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2章
変化
しおりを挟む先に仕事が終わった彼が見つけておいてくれたお店に入ると、話が通っていたのかひとつの個室に通された。中に入ると、彼が奥のソファに腰掛け、先にお酒を飲んでいた。
「お疲れ様ー。ごめんなさい、お待たせして。」
私は彼の正面になる手の椅子に腰掛けた。
「へーき、先に飲んでたし。何飲む?」
「んーじゃあ、サワーで。」
席にある呼び出しボタンで彼が店員を呼び、私のお酒を注文してくれた。しばらくしてお酒が運ばれ、彼の飲みかけのグラスと重ねた。
「おつかれー。…にしても久々だね。1ヶ月ぶりくらい?」
「そうですね、私、お酒飲むのすら久しぶりかもです。」
毎日のように彼と飲んでいたから、1人で飲むのは何か味気なくて。
「俺も。志乃がそっち行ってからすげー直帰だもん。……って、何で敬語?」
「…なんか、久しぶりで。緊張してんのかな…。」
関係を持ち始めてから、仕事後にご飯している時や、休みの日等のプライベートで会っている時には、彼に敬語を使わない事と、彼が私のことを志乃と呼ぶという事を2人で約束事していた。仕事の延長な気がして気を休められないからと、彼から提案してきたことだった。
「あれだよな、志乃もさ、俺の事名前で呼んでみ。」
「え。」
「ほーら、試しに。」
「え、しゅ……しゅん……」
名前を呼ばれるを偉く気に入ったのか、彼の顔が緩んだ。
「いいねー。今度から、名前にしようかー。」
「え、恥ずかしいんだけど。」
「俺はもう、志乃って呼ぶの慣れすぎて、仕事中でも間違えて呼んじゃいそうだけどね。」
「それはまずいでしょ!」
こうして、彼と笑いながらお酒を交えるのはやはり楽しい。いつの間にか、頭のどこかに軽じて残っていた3ヵ月の間に気持ちを落ち着かせる決意は、完全に消えていた。
「志乃ー。隣おいで?」
彼が自身の隣のほんのちょっとしたスペースをぽんぽんと軽く叩き、私を呼んだ。
「え。そっち狭いし、恥ずかしいよ。店員が来たら気まずいし…」
「呼ばなきゃ来ないよ。ちゃんと個室にしたしさ、大丈夫だから…おいで」
…私もなかなか意志が弱いらしい。彼に呼ばれたら、やはり行ってしまうのだから。
彼に密着する形でソファに座ると懐かしい柔軟剤の香りがした。
「やっぱり、恥ずかしいよ…」
「あー、久しぶりだなーこの匂い」
彼が私の首元に顔を近づけてきた。
「えっ!?臭うの?何、汗臭いとか?」
「んーなんだろ、志乃の匂いだよー。」
え、まさかもう酔っ払ってるの?
「え、ちょ高城さんお酒弱くなったの?もう酔っ払ってない?」
「久しぶりだからね。3ヵ月とか長いよ。まだ1ヶ月だろ?あー。ねぇ、やっぱり帰ってこないの?」
彼から予想外の甘えた態度だった。1ヶ月前、私がヘルプに行くことを決めたと伝えた時にはこんな態度少しだってしてくれなかったのに。
「え、さ…寂しい…の?」
「寂しいよ。こんなに離れたことなんてなかっただろ」
………。
隣に座ってるこの人は、誰?
この1ヶ月の間に彼に何があったの?
「志乃、今日は彼氏くん迎えこれんの?」
「え、多分呼べば来ると思うけど」
「じゃあ、終電逃せるね。」
そう言って彼はテーブルの上のボタンで店員を呼び、追加のお酒を注文した。
終電逃せるねって…どういう意味?
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