ハートの鎖

コミけん

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色を塗り足して

第7章 色を塗り足して

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これが僕の書いた小説だ。

心臓移植をするとなって、それが怖くて怖くて、その人の人生まで背負えるのか怖くて怖くて書いた小説だ。

初めて書くから、ただ思ったことを書いた。

二人で幸せになることを願いながら。

二人で死会わせ
(一度死んでしまってからあの世で会い、永遠に二人で幸せになる)
ことを願いながら。

いまでも本当に僕の中に現れるまやさんと相談しながら書いた小説だ。

夢中(むちゅう)でかいたのか
夢中(ゆめなか)で書いたのかのかさえも定かではない。

読んだ人によって感じ方は違うだろう


最初は一人だったが、途中から二人で書いたから。

一人は、綿あめのような甘い甘い恋の匂いを嗅ぎながら書き。

もう一人は、綿あめのような甘い甘い麻酔の匂いを嗅いでいたのかもしれない。

歌詞だけがのった歌にどんな曲をつけるのかだって人それぞれ違うはずだ。

だから人間ってめんどくさいし、面白い。

僕らは二人で一人になった。

それでも考え方は二つ持っている。

sweet girlをただ単純に(甘い香りをちらつかせ、ハニートラップを仕掛けてくる女の子)と訳す男の僕と
(直訳してあまい女の子。詐欺師としてまだまだ未熟な女の子)と訳すのまやさん。

男女両方の感性と、ふた通りの考え方を持った僕はきっともうこの世界を退屈だとは思わない。

でも特にやることも思いつかなかった。
だから僕はあの日の公園へなんとなく出かけた。

そしてあのときのようにブランコで風に吹かれていると、どこからかこんな歌が聞こえてきた。

何から説明すればいいのかわからない。

でもその適当なメロディーに乗りながら奏でられている言葉たちは、
ゆっくりとでも確実に、僕の心の中に眠る記憶を呼び起こしていった。

『初めて会った時から

君はとってもまぶしかったね

青虫みたいに幼かった僕は

その笑顔を見るのが好きだった

運命のいたずらなのか

君との距離はだんだん近くなっていって
それと同時に君を失うのが怖くなっていって

気づいた時にはもう愛してた

言葉じゃ伝えられないほどに

だから僕は蝶になって

君に向かって羽ばたき続けるよ

君がもういないってわかっていたって
絶対に離れない

たとえ僕の羽がもげて消え去ってしまっても

追いかけてみせるよ

だって君が好きだから

君を本当に愛してたから』

僕のハートは強く鼓動を打っていた。
なぜだかはわからない。

でも僕のための歌のように聞こえて。

歌っている彼の目の前まで行き僕は顔を上げた。
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