不快な世界

吉沢 月見

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コテージA

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 ドンドンドンドン。

 ドアを叩く音がする。こっちももう半裸だ。

「なんだろう?」
「放っておきましょう」
 と僕のTシャツを脱がそうとする仕草なんて色っぽいを通り越してエロい。

「気になるよ」
 仕方なく僕は明かりをつけた。時計はないのでスマホを見る。9時前だった。

「なにかしら?」
 美也子も身支度を整え、二人で入口付近のドアに近づく。

「助けてくれ」
 男の声だった。

「どうしました?」
 と聞いても、
「開けてくれ」
 と木のドアを叩くのみ。その音は恐怖でしかない。コテージは丸太で作られており、玄関のドアも頑丈そうではある。

「どうする?」

 この時点で僕は酔っぱらいだろうと決めつけた。いたずら、悪ふざけ、そういうことを後先考えず簡単にする人が増えた。

「怖いわ」
 と妻も怯える。

「け、警察呼びますよ」

 男気を見せて精一杯の声を振り絞る。そのときだった。

「開けてくだしゃい」
 と子どもの声がした。女の子か男の子なのかもわからないくらいの子どもの声。

「子どもの声だわ」
 美也子がドアに手を伸ばそうとしたから、妻を背後に移動させてドアの鍵を開けた。生憎、ドアチェーンはない。
 ドアを押すと小太りな男が倒れ込んで来た。

「閉めて、早う」

 真っ先に飛び込んできた男とは別のもう一人の若い男性が女の子を抱いていた。

「はぁはぁはぁ」

 女の子の息も切れていた。顔は今にも泣きそうなのに、力を入れて堪えている。

「大丈夫?」

 妻が女の子の頭を撫でる。

「け、警察と救急車」

 父親が絞り出すように声を発した。

「熊だと思う。バケモノに襲われた」
 と小汚い男が言う。いや、女の子の父親のほうが髪が長くて不潔に見えるのに、どうしても小太りな男を汚く見てしまう。

「熊?」

 妻が三人のために水をコップに注ぎながら尋ねた。

「本当です。うちの妻と娘も」

 この髪型は美容師以外には考えられない。

 本州にヒグマはいない。バケモノと見紛うほどの大きな熊がいるのだろうか。

「まずは管理棟に連絡をしましょう」
 美也子はこういうとき、割と冷静だ。

「電波がない」
 僕は言った。ここに来たときから接続が不安定で、そのせいなのか充電の減りが早い。

「私のもだわ。充電が残り30しかない」
 こういうときはどうしたらいいんだろう。ネットがないときに外部へ助けを求める方法は。

 妻の独り言は独り言ではない。聞き逃してはならないと相談所の人に口酸っぱく言われた。

「充電器持ってくればよかったな」
 僕は言った。

「テントの中にあるけど」
 小太りの男が言った。

「取りに行けないな」

「ここに包丁くらいある?」

 男二人は血気盛んな様子だ。
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