不快な世界

吉沢 月見

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 非日常だ。隣りでかりんもふうっと息を吐いた。学生のときはずっと一緒にいたのに最近はメッセージのやり取りばかりで、こうして会うのは久しぶり。会いたかったのに、積もる話もあるのに、今は黙ってしまう。

 私たちは同じアニメ関係の専門学校で出会った。かりんは医者の娘だった。

「医者の娘なのにいいの?」
 と聞いてしまったことをずっと後悔している。

「医者の子どもが全部医者になるわけじゃない。お父さん、勤務医だし。あ、でも最近になって自分のクリニックを作りたいと言い出してお母さんは大反対なの」

 かりんが利口なのは話していてわかる。同じアニメの映画が好きで、専門学校の二年間はずっと一緒にいた。続編ができれば喚起し、コンカフェやイベントに二人で出かけた。卒業後、私はアニメーター助手として、かりんは宣伝の会社に就職したけれど、今は二人ともアニメとは違う仕事に就いていた。アニメは見ているほうがいい。関わると、辛い。好きなことは仕事にしないほうがいいらしい。

「亜弥、仕事どう?」
 かりんが聞く。

「もっとしんどいって思ってた」

「介護だもんね」

「でも夜勤はないし、まだ下っ端だからおばあちゃんたちと話したりしてるだけ。オムツ交換も最初は無理って思ったけど、仕事だもん」

 私が勤めているのはデイサービスだから、毎日同じ人が来るわけじゃないと説明する。

「私には考えられないかな」
 亜弥は出版関係に転職していた。

「キャンプの記事書くの?」
 と私が聞くと、
「体験しないと書けないみたいで。付き合わせてごめんね」
 と謝った。だからって、こんな道具一式は全部かりんの私物だ。申し訳ないのはこちらのほう。

 来るときやテントを立てながら写真も撮っていたから、あとできっとかりんは見返すのだろう。写真はそんなに好きじゃないけどしれっと写り込もうかな。

「この前はソロキャンプ行ったんでしょう?」

 写真や動画をネットにあげているのを見た。

「うん。平日に行ったから空いてた。ぼーっとしちゃって記事にできるようなことなくて」

 それこそ記事にするべき。私は前の仕事で体を壊して、今の仕事もシフトがバラバラだから常に緊張している。仕事もたくさんあって、何もしていない時間などない。ぼーっとすることが久しい。

「亜弥、平日休みだもんね。今日は休み合わせてもらってごめんね」

「ううん。うちも土日は交代制になったの」

「そうなんだ」

 かりんは雰囲気がお嬢さんっぽい。それなのにキャンプ女子の格好に身を包み、ニット帽に耳あてまで。

「ここ電波ないわ」
 かりんがスマホを持って数歩をうろうろ。

「そういうのから離れたいからみんなこういうところ来るんでしょ?」
 私は言った。

「半々じゃない? 自然が好きな人と承認欲求と」

「私は落ち着くな」

 山の中にいる。木々に囲まれているから遠くの山も見れない。空は見える。こんなふうに空を見上げたのどれくらいぶりだろう。

「私も」
 とかりんは笑った。

 犬を連れたうるさい一団が帰ると途端にキャンプ場は静かになった。泊まらずにバーベキューだけを愉しみに来たのだろう。

 珈琲、ココア、紅茶なんて飲んでたらトイレに行きたくなる。でも寒いから飲んでしまう。太陽を雲が隠しただけで体感温度が変わる。

「トイレ行く」
 私は立ち上がった。

「一緒に行く」

「火を見てないとでしょ?」

 離れるときは消すようにって聞いた。そんなのいちいち面倒臭い。

「そっか。気をつけてね」
 とかりんは言った。なににだろう。
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