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テント
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テントゾーンからトイレまで結構距離があるからかと歩き始めて思った。かりんからスニーカーを指定された理由がわかる。介護の仕事は付き添いなどで力を使うときもあるけれど、普段は運動しないからお尻のうしろとかふくらはぎが伸びているのがわかる。ちょっと坂道なんだな。上ったり下ったり一定でない。
仕事中はお年寄りの歩幅に合わせることが多いから動作もゆっくりになる。クッション性の靴まで支給される職場で、利用者さんとストレッチをすることもあるのに筋力が衰えてきたのかもしれない。恐らくは、体の成長はもうしない。人生が長いのに成長のピークは10代らしい。高齢者を仕事で相手にしているからこそ思うことがある。最近は預金額で施設の月額料金が変わったりする。本当におかしい。人は人だ。遊び惚けてきた人が楽をして、ひもじい思いをして蓄えた人が損をするなんて、変な世の中だ。
トイレは管理棟の更に向こう。床も壁もトイレもピンクだった。ちょっと薄暗いが想像していたよりきれい。新しいはずなのに空気がひやっとする。だからトイレって怖いと細胞が思い込んでしまう。3つあるうちのひとつは洗浄機能付き便座だった。私はそこじゃないところに座ってしまう性質。私と入れ違いに女の子二人を連れたお母さんが入って来た。ちょうど3箇所あってよかったねと思ったが、お母さんは子ども二人とひとつのところに入った。
「しー出た」
「はい、よかったわね。お母さんがするまで待ってて」
順番でするのか。世の中のお母さんが大変そうに見える。大きい子どもは一人でも大丈夫なのではないだろうか。なにかあったからと過敏になっているのかもしれない。
手を洗うところもセンサーだった。水のみだが。もうちょっとしたら冬なのに、こんな時期にオープンの理由がわからない。山だから雪が降るに違いない。
お昼は来る途中の蕎麦屋でうどんを食べた。もう夕方。夜じゃないのに寒い。山だから気温が低いのだろう。
手に息を吹きかけながらかりんがいる場所へ戻るところだった。
「ここのキャンプ場初めて?」
とおじさんに声をかけられた。やや太めの、顔だけは童顔で、おじさんと脳は判断したけれどもよく見れば肌質はかさついてもいない。40代の真ん中くらいかしら。
「はい」
昨日オープンしたばかりだから当然だろう。
「さっきマシュマロ焼いてたでしょう」
とおじさんが私の袖を引っ張った。
「ひゃ」
「ほら、火の粉が飛んで穴が開いちゃってる」
「あ」
確かにアウターに不自然な穴が二ヶ所。数ミリだが溶けてしまったようだ。
「こういう素材は溶けやすいから」
「はぁ」
「焚き火で料理とかしたら灰だらけになるからね」
「ありがとうございます。じゃあ」
と歩く速度を上げたのについてくる。怖い。でもさっきの親子が絡まれるよりはいいか。こんな私でも誰かの役に立っているのだ。いや、最初からこのおじさんが人に絡まなければ誰も不快にならずにすんだ。
やだっ。まだついてくる。足早に逃げる。
かりんの姿を視界に捉えるとほっとした。
「ただいま」
と駆け寄る。
「おかえり」
おじさんは私たちの前を素通りし、隣のテントに入ってゆく。ここはテントエリアも場所で区切られている。ちなみに私たちはCゾーン。おじさんはたぶんD。水道も管理棟の横だから、おじさんはちょくちょく私たちの前を通るのだろう。だからって、今更場所を変えることはできない。
仕事中はお年寄りの歩幅に合わせることが多いから動作もゆっくりになる。クッション性の靴まで支給される職場で、利用者さんとストレッチをすることもあるのに筋力が衰えてきたのかもしれない。恐らくは、体の成長はもうしない。人生が長いのに成長のピークは10代らしい。高齢者を仕事で相手にしているからこそ思うことがある。最近は預金額で施設の月額料金が変わったりする。本当におかしい。人は人だ。遊び惚けてきた人が楽をして、ひもじい思いをして蓄えた人が損をするなんて、変な世の中だ。
トイレは管理棟の更に向こう。床も壁もトイレもピンクだった。ちょっと薄暗いが想像していたよりきれい。新しいはずなのに空気がひやっとする。だからトイレって怖いと細胞が思い込んでしまう。3つあるうちのひとつは洗浄機能付き便座だった。私はそこじゃないところに座ってしまう性質。私と入れ違いに女の子二人を連れたお母さんが入って来た。ちょうど3箇所あってよかったねと思ったが、お母さんは子ども二人とひとつのところに入った。
「しー出た」
「はい、よかったわね。お母さんがするまで待ってて」
順番でするのか。世の中のお母さんが大変そうに見える。大きい子どもは一人でも大丈夫なのではないだろうか。なにかあったからと過敏になっているのかもしれない。
手を洗うところもセンサーだった。水のみだが。もうちょっとしたら冬なのに、こんな時期にオープンの理由がわからない。山だから雪が降るに違いない。
お昼は来る途中の蕎麦屋でうどんを食べた。もう夕方。夜じゃないのに寒い。山だから気温が低いのだろう。
手に息を吹きかけながらかりんがいる場所へ戻るところだった。
「ここのキャンプ場初めて?」
とおじさんに声をかけられた。やや太めの、顔だけは童顔で、おじさんと脳は判断したけれどもよく見れば肌質はかさついてもいない。40代の真ん中くらいかしら。
「はい」
昨日オープンしたばかりだから当然だろう。
「さっきマシュマロ焼いてたでしょう」
とおじさんが私の袖を引っ張った。
「ひゃ」
「ほら、火の粉が飛んで穴が開いちゃってる」
「あ」
確かにアウターに不自然な穴が二ヶ所。数ミリだが溶けてしまったようだ。
「こういう素材は溶けやすいから」
「はぁ」
「焚き火で料理とかしたら灰だらけになるからね」
「ありがとうございます。じゃあ」
と歩く速度を上げたのについてくる。怖い。でもさっきの親子が絡まれるよりはいいか。こんな私でも誰かの役に立っているのだ。いや、最初からこのおじさんが人に絡まなければ誰も不快にならずにすんだ。
やだっ。まだついてくる。足早に逃げる。
かりんの姿を視界に捉えるとほっとした。
「ただいま」
と駆け寄る。
「おかえり」
おじさんは私たちの前を素通りし、隣のテントに入ってゆく。ここはテントエリアも場所で区切られている。ちなみに私たちはCゾーン。おじさんはたぶんD。水道も管理棟の横だから、おじさんはちょくちょく私たちの前を通るのだろう。だからって、今更場所を変えることはできない。
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