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第1章 転生少女、推しの娘になる
11.毒狂いの薬師
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「ここは温室?」
殿下に連れられてやってきたのは、ガラス張りで作られた植物園だった。建物の中には色とりどりの花々が咲いていて、思わず見惚れてしまうような美しい光景が広がっている。
「毒草のみが集められたな」
「毒草の温室…」
それはなんとも刺激的な温室だ。
「ここは限られた人しか入ることができないんだ。まぁ、王宮にこんなものがあるのだから当然だけどな」
でしょうね。そんなところにほいほいと人が入れたら、事件が起きそうで怖いです。うかつに出された食事を食べられなくなっちゃいます…。
「綺麗ですね。毒があるようには思えません」
「綺麗な花には棘があるとはよく言うが、棘だけでなく毒もあるということだ」
「肝に銘じます」
これからは綺麗な花にうかつに触らないようにしよう。うっかり触って死亡エンドとか笑えない。少なくとも父様たちを救うまでは死ぬわけにいかないからね。
「これはこれはぁ殿下。本日はどんな毒草をお求めで?」
ふと、温室の奥から人が現れた。青りんご色の長い髪の毛に、はちみつ色の瞳。なんというかへにょへにょしている人で、胡散臭い雰囲気がある。…え、まさか先生ってことの人ですか、殿下。とても大丈夫そうな人に見えないんですけど。この人に頼むんですか、殿下…。
「今日はいつもの用ではない。其方に少し頼みがあってきた」
「…へぇ。殿下が僕にお願いだなんて珍しい。…ところで隣の方は誰です?というか殿下、僕意外にお友達がいたんですか?」
「誰が友人だ。腐れ縁の間違いだろう」
その人の言葉に殿下はむすっとした表情で答える。すると、その男性は殿下に抱き着きながら悲しそうな声を上げた。
「え~、酷いなぁ、殿下。僕は友達だと思っていたのにぃ」
殿下は鬱陶しそうに自分に巻き付いてくる男性を振り払う。男性は諦めたのか案外さっと離れた。
「うるさい。彼女は私の学友のアデルだ。アデル、彼が毒狂いの薬師と言われるイラファだ」
この人が毒狂いの薬師。うーん、見るからに普通じゃなさそうだ。
「よろしくねぇ。アデルお嬢さん」
「よろしくお願いします。イラファさん」
気の抜けたようなイラファさんの挨拶に私は苦笑いしながら返す。すると、イラファさんは私に内緒話をするように(声は潜めていないので殿下に丸聞こえだけど)言った。
「…殿下はこんな感じでつれない人だけど、心の中では友達って言われて喜んでるし、きっと君のことも大切に思っているからどうか見捨てないでやって。友達になれる人が毒狂いと言われる僕くらいしかいない、可哀そうな人なんだ」
「余計なことを言うな。あとお前とは友達ではない」
すかさずイラファさんにそう突っ込む殿下。…なんだか、仲が良さそうだ。
「それで僕なんかに何のようです?殿下」
「毒について色々と教えて欲しい。特に解毒について詳しく知りたい」
殿下の言葉にイラファさんはおやっと嬉しそうな表情を浮かべた。
「ついに殿下も毒の魅力にハマりました?嬉しいなぁ、これで僕たち仲間ですね」
「違う。毒狂いのお前と一緒にするな」
心底嫌そうな顔でそう言葉を返すロレシオ殿下。しかし、イラファさんはそんな殿下の塩対応に成れているのか全く気に留める様子もない。
「えー、ならなぜ毒について知りたいんです?」
「私達の大切な人を毒から守りたいんだ。いつ毒を浴びてもおかしくない人だからな。いついかなる毒にも対応できるようにしておきたいのだ」
殿下がそう言うと、イラファさんは顎に手を当てながら答えた。
「うーん、毒については耐性をつけてしまうのが1番なんですけどね。殿下がそうおっしゃるということは、すでに成人していてそれが叶わない方ですか?」
「そうだ」
その言葉になるほどと頷くと、イラファさんは笑顔で言った。
「いいですよ。この私が毒の魅力をたっぷりと教えて差し上げましょう!せっかくですから、解毒にの方法だけでなく、他の知識もお教えします。…そうだ!そちらのお嬢さんも毒に耐性をつけてはいかがですか?殿下のついでにお嬢さんの方も私がアシストして差し上げますよ!」
「え!?」
毒への耐性って誰でもつけられるものなの!?…もし、毒に耐性が付けられれば父様を助ける手段が増える?…これは耐性つけるしかないよね!?
やりますと言おうとしたところで、殿下に言葉を遮られた。
「アデルには必要ないだろう。私と違って敵を作るようなタイプでもないし」
「殿下は分かっていませんね。殿下の傍にいる。それだけで狙われる口実になるんですよ。女の嫉妬は恐ろしいですからね」
「ぐ、…確かにそうだな。…アデル、私といるのが嫌になったらいつでも言ってくれ。きっと嫌な思いをさせてしまう日がくるかもしれない」
そう言う殿下の表情はどこか悲しそうだ。きっと殿下は今までも大人の黒い部分を沢山見てきたんだろうな。そして、これからはもっとそれを見ていくことになるのだろう。
「大丈夫です。殿下。私、こう見えても打たれ強いので。それに、毒耐性はつけておいて損はないですからね。もともとやるつもりでした」
「だが、かなり辛いぞ。死なないとは言え、毒を飲むのだから症状がでる。それに耐えなければならないのだ」
「乗り越えた先には最高の快感が味わえますけどね」
「それはお前だけだ」
イラファさんの言葉に殿下は勢いよくツッコミをいれた。…ぶれない人だなぁ。イラファさん。そして、やっぱり二人は仲がいい。
「やります。父さまが死んじゃうこと以上に辛いことなんてありませんから!毒だってヘドロだってなんだって飲んでやります!」
「そうか。…分かった。イラファ、これからは二人分で頼む」
「かしこまりました。お嬢さんについては弱い毒から少しづつ慣らしていきましょうか。王宮にいる間のまとまった時間を使って、少しづつ耐性をつけられるように調整していきましょう」
「はい!」
私の返事にイラファさんはにっこりと微笑む。そして、踵を返した。
「ふふふふ。腕がなりますねぇ。最初はどれにしようかな。スイセンあたりかな。…ああ、でもスズランのしびれも非常に魅力的…ブツブツブツ…」
今にも踊りだしそうな様子でそう呟かれた言葉に私は固まる。…本当に大丈夫なのか。不安になってきた。殿下もイラファさんの姿を苦笑いしながら見ている。これから始まる新たな展開にドキドキしながらも、自然と顔を見合わせ、お互いに肩をすくめあう私たちなのであった。
殿下に連れられてやってきたのは、ガラス張りで作られた植物園だった。建物の中には色とりどりの花々が咲いていて、思わず見惚れてしまうような美しい光景が広がっている。
「毒草のみが集められたな」
「毒草の温室…」
それはなんとも刺激的な温室だ。
「ここは限られた人しか入ることができないんだ。まぁ、王宮にこんなものがあるのだから当然だけどな」
でしょうね。そんなところにほいほいと人が入れたら、事件が起きそうで怖いです。うかつに出された食事を食べられなくなっちゃいます…。
「綺麗ですね。毒があるようには思えません」
「綺麗な花には棘があるとはよく言うが、棘だけでなく毒もあるということだ」
「肝に銘じます」
これからは綺麗な花にうかつに触らないようにしよう。うっかり触って死亡エンドとか笑えない。少なくとも父様たちを救うまでは死ぬわけにいかないからね。
「これはこれはぁ殿下。本日はどんな毒草をお求めで?」
ふと、温室の奥から人が現れた。青りんご色の長い髪の毛に、はちみつ色の瞳。なんというかへにょへにょしている人で、胡散臭い雰囲気がある。…え、まさか先生ってことの人ですか、殿下。とても大丈夫そうな人に見えないんですけど。この人に頼むんですか、殿下…。
「今日はいつもの用ではない。其方に少し頼みがあってきた」
「…へぇ。殿下が僕にお願いだなんて珍しい。…ところで隣の方は誰です?というか殿下、僕意外にお友達がいたんですか?」
「誰が友人だ。腐れ縁の間違いだろう」
その人の言葉に殿下はむすっとした表情で答える。すると、その男性は殿下に抱き着きながら悲しそうな声を上げた。
「え~、酷いなぁ、殿下。僕は友達だと思っていたのにぃ」
殿下は鬱陶しそうに自分に巻き付いてくる男性を振り払う。男性は諦めたのか案外さっと離れた。
「うるさい。彼女は私の学友のアデルだ。アデル、彼が毒狂いの薬師と言われるイラファだ」
この人が毒狂いの薬師。うーん、見るからに普通じゃなさそうだ。
「よろしくねぇ。アデルお嬢さん」
「よろしくお願いします。イラファさん」
気の抜けたようなイラファさんの挨拶に私は苦笑いしながら返す。すると、イラファさんは私に内緒話をするように(声は潜めていないので殿下に丸聞こえだけど)言った。
「…殿下はこんな感じでつれない人だけど、心の中では友達って言われて喜んでるし、きっと君のことも大切に思っているからどうか見捨てないでやって。友達になれる人が毒狂いと言われる僕くらいしかいない、可哀そうな人なんだ」
「余計なことを言うな。あとお前とは友達ではない」
すかさずイラファさんにそう突っ込む殿下。…なんだか、仲が良さそうだ。
「それで僕なんかに何のようです?殿下」
「毒について色々と教えて欲しい。特に解毒について詳しく知りたい」
殿下の言葉にイラファさんはおやっと嬉しそうな表情を浮かべた。
「ついに殿下も毒の魅力にハマりました?嬉しいなぁ、これで僕たち仲間ですね」
「違う。毒狂いのお前と一緒にするな」
心底嫌そうな顔でそう言葉を返すロレシオ殿下。しかし、イラファさんはそんな殿下の塩対応に成れているのか全く気に留める様子もない。
「えー、ならなぜ毒について知りたいんです?」
「私達の大切な人を毒から守りたいんだ。いつ毒を浴びてもおかしくない人だからな。いついかなる毒にも対応できるようにしておきたいのだ」
殿下がそう言うと、イラファさんは顎に手を当てながら答えた。
「うーん、毒については耐性をつけてしまうのが1番なんですけどね。殿下がそうおっしゃるということは、すでに成人していてそれが叶わない方ですか?」
「そうだ」
その言葉になるほどと頷くと、イラファさんは笑顔で言った。
「いいですよ。この私が毒の魅力をたっぷりと教えて差し上げましょう!せっかくですから、解毒にの方法だけでなく、他の知識もお教えします。…そうだ!そちらのお嬢さんも毒に耐性をつけてはいかがですか?殿下のついでにお嬢さんの方も私がアシストして差し上げますよ!」
「え!?」
毒への耐性って誰でもつけられるものなの!?…もし、毒に耐性が付けられれば父様を助ける手段が増える?…これは耐性つけるしかないよね!?
やりますと言おうとしたところで、殿下に言葉を遮られた。
「アデルには必要ないだろう。私と違って敵を作るようなタイプでもないし」
「殿下は分かっていませんね。殿下の傍にいる。それだけで狙われる口実になるんですよ。女の嫉妬は恐ろしいですからね」
「ぐ、…確かにそうだな。…アデル、私といるのが嫌になったらいつでも言ってくれ。きっと嫌な思いをさせてしまう日がくるかもしれない」
そう言う殿下の表情はどこか悲しそうだ。きっと殿下は今までも大人の黒い部分を沢山見てきたんだろうな。そして、これからはもっとそれを見ていくことになるのだろう。
「大丈夫です。殿下。私、こう見えても打たれ強いので。それに、毒耐性はつけておいて損はないですからね。もともとやるつもりでした」
「だが、かなり辛いぞ。死なないとは言え、毒を飲むのだから症状がでる。それに耐えなければならないのだ」
「乗り越えた先には最高の快感が味わえますけどね」
「それはお前だけだ」
イラファさんの言葉に殿下は勢いよくツッコミをいれた。…ぶれない人だなぁ。イラファさん。そして、やっぱり二人は仲がいい。
「やります。父さまが死んじゃうこと以上に辛いことなんてありませんから!毒だってヘドロだってなんだって飲んでやります!」
「そうか。…分かった。イラファ、これからは二人分で頼む」
「かしこまりました。お嬢さんについては弱い毒から少しづつ慣らしていきましょうか。王宮にいる間のまとまった時間を使って、少しづつ耐性をつけられるように調整していきましょう」
「はい!」
私の返事にイラファさんはにっこりと微笑む。そして、踵を返した。
「ふふふふ。腕がなりますねぇ。最初はどれにしようかな。スイセンあたりかな。…ああ、でもスズランのしびれも非常に魅力的…ブツブツブツ…」
今にも踊りだしそうな様子でそう呟かれた言葉に私は固まる。…本当に大丈夫なのか。不安になってきた。殿下もイラファさんの姿を苦笑いしながら見ている。これから始まる新たな展開にドキドキしながらも、自然と顔を見合わせ、お互いに肩をすくめあう私たちなのであった。
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