夏のスイートピー

あしたてレナ

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花たちの教え

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 なつを見たいスイートピーは、公園こうえんの花たちにながくさきつづけるためにはどうすればよいかをきました。
 
 シャクヤクはおもたそうな花をもちあげて、こうこたえました。
「お日さまをたくさんあびることかしら」
 
 ラベンダーは心地ここちのよいかおりをただよわせながら、こういました。
よる、たくさんねむることね」
 
 アマリリスは花びらの上にのったあさつゆをひからせ、こうおしえました。
「水をたくさんのむことよ」
 
 カラーはすらりとしたからだをさらにのばして、こうはなしました。
「ときどきいただく、えいようほうふなしょくじがたまらなくおいしいわよね」
 
 カスミソウはふわふわした花をふるわせ、こうためいきをつきました。
「もうしわけないけれど、アブラムシさんやハダニさんにはあまりちかづいてほしくないわ」

 また、スイートピーはなつがどんなものなのかもきました。
 
 バラはトゲのむきをそろえながら、空を見上げました。
「お日さまがとてもあつくなるのよ」
 
 タンポポはじめんのすきまから、いっしょうけんめいにかおを出しました。
「きゅうに大雨がふることがあるの」
 
 マリーゴールドはチョウのために、ミツをよういしました。
「セミさんのがっしょうがとてもよくひびくのよ」
 
 ユリは花をいっぱいにひらき、じょうひんなかおりをかぜにのせました。
あかるいじかんがながいから、つい、ふかしをしてしまうわ」
 
 キキョウは花びらをほしかたちにととのえました。
「ときどき、夜空よぞらひかるお花もさくのよ。すぐにきえてしまうけれど」

 スイートピーはますますなつたのしみになりました。おしえてもらった、花をながくさかせるコツはすべておこなって、けんめいにをのばしてえいようたっぷりのしょくじもたくさんとりました。アブラムシやハダニなど、花をびょうきにさせたりはっぱをべる虫をさけるためにテントウムシやカマキリをちかくによびよせ、みをまもりました。

 ♦︎♦︎♦︎
 
 スイートピーの花がさいて五日がたったころのこと。スイートピーは、自分じぶんからだの下のほうにさいていた花のいろがかわっていることに気づきました。よく見ると、花びらにしわができている花もあります。
「ああ……たいへん……どうしましょう……」
 花がかれてしまう日が、ちかづいていたのです。
 
 いちりんのスイートピーにさく花は、十すうことわれています。一つでもさきつづけることができれば、スイートピーはなつを見ることができます。
 しかし、さきつづけるためにえいようをつかってしまうと、たねをのこすことができません。もし、なつがくるまえにたねをつくらずすべての花がかれてしまったら……もう、子どもたちがなつを見るかのうせいはなくなってしまうのです。

 スイートピーはなやみました。なつを見るために、花をさかせつづけるためにえいようをつかうか、たねをのこして子どもたちにねがいをかなえてもらうためにえいようをつかうか。
 ためいきがこぼれます。すると、花びらが一まい、ひらひらとじめんにおちていきました。
 自分じぶんのいのちはあとどれくらいなのか、またなつを見ることはできないのか。かんがえているとスイートピーはかなしくなり、しょんぼりと下をむいてしまいました。

「あら、あなたどうしたの? そんなに下をむいて」
 スイートピーよりもとてもたかいところからこえがします。
「そんなんじゃあ、かれたとおもわれてしまうわよ」
 はっとしてかおを上げると、かだんのちゅうおうに立つサクラがさわさわとはっぱをゆらしました。
「ほら、ちょうどかだんのお手入れにきているわ。むねをはって、まえをむいてさきなさいな」
「ありがとう……サクラさん」
 サクラはまた、さわさわとやさしい音を立てました。

 さぎょうぎをきた人びとが、一つずつかだんをまわっています。そのうちの二人がスイートピーのさくかだんへやってくると、ざっそうをぬいたり、ひりょうをついかしてくれました。
「ああ、ありがとう。これでもうすこし、花をさかせていられますわ」
 スイートピーはおれいをいました。

 しかし、花のことばがこえない二人の人間にんげんは、さぎょうをしながらこんなことをはなしています。
「ここの手入れもあと一かいだねぇ」
「そうだね、七月のはじめからこうじがはじまるんだったかい?」
「きゅうこんでもなえでも、もらえないかねぇ」
「こんなにたくさんのしゅるいがあるんだ、しょぶんするのはもったいないね」
 そしてさいごに、スイートピーの下のほう、かれていた花をいくつかぷちんとつみとって「じゃあ、またうめたてのまえに」とって、ってしまいました。

 スイートピーにはさぎょうぎの人びとのはなしていることがわかりませんでした。
 それよりも、花をつみとられてしまったことがかなしかったのです。だって、これではたねをつくることもできないのです。

 夕やけが公園こうえんのゆうほどうに花たちのかげをつくります。あちらこちらから、花ばなのこえがします。
「そろそろ日がくれるわね」
明日あしたも早いから、わたしはもうねるわ」
「おやすみなさい」
「あら、わたしはもうすこしおきているわ」
「そろそろ一番星いちばんぼしが見えるんじゃなくって?」
今日きょうもいい天気だったわね」
「雨がふるのはいつかしら?」
 スイートピーはだれのこえも耳に入りません。
 ただしずかに、花をとじ、下をむくのでした。

 
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