彼と私は時々キスをする

美衣

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2章

戻れない

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「…ん、…ちょ、たかぎ…さんっ」


「…俺の名前、忘れちゃった?もっかい教える?」


いやいや、この状況を説明してよ。



あれから、運ばれた追加のお酒を飲み干し、2人とも酔っ払ってしまっていた。そのままフラフラとM駅に移動し、幸助の迎えを待っている。
いつも通りの彼の最寄り駅。
いつも通りに、真っ暗な塾の駐車場に行く予定だった。
しかし、今日の彼はそこも通り過ぎ塾の横の非常階段に座った。外の道路からは目につかない場所。

結構お酒を飲んだし、座りたいのかな。

そう思って、私も高城さんの1段上に腰掛けた。


「あっちー…もう夏だなぁ」


彼は着ているシャツをパタパタして風を通していた。
いつもの柔軟剤の匂いと少しの汗の匂いがした


「高城さんって、柔軟剤は何使ってるの?」


「んー?わかんないけど、ずっとこれ。んな事より志乃ちゃん、なんでそっち座ってるの?隣おいで」


彼の服から香るこの柔軟剤の匂いが好き。今日だって、懐かしくて、久しぶりに彼に会えたんだと実感する。

…同じ柔軟剤を使い始めたら、流石に気持ち悪いよね。


「ほら、志乃。早くしないと、お迎え来ちゃうよ。」


そう言って、彼は私を引き寄せる。彼の隣に座るはずが、何故か膝の上に着地する私。


「え、こっち?」


「また当分、会えなくなるだろ。志乃が寂しくないようにね。」


そう言って、私の唇にキスを落とした。


「ちょ、流石に、この体制は恥ずかしいよ…」


その時、外の道路を歩く人達の声が聞こえた。男女の集団のようで、ちょうど階段の近くで立ち止まり談笑し始めた。外からはやはり私達は見えていないらしい。
こんな所に人がいるなんて彼女達はきっと思っていない。高校生ならまだしも、私たちは社会人。こんな姿が見つかったら、流石に恥ずかしいなんてもんじゃない。
物音を立てるわけにもいかないので、彼の膝から降りることも出来なかった。
不安になって彼を見ると、彼は少し笑って携帯を取り出した。そして、私に見えるように文字を打つ。


ー迎えまだ来てない?


私は自分の携帯を取り出し確認したが、幸助からの連絡はまだ来ていなった。
私は、彼に向かって首を横に降る。
すると、彼は私の耳元に顔を近づけ「じゃあ、まだ安心だね。」と囁き、耳にキスを落とした。


「…!!?」


今、少しの声でも、出さなかった自分を褒めてあげたい。

彼女達の談笑している声がすぐ近くに聞こえていて気が気じゃない私にとって、彼の膝の上に座っているのさえ、ただただ恥ずかしい状況だと言うのに、彼はお構い無しに私の髪や耳や首すじなどにキスを何度も落としていく。

時折、彼が小さく笑みをこぼすから、この状況を心底楽しんでるのだと思った。


「…ん、…ちょ、たかぎ…さんっ」


彼女達に聞こえないように小さい声で彼に抵抗する。


「…俺の名前、忘れちゃった?もう1回教えようか?」


…そうじゃない。そっちじゃなくて…っ!


「志乃…呼んで」


キスを落としながら耳元で言われた。
こんな状況で、こんなキスされて冷静でいられるがはずない。
彼の唇が触れたところが熱を帯びて、私の体がどんどん火照っていくのが自分でもわかった。


「…凄いね。志乃、ドキドキしてる。」


自分でもわかるくらい、鼓動が早く、大きくなっていた。彼にも聞こえてしまうくらいに。
それすらも恥ずかしくて、気づけば、彼女達の声は聞こえなくなっていた。私の意識は完全に彼に集中していたから、気づかないうちに彼女達は帰っていたのかもしれないけれど。
彼のキスが頬や鼻を通って私の唇に触れようとした。


駿しゅん……」


「おお…偉いね。名前呼べたじゃ「…好き。」


「…え?」


「…好き。…駿しゅん…が、好き。」


…言ったら負けだと思った。私に飽きた彼にさよならを告げられた時、わたしも遊びだったと言えなくなってしまうから。なんだかんだ家族を優先するであろう彼に、私も幸助が一番だからと言えなくなってしまうから。

でも、抑えられなかった。
彼に何度も落とされるキスのせいで。
ここが外だということも、私に幸助がいることも、その彼氏の迎えを待っていることも、そして彼が既婚者であることも、今の私は完全に忘れている。

彼のキスに夢中で応え、溢れ出る感情をぶつけていた。














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