20 / 49
20.偽りのマリア2
しおりを挟む
翌日には私はメイドとして潜入。ライゾン様の家の5倍ほど、敷地は数十倍もありそうで、下働きから入ったら奥様に会えることなど不可能なのではないかと思った。ともあれ、仕事をしていたらどうにかなるやもしれない。
私が与えられた仕事は洗濯、ガラス拭き。それらをこなしている間にライゾン様が次の手を考えてくれるだろう。
当主はまだマリアさんの旦那さんのお父様。その奥様は亡くなっているからこの家にとっての奥様はマリアさんのみ。奥様不在ならば使用人がざわつきそうだけど。
「奥様どころかメイド長にも会ってないわ」
同じ仕事の女の子に私は言った。普通、メイド長を介して奥様に挨拶をするから。
「広すぎなのよ。冬は寒いし」
このお屋敷に勤める割にはぶっきらぼうに話す子だなと感じた。勤め人にはお家のランクが出る。
「あなた、ここは長いの?」
「まだ半年。お給料はいいしメイドの部屋は離れにあって楽よね」
そうなのだ。珍しく屋敷内ではない。普通は天井裏とかなのだが、抱えている使用人の人数が多いからだろう。
「あれは池なの?」
窓から指を差して私は尋ねた。庭には馬もいる。
「そうよ。たまに旦那様がご友人と釣りをなさるの」
まさかマリアは全てが嫌になって自ら身投げしたということはないだろうか。でもそれならば手紙なんてよこさないはず。彼女はどこかで息を潜めて助けを待っている。
「すごいわね。こんなに大きなお屋敷で働くの初めてだから緊張しちゃう」
私は手がかりを見つけなければならないのに廊下の掃除だけで午前が終わってしまう。クビにならない程度にきょろきょろ偵察。
「下っ端が責任なくていいわ」
と彼女は薄い唇を更に薄くして笑った。
馬がいるということは馬小屋に監禁されているのかも。次期当主の奥様にそんな非道なことはしないだろう。私がしている仕事では家のことがちっとも見えない。食事係のほうがよかったのではないだろうか。
当主とその息子は仕事で毎日のように出かけた。奥様である偽物のマリアとその弟の姿だけがずっとない
。
私は状況を逐一ライゾン様に手紙で報告。どこへ行ってしまったのだろう。もう屋敷にいないのではないだろうか。
外の窓を拭いていると、
「こんにちは」
とお客様に声をかけられた。服や帽子などのいで立ちから野菜売りには見えない。
「どうも。ただ今、執事を呼んでまいります」
メイドらしく私は頭を下げた。
「ああ、いいのいいの。スチュワードの同級生なんだけど家にいるかな?」
私が探している弟の名だ。
「申し訳ありません。私はまだここで働いて日が浅いもので。少々お待ちください」
「待って。家にいるかもわからない? 薬を届けに」
「お医者様?」
そうは見えない。
「ああ。ちょっと薬を持ってきただけなんだ」
こそっと耳打ちされて気持ち悪い。玄関からではなく、こんな窓拭きの下女に話しかける時点で怪しいとは思っていた。
「お預かりしましょうか?」
「いや。とても強力な薬でね。一滴で牛一頭が死ぬ」
それを人に渡すということは誰かを殺すのか、或いは自死。心中ということも有り得る。
「私ではわかりかねますので屋敷の者を呼んでまいります」
「いや、君でいい。頼んだよ」
と小瓶を渡された。彼は誰かに姿を見られることに怯えているようだった。実はただの商人なのかもしれない。小瓶の匂いを確かめたいが、死んでは困る。ライゾン様の手下を呼んでそれを渡す。成分を確かめると本物の毒だった。
あれを私以外が渡されたらどうなっていたのだろう。弟の手に渡ってマリアを殺すつもりなのかしら。
私が与えられた仕事は洗濯、ガラス拭き。それらをこなしている間にライゾン様が次の手を考えてくれるだろう。
当主はまだマリアさんの旦那さんのお父様。その奥様は亡くなっているからこの家にとっての奥様はマリアさんのみ。奥様不在ならば使用人がざわつきそうだけど。
「奥様どころかメイド長にも会ってないわ」
同じ仕事の女の子に私は言った。普通、メイド長を介して奥様に挨拶をするから。
「広すぎなのよ。冬は寒いし」
このお屋敷に勤める割にはぶっきらぼうに話す子だなと感じた。勤め人にはお家のランクが出る。
「あなた、ここは長いの?」
「まだ半年。お給料はいいしメイドの部屋は離れにあって楽よね」
そうなのだ。珍しく屋敷内ではない。普通は天井裏とかなのだが、抱えている使用人の人数が多いからだろう。
「あれは池なの?」
窓から指を差して私は尋ねた。庭には馬もいる。
「そうよ。たまに旦那様がご友人と釣りをなさるの」
まさかマリアは全てが嫌になって自ら身投げしたということはないだろうか。でもそれならば手紙なんてよこさないはず。彼女はどこかで息を潜めて助けを待っている。
「すごいわね。こんなに大きなお屋敷で働くの初めてだから緊張しちゃう」
私は手がかりを見つけなければならないのに廊下の掃除だけで午前が終わってしまう。クビにならない程度にきょろきょろ偵察。
「下っ端が責任なくていいわ」
と彼女は薄い唇を更に薄くして笑った。
馬がいるということは馬小屋に監禁されているのかも。次期当主の奥様にそんな非道なことはしないだろう。私がしている仕事では家のことがちっとも見えない。食事係のほうがよかったのではないだろうか。
当主とその息子は仕事で毎日のように出かけた。奥様である偽物のマリアとその弟の姿だけがずっとない
。
私は状況を逐一ライゾン様に手紙で報告。どこへ行ってしまったのだろう。もう屋敷にいないのではないだろうか。
外の窓を拭いていると、
「こんにちは」
とお客様に声をかけられた。服や帽子などのいで立ちから野菜売りには見えない。
「どうも。ただ今、執事を呼んでまいります」
メイドらしく私は頭を下げた。
「ああ、いいのいいの。スチュワードの同級生なんだけど家にいるかな?」
私が探している弟の名だ。
「申し訳ありません。私はまだここで働いて日が浅いもので。少々お待ちください」
「待って。家にいるかもわからない? 薬を届けに」
「お医者様?」
そうは見えない。
「ああ。ちょっと薬を持ってきただけなんだ」
こそっと耳打ちされて気持ち悪い。玄関からではなく、こんな窓拭きの下女に話しかける時点で怪しいとは思っていた。
「お預かりしましょうか?」
「いや。とても強力な薬でね。一滴で牛一頭が死ぬ」
それを人に渡すということは誰かを殺すのか、或いは自死。心中ということも有り得る。
「私ではわかりかねますので屋敷の者を呼んでまいります」
「いや、君でいい。頼んだよ」
と小瓶を渡された。彼は誰かに姿を見られることに怯えているようだった。実はただの商人なのかもしれない。小瓶の匂いを確かめたいが、死んでは困る。ライゾン様の手下を呼んでそれを渡す。成分を確かめると本物の毒だった。
あれを私以外が渡されたらどうなっていたのだろう。弟の手に渡ってマリアを殺すつもりなのかしら。
0
あなたにおすすめの小説
「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。
腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。
魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。
多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。
ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。
子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。
――彼女が現れるまでは。
二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。
それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
悪役令嬢、休職致します
碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。
しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。
作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。
作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる