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色の足りない虹
第6章 色の足りない虹
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それから一ヶ月後のある雨上がりの午後の二時、僕はあの病院に最後の健診へ行った。
あれから彼女には一度も会っていない。
でも彼女を一時も忘れたことはないし、彼女の存在を感じることはある。
でもそんな瞬間にも彼女の姿は見えないのだ。
とても寂しい気持ちになる毎日だったが僕の中にはこんな妄想があったから耐え慣れた。
彼女はわざと僕と連絡も取らず、会おうともしないことによって、
僕に自分のことを思わせて、もっと好きにさせようという作戦を実行してるという。
無論そんなことをしなくてももう、僕の心は完全に彼女から逃げられないようにつながっているのに。
最後の診察室へと入るまでに昨日ちょうど書き終えたあの小説の最後を思い出した。
好きな人と一緒に周った世界一周旅行が終わり、日本の空港に着いてしまった時ような喪失感と達成感を感じながら。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
あんな歌を作ってからそれを彼女に聞かせるわけにもいかず、僕はとてももどかしかった。
そんな時にもらった彼女からのあの手紙。
彼女への想いは積もっていく一方だ。
きっと彼女は悪魔なんだこのまま僕を乗っ取っていってしまう。
それから何日か経って彼女の新しい携帯から連絡が来た。
そしてそれからはほぼ毎日の様に彼女に会った、デートした。
あの公園に行ったり、遊園地にいったり、僕の家に泊まりに来たり。
普通のカップルのような生活を送っていた。
僕らを見ていた誰もがそう思っただろう。
彼女がもう少しで死ぬなんて誰も感じなかっただろう。
どうにかしてこの幸せな日々を永遠に続けなければならない。
このことが僕の宿命のように感じてきていた。
そんなある日二人で山登りデートをした帰り彼女は深刻そうなでもすこし嬉しそうな顔で僕に尋ねてきた。
「嬉しい話と悲しい話二つあるんだけど、どっちから聞きたい?」
僕は、ドラマかよ!とか思いながら答えた。
「悲しい話は聞きたくないよ。
こんな楽しいデートの時に。
でもどうしても聞かなきゃなら悲しい話から聞きたい。」
僕の率直な思いだった。
「だめ!それじゃ話の辻褄が合わなくなる!こういう時は普通嬉しい話からでしょ?」
彼女はいたずらに笑いながら言った。
普段の僕なら
「そんなことないだろ。」
と冷静に突っ込めただろうがなぜかそれができなかった。
だから僕は彼女に言われるがまま嬉しい話から聞くことになった。
「嬉しい話ってのはね、私の病気が直せるかもしれない方法が見つかりました。」
彼女は拍手しながらとても嬉しそうに話した。
僕も思わずつられて拍手をした。
「おぉーー」
しかし彼女は急に暗い顔になって
「その方法はね、心臓移植って言うんだけどね。
とってもお金がかかるの。
だからできないんだ。」
僕は愕然とした。
そもそも心臓移植という言葉がよくわからなかった。
こんなに元気なのに意味がわからなかった。
「私、君と会っている時以外はずっと入院しているの」
その言葉の衝撃的で何も意味がわからなかった。
「初めて君と会った日は病院を抜け出してきたんだどね。それ以外の日は最後だからって先生に無理言って外出許可もらってたの」
僕が息をつく暇も与えず彼女は続けた。
「でもそれも今日が最後。
今まで本当にありがとう。本当に本当に楽しかった。
君に出会えてよかったです。
あの時君に話しかけてよかったです。」
僕はお金はいくらぐらいかかるのかと聞いた。
彼女は答えた。
そしてさらに続けた。
「両親も死んでしまった私には無理。
でももう後悔はない。
最後に君と過ごせたから。
私のことを忘れないでね。
さようなら」
その場から立ち去ろうとする彼女を見て僕は思わず叫んだ。
「お金なら…金ぐらい俺がなんとかする。だから、さよならとか言わないで。」
いま考えるとあまりにもありきたりなセリフだ。
だいたい一個人がはらえる金額だったのもすこし考えれば怪しかった。
僕は騙されたのだ。
それから彼女に会うことは一度もなかった。
でも後悔はしていない。
だって、騙されていてもいいと思えるぐらいの恋だったから。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
なんだか少し寂しいような気持ちで、最後の診察室に入った。
何回も通っているうちにどんだけで嫌いで、憂鬱な場所でもそんな感情が浮かんでくるものだ。
先生はいつもの笑顔で僕の胸に聴診器をあてた。
少し冷たいその感触がくすぐったかった。
そして機械を使った検査も終えて、結果が出るまでロビーで待った。
その間僕は、とてもそわそわしていた。
何故なら、いままで受け入れるのが怖くて先生にも家族にも黙っていてもらったことを聞くのもこの後だからだ。
それは僕に心臓を提供してくれた人についてだ。
本当なら国の決まりとかいうので聞くことはできない。
でも僕人生に続きを与えてくれた人の両親がどうしてもと頼み込んで秘密にそのことを知ることになった。
その人の意思を知ってほしいというのが両親の願いだから。
また生前彼女もそう願っていたそうだから。
僕に命を与えて、この世から飛び立っていった天使がいるのだ。
同じことが自分には出来るだろうか?
自分の家族がそうなった時、その決断ができるだろうか?
様々なことを考えながら診察室に再び入った。
そして驚きの名前を耳にした。
神谷 まや
僕に生きる希望を与えてくれた人。
21歳の女の人だったらしい。
笑うとえくぼのできるとても可愛らしいまやさん。
先生の話は次々と僕の出会ったあのまやさんとリンクしていく。
彼女はいまも生きている。
僕と一緒にこの濁りきった世界を。
そして僕のためにそんな世界を色付けていってくれている。
彼女の笑顔が僕に黄色を与えて。
彼女の涙が僕に青色を与えて。
彼女の流した血が僕に赤色を与えた。
そして彼女の全てが僕の世界を染めていた。
これからも雨上がりの世界に虹をかけるように、世界を塗りつぶしていこう。
僕にしか…
まやさんにしか…
僕らにしかできない方法と色合いで。
世界中の誰がなんと言おうと、世界を創った神様が怒ってしまおうと。
そう強く心に訴えると「ドクッ」僕らの心臓は音を立てた。
どうやら彼女も賛成らしい。
あれから彼女には一度も会っていない。
でも彼女を一時も忘れたことはないし、彼女の存在を感じることはある。
でもそんな瞬間にも彼女の姿は見えないのだ。
とても寂しい気持ちになる毎日だったが僕の中にはこんな妄想があったから耐え慣れた。
彼女はわざと僕と連絡も取らず、会おうともしないことによって、
僕に自分のことを思わせて、もっと好きにさせようという作戦を実行してるという。
無論そんなことをしなくてももう、僕の心は完全に彼女から逃げられないようにつながっているのに。
最後の診察室へと入るまでに昨日ちょうど書き終えたあの小説の最後を思い出した。
好きな人と一緒に周った世界一周旅行が終わり、日本の空港に着いてしまった時ような喪失感と達成感を感じながら。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
あんな歌を作ってからそれを彼女に聞かせるわけにもいかず、僕はとてももどかしかった。
そんな時にもらった彼女からのあの手紙。
彼女への想いは積もっていく一方だ。
きっと彼女は悪魔なんだこのまま僕を乗っ取っていってしまう。
それから何日か経って彼女の新しい携帯から連絡が来た。
そしてそれからはほぼ毎日の様に彼女に会った、デートした。
あの公園に行ったり、遊園地にいったり、僕の家に泊まりに来たり。
普通のカップルのような生活を送っていた。
僕らを見ていた誰もがそう思っただろう。
彼女がもう少しで死ぬなんて誰も感じなかっただろう。
どうにかしてこの幸せな日々を永遠に続けなければならない。
このことが僕の宿命のように感じてきていた。
そんなある日二人で山登りデートをした帰り彼女は深刻そうなでもすこし嬉しそうな顔で僕に尋ねてきた。
「嬉しい話と悲しい話二つあるんだけど、どっちから聞きたい?」
僕は、ドラマかよ!とか思いながら答えた。
「悲しい話は聞きたくないよ。
こんな楽しいデートの時に。
でもどうしても聞かなきゃなら悲しい話から聞きたい。」
僕の率直な思いだった。
「だめ!それじゃ話の辻褄が合わなくなる!こういう時は普通嬉しい話からでしょ?」
彼女はいたずらに笑いながら言った。
普段の僕なら
「そんなことないだろ。」
と冷静に突っ込めただろうがなぜかそれができなかった。
だから僕は彼女に言われるがまま嬉しい話から聞くことになった。
「嬉しい話ってのはね、私の病気が直せるかもしれない方法が見つかりました。」
彼女は拍手しながらとても嬉しそうに話した。
僕も思わずつられて拍手をした。
「おぉーー」
しかし彼女は急に暗い顔になって
「その方法はね、心臓移植って言うんだけどね。
とってもお金がかかるの。
だからできないんだ。」
僕は愕然とした。
そもそも心臓移植という言葉がよくわからなかった。
こんなに元気なのに意味がわからなかった。
「私、君と会っている時以外はずっと入院しているの」
その言葉の衝撃的で何も意味がわからなかった。
「初めて君と会った日は病院を抜け出してきたんだどね。それ以外の日は最後だからって先生に無理言って外出許可もらってたの」
僕が息をつく暇も与えず彼女は続けた。
「でもそれも今日が最後。
今まで本当にありがとう。本当に本当に楽しかった。
君に出会えてよかったです。
あの時君に話しかけてよかったです。」
僕はお金はいくらぐらいかかるのかと聞いた。
彼女は答えた。
そしてさらに続けた。
「両親も死んでしまった私には無理。
でももう後悔はない。
最後に君と過ごせたから。
私のことを忘れないでね。
さようなら」
その場から立ち去ろうとする彼女を見て僕は思わず叫んだ。
「お金なら…金ぐらい俺がなんとかする。だから、さよならとか言わないで。」
いま考えるとあまりにもありきたりなセリフだ。
だいたい一個人がはらえる金額だったのもすこし考えれば怪しかった。
僕は騙されたのだ。
それから彼女に会うことは一度もなかった。
でも後悔はしていない。
だって、騙されていてもいいと思えるぐらいの恋だったから。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
なんだか少し寂しいような気持ちで、最後の診察室に入った。
何回も通っているうちにどんだけで嫌いで、憂鬱な場所でもそんな感情が浮かんでくるものだ。
先生はいつもの笑顔で僕の胸に聴診器をあてた。
少し冷たいその感触がくすぐったかった。
そして機械を使った検査も終えて、結果が出るまでロビーで待った。
その間僕は、とてもそわそわしていた。
何故なら、いままで受け入れるのが怖くて先生にも家族にも黙っていてもらったことを聞くのもこの後だからだ。
それは僕に心臓を提供してくれた人についてだ。
本当なら国の決まりとかいうので聞くことはできない。
でも僕人生に続きを与えてくれた人の両親がどうしてもと頼み込んで秘密にそのことを知ることになった。
その人の意思を知ってほしいというのが両親の願いだから。
また生前彼女もそう願っていたそうだから。
僕に命を与えて、この世から飛び立っていった天使がいるのだ。
同じことが自分には出来るだろうか?
自分の家族がそうなった時、その決断ができるだろうか?
様々なことを考えながら診察室に再び入った。
そして驚きの名前を耳にした。
神谷 まや
僕に生きる希望を与えてくれた人。
21歳の女の人だったらしい。
笑うとえくぼのできるとても可愛らしいまやさん。
先生の話は次々と僕の出会ったあのまやさんとリンクしていく。
彼女はいまも生きている。
僕と一緒にこの濁りきった世界を。
そして僕のためにそんな世界を色付けていってくれている。
彼女の笑顔が僕に黄色を与えて。
彼女の涙が僕に青色を与えて。
彼女の流した血が僕に赤色を与えた。
そして彼女の全てが僕の世界を染めていた。
これからも雨上がりの世界に虹をかけるように、世界を塗りつぶしていこう。
僕にしか…
まやさんにしか…
僕らにしかできない方法と色合いで。
世界中の誰がなんと言おうと、世界を創った神様が怒ってしまおうと。
そう強く心に訴えると「ドクッ」僕らの心臓は音を立てた。
どうやら彼女も賛成らしい。
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