悪役令嬢、魔王を倒した勇者様に所望される

吉沢 月見

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 連れて来られたのは木の家で、
「随分かわいい家ですこと」
 と言ってしまった。煌びやかな王宮とは大違い。

「木こりの住まいだったらしいが、手を入れてもらって不自由なく暮らせる」
 勇者様は次々と家の蝋燭に火をつけた。確かに中は汚れてはいないものの、テーブルとベッドしかない。

 椅子を引いてくれる人もいない。座っていいのよね。

「えっと、何か飲むか?」
 勇者様がお茶を淹れてくれる。

「手伝います」

「いや、いい。座ってて。」

 簡素というよりは質素。

「執事とかはいませんの?」
 私は聞いた。

「使用人のことか? 必要ない。ほい、お茶」

「ありがとうございます」

 ん? 紅茶じゃない。

「そこら辺の葉っぱの茶だ。体にいいぞ」

 確かに草っぽい味がする。勇者様も対面に座って、大きなカップでお茶を飲んだ。

 こんなとこに連れて来られて、一人じゃドレスも脱げない。

 本当にこの人が勇者なのかしら。体は大きいけれど、猫背で威厳もない。

「さて、今日はもう疲れた。初夜するか?」

 へっ?

 ここは勇者らしく抱きかかえてベッドにポン。

 獣のような目で私を見る。こめかみから頬にかけてキスをやめてくれない。

 私の顔中にキスをする。こんな音がするのね。

「だめです。王の許しを得ていません」

 制止しようとする私の手をことごとく受け止める。

「許可がいるのか?」
 耳元で声を発さないで。

「当然ですわ」
 こんなこと婚約者だったエドワード様にもされたことないのに。

「硬いのな。そういうの悪くない。じゃあ家を案内するよ、奥さん」

 硬いのはあなたの腕のほう。その力強さにびっくりしたほどだ。ゆったりとした服を着ているのに胸板も厚いのがわかる。

「勇者様、お名前は?」

「まだ言ってなかったか? モクビリーだ。仲間からは言いづらいからモックビーと。好きなほうで呼んでくれ。そなたは?」

「アンジェリカと申します」

「きれいな名だ。しかし長いな」

「小さい頃は家族からアンと呼ばれました」

「うむ、それがいい。アン、おいで」

 台所と風呂は家の中。

「トイレは外なんだ。そっちにも部屋があるが俺の荷物で埋まってる。そのうち片づけるから」

 狭い家なのにこんなに安心していられるのはこの人が勇者だからだろう。

 私、本当にここに住むの? 自分の生まれ育った屋敷とは違って手を伸ばせばなんにでも手が届きそう。テーブルだって小さい。

 勇者様、椅子に座って私の顔をまじまじと見ている。私が見返すと視線を外してお茶を飲む。恥ずかしいのかしら。それにしては二ヤついている。

「お茶のおかわりどうぞ」
 と注いであげた。

「ありがとう」

 ここに住むのね、この人と。
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