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「おかえりなさい」
腰まであったはずのよのぎさんの髪が耳の下まで。
「切ったの?」
「さっぱり。今ってね、髪の寄付ができるのよ。それを建築士の伴藤さんに教えてもらったの。七さんの会社のそばだったと思うわ。あ、電話くれたでしょう? 美容院出てから折り返したんだけどなあに?」
見かけたことを言えなかった。恋に狂って人生を踏み外す人の気持ちがわかったような気がした。
「早く帰れそうだったから、その連絡」
と嘘をつく。
昨日あんなに触れた髪がもうない。それなのによのぎさんはすがすがしい顔をする。
「嫌いだったの、長い髪。社長が事務所に長い黒髪のモデルがいなかったから命令で。でも私はもうあなたの奥さんだし、あなたは髪じゃなくて私を好きでいてくれてるから。首のうしろの肌だけまだちょっとただれてるでしょ? 見て、人生で初めて刈り上げちゃった」
「オールドファッションが似合いそうだ」
僕は言った。
「そうね」
髪を切っただけで別人になった感じがして、ようやくデパ地下に行けたこと、そこでお刺身と野菜を買って、サラダだけは作ったことを得意そうに話す。歪なきゅうりがよのぎさんが本当に作ったことを知らせる。もう疑っていないよ。疑っていた自分を責めたい。
家のパソコンとタブレットが連携しているから、よのぎさんが検索しただろうことがわかってしまう。
『髪型 新婚 妻』
調べたうえで切ったのだろうか。謎。
やっぱり一緒にいた建築士さんの好みではないかとまた疑心暗鬼。
弟が来たことも話さなかった。嫉妬深いと思われるから。焼きもちがバレてしまう。
よのぎさんが僕にたくさんの質問を投げかけてくるように、僕だってたくさんのことを聞きたい。普通の夫婦ほど語らいの時間がないような気がする。
だからって抱いてしまってごめんなさい。こうするしか距離の縮め方がわからない。
「よのぎさん、痛くない?」
「うん、大丈夫」
愚かな僕に微笑まないで。
「七さん、好きよ」
きっと死ぬときはよのぎさんのその言葉を思い出すのだろう。その涙目の顔と薄い体も。
たぶん、絶対。
腰まであったはずのよのぎさんの髪が耳の下まで。
「切ったの?」
「さっぱり。今ってね、髪の寄付ができるのよ。それを建築士の伴藤さんに教えてもらったの。七さんの会社のそばだったと思うわ。あ、電話くれたでしょう? 美容院出てから折り返したんだけどなあに?」
見かけたことを言えなかった。恋に狂って人生を踏み外す人の気持ちがわかったような気がした。
「早く帰れそうだったから、その連絡」
と嘘をつく。
昨日あんなに触れた髪がもうない。それなのによのぎさんはすがすがしい顔をする。
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「オールドファッションが似合いそうだ」
僕は言った。
「そうね」
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「七さん、好きよ」
きっと死ぬときはよのぎさんのその言葉を思い出すのだろう。その涙目の顔と薄い体も。
たぶん、絶対。
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