悪魔の隣りでお昼寝させて~幼い私があなたをお慕いしていることは誰にも内緒です~

吉沢 月見

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13.誰がために

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 誰かの代わりになるために、私は日頃から語学や歴史、様々な勉強をしている。

 令嬢になりきるために刺繍や絵を描くこと、ピアノも少し。浅く広くがモットー。十人十色とはよく言ったもので、口うるさい人もいるし寡黙な人もいる。美人もそうでない人もいる。静かな人を好む人もいればたくさん食べる人が好きな人もいる。それが好みというものらしい。私は大半の人から嫌われなければいい。怪しまれないのが顔立ちのおかげならば、それをくれた両親に感謝したい。もう顔もぼんやりだけれど。

 勉強を続けていると一時は単純に医学が人のためになるかなと考えたが、ライゾン様は私にそれは求めていない。様々な知識と別の人格になりきる度胸とそれに付随する記憶力が必須。


 その日は根暗な令嬢に成り代わり、パーティで微笑む役。

 あまり外に出ない令嬢だから目撃情報がないのはいいけれど、その分難しい。

「ごきげんよう」

 小さな声で目立たず、それでいて特定の人の印象には残るように。

 いいところに嫁ぎたい令嬢の親からの指令。結婚はしてほしいが、いかんせん引っ込み思案な娘をどうにか気に入ってもらえるように。技術が進歩して写真というものが出回りつつある。この商売も終焉を迎えるでしょう。そうなったらライゾン様はどうするのだろう。私もお払い箱?

 医学が進歩したら顔を変えたりできるのかもしれない。全員が美しくなってもさらに美しくなりたい人がいるのでしょう。人間ってそういうもの。欲望にはキリがない。まだ10年ほどしか生きていないが、いろんな人を見てきた。ライゾン様の仕事をしてからはいい人も悪い人も、沢山。

 この場で会話をするのはご法度。話した内容を私に成り代わった人に伝えたとしてもそれは別の記憶。きっと食い違う。だから、ほんのり笑いをキープ。

 微笑むだけで金に困らない人生を歩める位置にいるご令嬢はいつか自分が幸せであることに気づくのだろうか。11歳の私が倍以上の21歳に扮している。歳を取ると一日が早いと聞く。早くそうなってほしい。

「女優になれるよ」

 ライゾン様の秘書のフランクは仕事をこなすたびにそう言ってくれるが、興味ありません。巷では新進気鋭の舞台女優と初老の劇作家の不倫が話題のようだけれど人の旦那さんをどうして好きになるのだろう。

 年齢的にライゾン様に奥様がいても不思議ではない。もし妻がいても、私は今と同じような気持ちになっているのかしら。この気持ちを押しとどめることなどできるのだろうか。

「お疲れ様」

 都合が合えばライゾン様は迎えの馬車で私が仕事を終えるのを待っていてくれている。仕事の対価がこれなの? いや、普通以上の生活を与えられている。それで充分のはず。

「本当に疲れましたわ」

 念のため、そのご令嬢の家の馬車で彼女の家まで帰るふりをする。ぬかりない。

「今日は尾行されてないみたいだな。このまま家に帰るか。って、キリーナ寝てるのか? まだ子どもだな」

 私はね、いつもあなたの隣りで眠れる子どもでいたいの。コルセットがきつい。ミランが胸パッドを入れ過ぎなのよ。私が大人っぽくなってきたからと意地悪する。女の嫉妬は怖いらしい。身の毛もよだつ事件の発端も女であることが多い。

 あ、ライゾン様が私の頭を撫でる。ずっとこうしていてほしい。それは叶わないことだ。

 誰がためにこんな仕事をしているのか、考えないようにしている。楽しいけれど、人を欺いている。ライゾン様はどうしてこの仕事をしているのだろう。

 呼吸のために胸が苦しい。帰ったらすぐにドレスを脱ごう。私はせめてもの反抗としてその日からミランを呼び捨てにすることにした。
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