食に関してうるさいリーネ国皇帝陛下のカーブス陛下。 戦いには全く興味なく、美味しい食べ物を食べる事が唯一の幸せ。 ただ、気に入らないとすぐ解雇されるシェフ等の世界に投げ込まれた私、マール。 胃袋を掴む中で…陛下と過ごす毎日が楽しく徐々に恋心が…。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

処理中です...