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2章
甘い蜜
しおりを挟む私が新店舗に行って、1ヵ月が経った。山田店長のことは全店で情報を共有したての時は話題にこそなったが、月日が流れていくとそれも薄れていった。
彼と会うことも無くなったが、変わらず毎日のように連絡をとっていた。新店舗はどんな感じなのかとか、私のお客様がどうだったとか、私がいない間のお店の状況だとか他愛も無い日常の会話。
ヘルプで離れるこの3ヵ月で気持ちを落ち着かせると決めていたのに、彼から連絡が来るのはやっぱり嬉しかった。
「…えっ!?」
今、彼から来たメールには、来月のお盆の時期の2週間ほど、奈々さんと奏君が九州にある奈々さんの実家に帰る事が書かれていた。奏くんは夏休みで、奈々さんはその2週間だけ休みをとるらしい。私達の仕事にはお盆休みや夏休みなどといった長期休暇は認められていないので、彼だけはこっちに残る事と、8月22日はひとり寂しく過ごすことになるから一緒に過ごして欲しい事も書かれていた。
8月22日は、彼の誕生日。
家族のいる彼の誕生日当日を一緒に過ごすことは叶わないと思っていた。
それなのに、まさか一緒に過ごせるなんて。
彼から来たメールを読んでいると勝手に顔が綻んでいく。
「志乃ちゃん、今日どうする?みんなでご飯行こうってなってるんだけど。」
スタッフルームのドアが開き、ひょこっと顔だけを覗かせて、スタッフの椎名 莉子が弾んだ声で話しかけてきた。
「あ、莉子さん。ご飯ですか?いいですね、行きましょう!」
私はさりげなく携帯を閉じてポケットにしまった。
「あー、志乃ちゃんまた彼氏でしょー。ニヤニヤしちゃって!仕事中だぞー!…なーんちゃって」
「ち、違いますよ!彼氏じゃないです!!」
嘘は、ついていない。彼は彼氏ではないし、なんなら関係もバレてはいけない。
「またまたー。あ、で、どうする?参加する?」
「あ、はい、参加し………。」
莉子さんに返事をしている最中、ポケットで携帯が震えた。
開くと、彼からのメールで今日の夜はこっちの店舗は早く終わりそうだから久しぶりに会わないかという誘いの連絡だった。
「あ、莉子さん!やっぱ私、今日はなしで!」
「あー、彼氏だな?しょうがない、次は参加ね?」
莉子さんはニヤニヤしながら、ドアを閉めフロアに戻っていった。
わたしだって、流石にニヤついてしまう。彼と直接会うのは1ヶ月ぶりなのだから。しかも、彼から誘ってきてくれた。
…3ヵ月の間に気持ちを落ち着かせるとつい3分前まで思っていたのに。
私は了解と返事を送り、再び仕事に戻った。
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