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14.コケモモ
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仕事をひとつ終えるとその人物から自分へ戻る時間が必要だ。成り代わっている時間が長いほど、その時間を要する。この戻らない時間が不必要な人もいる。別の人間として生き、何も語らぬまま死んでゆく。
私は、できることならちゃんと自分の人生を生きたい。そして終えたい。そのためならライゾン様の近くにいないほうがいい。彼は私を駒としか見ていないのだから。
「キリーナ様、たくさんありますね」
コケモモのことをシャーロットさんはリンゴベリーと呼ぶ。同じものなのに呼び名が違うなんてことが世の中にはたくさんあるのだろう。
成り代わる、すり替わる、すげ替える。ライゾン様の仕事には必要な言葉。
「そうね」
シャーロットさんとコケモモの木を見上げた。二人のときだけはシャーロットさんと呼ばせてもらっている。だって、敬称をつけないなんて無理だよ。彼女はいつも礼儀正しい。
「季節外れに実をつけた木があるなんて嘘かと思いましたが」
シャーロットさんが手早に実を摘む。
「ボケてしまったのかしら」
花も気温の惑わされて咲くものがあるらしいから。
「あとでよく洗ってジャムにしましょうね」
シャーロットさんが言う。
「カリッと焼いたブレッドにジャムつけて食べたいわ、シャーロットさん」
こんなわがままを言えるまでに私はなった。まるで普通のお嬢さん。親も財産もないのに。
甘えることなんて至難の業だった。人を疑うのが通常運転だったし、頼るとか無理。一人で生きることばかりを考えていたから誰かの力など依存したくなかった。
「ええ、そうしましょう」
女二人でもライゾン様の別荘の敷地内だから安心。広大な土地で見渡す限り私たちと鳥しかいない。でも悪い奴などどこにでもいる。御者さんが馬車でうとうと寝ているから獣が出たら悲鳴を上げよう。
私は一心不乱にしてしまう。集中しすぎるみたい。
シャーロットさんは淡々と選別しながら摘む。40代にしては顔が幼く、その年齢なのに結婚はしていないようで、ライゾン様に雇われているということはさぞかし面倒な過去を抱えているのだろうと推測する。
幸せな人なんているのかしら。幸せになりたくて生きている人が滑稽なのだから、幸福というものがさっぱりわからない。私には必要ないのかもしれない。
「これを売ったら私たちベリー長者にならないかしら」
もうふたつのかごに山盛りだ。
「ライゾン様の所有の木ですから、あの人なら利益の半分は持っていかれるでしょうね」
とシャーロットさんがもっともなことを言う。あくどいと感じる人もいるだろう。でも商売ってそういうこと。だから大金持ちになれる人がいる。優しくしていたら自分が儲からず、結局は他者に優しくできない。
ライゾン様は厳しいようで優しい人だ。
家に帰り、コケモモを洗って、煮詰めてジャムやソースを作る。砂糖を加えればジャム、その残りでパイを作る。パイ生地を作るためにふるいをかけながら、私はそちら側になれたのか疑問が湧く。冬は寒くて、外で眠るだけで死ぬ人たちもいた。今は温かい暖炉のある家にいるけれど、ぽいっと放り出されないようやるべきことをしなければ。だからライゾン様に嫌われないようお仕事をする。見せかけの幸せでいいの。
「ライゾン様はそんなに甘くないのが好きよ」
シャーロットさんに私の気持ちは知られているのかしら。
「はい」
薪のオーブンでパイを焼いている間に私は眠ってしまった。
「おっ、うまそうだな」
ライゾン様の声がする。
「キリーナ様と作ったのです。まだ温かいですが召しあがりますか?」
これはシャーロットさんの声。
「ああ」
「お疲れのときは甘いものがいいですよ」
ソファで眠った私の頭を撫でたのはライゾン様。いつか、こんなふうに私の頭を撫でてくれなくなるのかしら。そんな未来ほしくない。
ライゾン様にとって私はなあに? かわいいって思ってくれている? ただの使える女の子? なんでもいいから捨てないで。
翌日私は何食わぬ顔をして冷めたコケモモのパイを食べた。
「おいしい」
「秋の収穫も楽しみだ」
ってあなたは言う。それまでは一緒にいる確約? 危ない仕事をしているんだもの、どちらかが死ぬかもしれない。私はただこうして一緒にいる現実が続いてほしい。
「うん」
と私は頷くの。あなたが好きだから。
穏やかに暮らしたい。このまま、あなたと。私とライゾン様の関係は雇用主と従事者。愛はなくても共に暮らしてゆけるのかしら。正解がないこともあると誰か言って。
私は、できることならちゃんと自分の人生を生きたい。そして終えたい。そのためならライゾン様の近くにいないほうがいい。彼は私を駒としか見ていないのだから。
「キリーナ様、たくさんありますね」
コケモモのことをシャーロットさんはリンゴベリーと呼ぶ。同じものなのに呼び名が違うなんてことが世の中にはたくさんあるのだろう。
成り代わる、すり替わる、すげ替える。ライゾン様の仕事には必要な言葉。
「そうね」
シャーロットさんとコケモモの木を見上げた。二人のときだけはシャーロットさんと呼ばせてもらっている。だって、敬称をつけないなんて無理だよ。彼女はいつも礼儀正しい。
「季節外れに実をつけた木があるなんて嘘かと思いましたが」
シャーロットさんが手早に実を摘む。
「ボケてしまったのかしら」
花も気温の惑わされて咲くものがあるらしいから。
「あとでよく洗ってジャムにしましょうね」
シャーロットさんが言う。
「カリッと焼いたブレッドにジャムつけて食べたいわ、シャーロットさん」
こんなわがままを言えるまでに私はなった。まるで普通のお嬢さん。親も財産もないのに。
甘えることなんて至難の業だった。人を疑うのが通常運転だったし、頼るとか無理。一人で生きることばかりを考えていたから誰かの力など依存したくなかった。
「ええ、そうしましょう」
女二人でもライゾン様の別荘の敷地内だから安心。広大な土地で見渡す限り私たちと鳥しかいない。でも悪い奴などどこにでもいる。御者さんが馬車でうとうと寝ているから獣が出たら悲鳴を上げよう。
私は一心不乱にしてしまう。集中しすぎるみたい。
シャーロットさんは淡々と選別しながら摘む。40代にしては顔が幼く、その年齢なのに結婚はしていないようで、ライゾン様に雇われているということはさぞかし面倒な過去を抱えているのだろうと推測する。
幸せな人なんているのかしら。幸せになりたくて生きている人が滑稽なのだから、幸福というものがさっぱりわからない。私には必要ないのかもしれない。
「これを売ったら私たちベリー長者にならないかしら」
もうふたつのかごに山盛りだ。
「ライゾン様の所有の木ですから、あの人なら利益の半分は持っていかれるでしょうね」
とシャーロットさんがもっともなことを言う。あくどいと感じる人もいるだろう。でも商売ってそういうこと。だから大金持ちになれる人がいる。優しくしていたら自分が儲からず、結局は他者に優しくできない。
ライゾン様は厳しいようで優しい人だ。
家に帰り、コケモモを洗って、煮詰めてジャムやソースを作る。砂糖を加えればジャム、その残りでパイを作る。パイ生地を作るためにふるいをかけながら、私はそちら側になれたのか疑問が湧く。冬は寒くて、外で眠るだけで死ぬ人たちもいた。今は温かい暖炉のある家にいるけれど、ぽいっと放り出されないようやるべきことをしなければ。だからライゾン様に嫌われないようお仕事をする。見せかけの幸せでいいの。
「ライゾン様はそんなに甘くないのが好きよ」
シャーロットさんに私の気持ちは知られているのかしら。
「はい」
薪のオーブンでパイを焼いている間に私は眠ってしまった。
「おっ、うまそうだな」
ライゾン様の声がする。
「キリーナ様と作ったのです。まだ温かいですが召しあがりますか?」
これはシャーロットさんの声。
「ああ」
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ライゾン様にとって私はなあに? かわいいって思ってくれている? ただの使える女の子? なんでもいいから捨てないで。
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「おいしい」
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「うん」
と私は頷くの。あなたが好きだから。
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