コガレル

タダノオーコ

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嵐のあとで

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次は撮影用のアンティーク調のイスに腰掛けてのインタビューだった。
記者の弥生と会話するシチュエーションに非日常を感じて、少しからかった。

今朝ホテルで二度寝から目覚めたら、弥生は隣にいなかった。
ベッドルームから出たら、ライティングデスクでノートに書き物をしてるのを見つけた。
そのノートが今、弥生の膝の上に乗ってる。
このインタビューで聞くことをまとめたんだろう。

最初はノートにこまめに目を落としてた弥生も、途中から自分が知りたいことを自由に質問し出した。
隠すことは何もないし、弥生の気の済むまで丁寧に答えた。


インタビューが終了した後、どう過ごすのか聞かれた。

弥生の部屋で時間を潰すことも提案されたけど、鍵の件を思い出してイラッとしそうだから遠慮しておいた。
ドライブして、仕事の終わる時間に迎えに来ると言ったら納得したみたいだった。

帰り際、夢のデスクの脇を必然的に通るから、座ってる彼女に声をかけた。

「コーヒー、ごちそうさま。」

前から夢が俺を応援してくれてたことを弥生から昨日聞いた。
物をあげるとか、他の大層なこともしてやれない。
握手なら、誰も不快に思わないだろう。
そう思って手を出した。
なんだか弥生に遠慮する様子も見せたけど、結局立ち上がって両手で握り返された。

そんな俺らの脇を、機材を抱えたカメラマンが通り過ぎた。
弥生も仕事中だから、切り上げた方が良さそうだ。
弥生と夢に見送られて編集部を後にした。

階段を降りたところで、荷物を車に積み込んだのか、戻ってきたカメラマンに出くわした。

「なあ、ちょっといい?」

すれ違った直後、振り返って声をかけたのは俺の方。
カメラマンも振り返ると、立ち止まった。

「なんでしょうか?」

そう言うと、腕を組んでビルの入り口に寄りかかった。

なかなか友好的な態度してくれるじゃないの。

「彼女のこと、これからもよろしく頼みます。」

そんなにこのセリフが予想外だったか。
一瞬驚きの表情を見せた。
でもすぐに呆れた顔が横に振られた。
アテレコするとしたら、「やれやれ…」だろう。

「真田さん、俺のこと嫌いでしょ?
なんでそんなこと頼むの?」


誰かに託すなんて、ましてやこいつに託すなんて嫌に決まってる。
でも俺が冷たく突き放した時、この土地で弥生の頼りになったのは夢やこの男だと思う。
暖かく迎え入れてくれたこの職場を、弥生が離れたくない理由も分かった気がした。

「俺は嫌いだけど、弥生が信頼してる人間だから、君。」

それを聞いて、「フンっ」てやっぱり呆れたような笑いを漏らした。
組んだ腕はそのままに足元を見下ろした。

「信頼以上の関係になるかも知れませんけど?」


今度は俺が笑ってやると、奴は顔を上げて俺を見た。

「ならないよ。
弥生は俺に夢中だから。」

結局最後まで呆れ顔のまま、
「もう、好きにして下さい。」
そう言い残してカメラマンは階段を登って行った。

俺も編集部を背にすると、車に向かった。


福岡のデパートの駐車場に車を止めると、某ブランドの宝飾売り場へ足を踏み入れた。

制服を身に着けた小奇麗な女性と目が合うと、一瞬驚いた顔をされた。
頼みもしないのに、イスとテーブルのある奥に案内された。

「本日はどういった物をお探しですか?」

向かい合って腰掛けるとそう聞かれた。
ベテランの販売員なんだろう。
気を利かしてここに通してくれたらしい。

「ペアリングを。」

今日持って帰りたいってことも伝えた。

「お相手のお指のサイズはご存知ですか?」

それは聞かれるって分かってたけど、さっき思いついたことだ、サイズは知らない。
サプライズで渡したいし。

「すみません、大変失礼ですが、お手を拝借できますか?」

俺の不躾なお願いに目の前の販売員は、不思議そうな顔をして手を差し出した。
まるで手相を見てもらうように。

笑顔を見せてその手をひっくり返した。
手を握ったまま、販売員の薬指のサイズを教えてもらった。

「なるほど。」

役目を終えたその手をそっとテーブルに置いた。

弥生の指は一つか二つ細いサイズだと思う。
でも入らないと困る。
安全圏で一つ下のサイズを販売員に告げた。

聞く人が聞いたら、細さを比べられたようで不快を示すだろう。
でも目の前の販売員は幾分頬を染めてるから、結果オーライとしておこう。

俺の指のサイズはこの場で測ってもらった。
それから二つのサイズが今日揃うリングをいくつか並べてもらった。
その中で弥生が普段身につけやすそうな、派手すぎないデザインの物を選んだ。

清算してる間に、サイズ直しや刻印は東京の店でも後日可能と説明された。
一度クリーニングされたそれは化粧ケースに並んだ。

俺は渡された紙袋を助手席に積むと、一路熊本へ引き返した。





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