寂しい街のとどころ旅館

吉沢 月見

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 夕方の6時ではもう真っ暗。ちょっと前までは明るかったのに。

「小松様?」
 7時近くになっても起きないようなのでいよいよ私は声をかけた。

 反応はない。時差ボケかしら。あれはどうにもならないらしいから。10時までは待った。スマホの番号にかけてみようかなと思ったが寝ている客を起こせない。自殺だったらと頭をよぎったが、ならば余計に合い鍵を使ってまで部屋に入りたくない。

 翌朝、
「すみません」
 と小松さんは申し訳なさそうに頭を下げた。私から見れば30代の男性はほぼ男の子。
「時差ボケ治りませんか?」
「いえ、飛行機が遅延して昨日は空港に滞在したのでほとんど寝れなかったので」
 と目をこすった。

「朝ごはんはお部屋にお持ちしましょうか?」
 私は聞いた。
「部屋に匂いが残るの嫌なのでこちらでもいいですか?」
「ええ、もちろん」

 ホテルのようにエントランスはないが、玄関の脇にテーブルセットがある。普段はお客様たちがくつろぐ場所だが、しばらくはこの人一人なのだから好きにしたらいい。
「すぐにお持ちしますね。お風呂も用意しましょうか?」
「はい」

 昨日の夕飯から回せるものはかぼちゃとひじきだけ。朝だから納豆と海苔に漬物。
「いただきます」
 お米も朝、新しく炊いた。手は抜けない。
「一週間分のメニューを考えたので、苦手なものがあったら先に仰ってください」
「ありがとうございます」
「この辺りは何もないですからしょうがないですよ」
 一食代余分にいただけるだけこちらは有り難い。

「今日のお昼はカレーですか? 昨日まで毎食カレー味だったので宿泊の終わりのほうに変更できますでしょうか? 向こうではカレーとピザばかり食べていたもので」
「ええ、もちろん」
 ならば今日のお昼は最終日のお昼と入れ替えてオムライスにしよう。味にうるさい人なのか、単純の別の国の味付けが合わないだけだったのか。海外に行っても料理が合わず、こっちにもあるハンバーガーショップで食べていたなんてよくある話。

「それから量は毎回これでは太ってしまうので一日2000キロカロリーを目安にしていただきたい」
 そういう注文は初めてだった。計算しながら作れるだろうか。自信がない。
「わかりかねますので、ごはんを自分で盛りますか?」
「助かります」
 こんなに物わかりのいい客は少ない。お客様だからというだけでこちらを下に見る人もいる。小松さんは顔もさっぱりしていた。

 いい人そうだから、食後のコーヒーをサービス。彼はそれを飲みながら新聞を読んで部屋に戻った。客室の掃除はどうするか聞くべきだった。また寝るのだろうか。他にすることがないもの。
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