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☆日々
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女性を好きな女性はレズビアン。私は前に男性と付き合っていて、今は郁実と付き合っているから分類するならバイ。郁実とはそういう話をしていないが郁実の心はどっちなんだろう。
彼女が自分の性に戸惑っている様子はない。郁実は郁実、そして私が好き。
細かく分類したらパンセクシュアルなのかもしれないし、デミセクシュアルだったのかもしれない。いろんな用語があって難しい。
カミングアウトしたら、そういう人が集う店になるのかもしれない。郁実がそれを望んでいるとは思えない。
普通の店がいい。でも普通ってなんだろう。
私たちは自分たちが普通ではないとは思えないのだ。人を好きな気持ちは美しいものでしょう? それを相手が郁実だからって、女だからって間違っていると、異端だとは思いたくない。
弱者を救いたいとは思う。男性の女装癖もおかしいとは思わない。人はそれぞれだ。ストレートの男の人だって幼女が好きだったりSMが好きだったり、小分けにしたらきりがない。
私たちのことを理解してくれる人は少ないだろう。それでも、いいの。
私たちのことを恋人とは思っていない人から、
「どっちでもいいからうちの息子の嫁になってくれや」
なんて言われると、心がちくり。
「私には郁実がいるので」
と言いたい。喉元までは来ているそれを、
「はあ」
と作り笑いで飲み込む日々。
田舎は暮らしづらいと言うが、そもそも他人を理解しようとすることが無理なのだ。親子だって無理なのに。
郁実がぱたんとカタログを閉じた。
「いいお皿ないの?」
私が声をかけても、
「うーん」
と曖昧な返事。
お店で使う食器を郁実は100均で揃えようとするから、
「もう少しいいものにしない?」
と私が言ってしまったら、百貨店やら個人輸入業の人から資料やらカタログが送られてきてしまった。
極端なのはお互い様。
「かわいい皿だなと思うと一枚1300円超えだよ」
カウンターで頬杖をつく郁実はうしろの景色と相まってもはや絵画のよう。美形って男女どちらにも用いる言葉。
「うわ、高い」
高級百貨店のカタログなんて初めて見た。
「グラス、ソーサーとお皿。あ、ティーカップは別なのか。それにトレーもいるな。日本茶出すなら湯呑もほしいし」
郁実の物欲が止まらない。確かに、シュークリーム単体で出すなら小さいお皿でいいが、お店で提供するのであればそれなりにきれいに盛り付けるのだろう。大きなお皿に生クリームやソースでデコレーション。
「お父さんに頼んでみようか?」
私は聞いた。
「お父さん? 利紗子の?」
郁実が不思議そうな顔をする。
「うん。実は陶芸やってて。全然有名じゃないよ。普通の食器作ってるし」
「へえ。知らなかった」
だって言う機会、なかったもん。郁実からもほとんど家族のことは耳にしない。恐らく、私と同じで自分のことを話せないから親という存在が煩わしくなる。
「そろそろ結婚は?」
なんて、と母親が年頃の娘に言いたい気持ちもわからなくもない。あなたの娘は同性と同棲しています。ふざけていえることじゃないからタイミングがむつかしい。
「男と付き合ったら元に戻るわよ」
と心無い言葉を投げられたら殺してしまうかもしれない。母親の年代って、ざっくばらんというか、考えずに言葉にする。年代というよりも、子どもを産んだ女性が強いのだ。出産と育児を経たら、他のことがちっぽけになるのもわかるけど。
波風を立てずに生きるほうが楽である。
父は能天気だが、さすがに私の状況を受け入れられないだろう。だから、距離を取ってしまう。
「店の広さからすると、15ずつくらいでいいかな?」
カウンターは窓際にあって、絶景。大きな円形のテーブルがひとつと4人掛けがふたつ。全部座っても25人程度。
「10客でいいかな」
ソーサーのセットも客と数えることを知らなかった。
「郁実、お皿は白がいい?」
質問を投げると郁実は考えてしまう癖がある。ずっと黙っていたのに、
「同じお皿じゃないほうが面白いかな」
と言ったのは、夕飯のとき。
「売れ残りなら安くしてくれるかも。お父さんに写真送ってもらうね。できるかな? 行ったほうが早いかな」
「私も一緒に利紗子の家に行こうか?」
郁実としては、決意をしてくれたのだと思う。でも私は、
「遠いよ」
と面倒くさそうに言ってしまった。
話せないよ。親は私を普通の娘だと思っている。高校生のときは彼氏がいたし。その娘が女性の恋人を連れて帰ったら卒倒してしまう。
絶縁されても私はいいの。自分のせいだもの。でも、それを見て傷つくのは郁実も同じでしょ?
父に、
『いらないお皿まとめて送って。用途は喫茶店です』
とメールをしたら、たくさんの品が届いた。父の作るカップはごつい。ピンク系が多いのは私をまだ小娘だと思っているからだろうか。
「この受け皿葉っぱ? おしゃれだね」
郁実は同じお皿を重ねて食器棚に並べている。
「使い勝手悪そう」
父が作ったものだから、そんなふうに言い放ってしまう。父が焼いた皿を郁実が使う。なんか複雑。
彼女が自分の性に戸惑っている様子はない。郁実は郁実、そして私が好き。
細かく分類したらパンセクシュアルなのかもしれないし、デミセクシュアルだったのかもしれない。いろんな用語があって難しい。
カミングアウトしたら、そういう人が集う店になるのかもしれない。郁実がそれを望んでいるとは思えない。
普通の店がいい。でも普通ってなんだろう。
私たちは自分たちが普通ではないとは思えないのだ。人を好きな気持ちは美しいものでしょう? それを相手が郁実だからって、女だからって間違っていると、異端だとは思いたくない。
弱者を救いたいとは思う。男性の女装癖もおかしいとは思わない。人はそれぞれだ。ストレートの男の人だって幼女が好きだったりSMが好きだったり、小分けにしたらきりがない。
私たちのことを理解してくれる人は少ないだろう。それでも、いいの。
私たちのことを恋人とは思っていない人から、
「どっちでもいいからうちの息子の嫁になってくれや」
なんて言われると、心がちくり。
「私には郁実がいるので」
と言いたい。喉元までは来ているそれを、
「はあ」
と作り笑いで飲み込む日々。
田舎は暮らしづらいと言うが、そもそも他人を理解しようとすることが無理なのだ。親子だって無理なのに。
郁実がぱたんとカタログを閉じた。
「いいお皿ないの?」
私が声をかけても、
「うーん」
と曖昧な返事。
お店で使う食器を郁実は100均で揃えようとするから、
「もう少しいいものにしない?」
と私が言ってしまったら、百貨店やら個人輸入業の人から資料やらカタログが送られてきてしまった。
極端なのはお互い様。
「かわいい皿だなと思うと一枚1300円超えだよ」
カウンターで頬杖をつく郁実はうしろの景色と相まってもはや絵画のよう。美形って男女どちらにも用いる言葉。
「うわ、高い」
高級百貨店のカタログなんて初めて見た。
「グラス、ソーサーとお皿。あ、ティーカップは別なのか。それにトレーもいるな。日本茶出すなら湯呑もほしいし」
郁実の物欲が止まらない。確かに、シュークリーム単体で出すなら小さいお皿でいいが、お店で提供するのであればそれなりにきれいに盛り付けるのだろう。大きなお皿に生クリームやソースでデコレーション。
「お父さんに頼んでみようか?」
私は聞いた。
「お父さん? 利紗子の?」
郁実が不思議そうな顔をする。
「うん。実は陶芸やってて。全然有名じゃないよ。普通の食器作ってるし」
「へえ。知らなかった」
だって言う機会、なかったもん。郁実からもほとんど家族のことは耳にしない。恐らく、私と同じで自分のことを話せないから親という存在が煩わしくなる。
「そろそろ結婚は?」
なんて、と母親が年頃の娘に言いたい気持ちもわからなくもない。あなたの娘は同性と同棲しています。ふざけていえることじゃないからタイミングがむつかしい。
「男と付き合ったら元に戻るわよ」
と心無い言葉を投げられたら殺してしまうかもしれない。母親の年代って、ざっくばらんというか、考えずに言葉にする。年代というよりも、子どもを産んだ女性が強いのだ。出産と育児を経たら、他のことがちっぽけになるのもわかるけど。
波風を立てずに生きるほうが楽である。
父は能天気だが、さすがに私の状況を受け入れられないだろう。だから、距離を取ってしまう。
「店の広さからすると、15ずつくらいでいいかな?」
カウンターは窓際にあって、絶景。大きな円形のテーブルがひとつと4人掛けがふたつ。全部座っても25人程度。
「10客でいいかな」
ソーサーのセットも客と数えることを知らなかった。
「郁実、お皿は白がいい?」
質問を投げると郁実は考えてしまう癖がある。ずっと黙っていたのに、
「同じお皿じゃないほうが面白いかな」
と言ったのは、夕飯のとき。
「売れ残りなら安くしてくれるかも。お父さんに写真送ってもらうね。できるかな? 行ったほうが早いかな」
「私も一緒に利紗子の家に行こうか?」
郁実としては、決意をしてくれたのだと思う。でも私は、
「遠いよ」
と面倒くさそうに言ってしまった。
話せないよ。親は私を普通の娘だと思っている。高校生のときは彼氏がいたし。その娘が女性の恋人を連れて帰ったら卒倒してしまう。
絶縁されても私はいいの。自分のせいだもの。でも、それを見て傷つくのは郁実も同じでしょ?
父に、
『いらないお皿まとめて送って。用途は喫茶店です』
とメールをしたら、たくさんの品が届いた。父の作るカップはごつい。ピンク系が多いのは私をまだ小娘だと思っているからだろうか。
「この受け皿葉っぱ? おしゃれだね」
郁実は同じお皿を重ねて食器棚に並べている。
「使い勝手悪そう」
父が作ったものだから、そんなふうに言い放ってしまう。父が焼いた皿を郁実が使う。なんか複雑。
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