4 / 4
4
たね
しおりを挟む
お日さまのかがやきはまし、セミたちが鳴くきせつがやってきました。
そう――夏です。
かだんにさいていた春の花たちはほとんどがかれ、かわりに夏の花たちが顔をのぞかせています。
さぎょうぎをきた人たちが、公園のいたるところにいます。かれた花も生きている花もひっこぬき、それぞれに台車にのせていきます。
スイートピーのさいていたかだんでも、同じようにさぎょうが行われていました。
かれた花は山のようにつまれ、生きている花は一つずつポットやプランターにうつしかえられています。
いそがしくうごく手が、スイートピーにもさしかかりました。そして、くきをつかむとスイートピーの体をいきおいよくぬきました。
そのままかれた花の山へ……つみあげられようとしたそのときです。
「あら」
一人がスイートピーにのこった、小さなさやに気がつきました。
「これ、たねができてる」
すてられるよていだったスイートピーは、たねの入ったさやのぶぶんをぷちんとおられ、どこかへつれて行かれました。
♦︎♦︎♦︎
つぎの年、ふたたび色とりどりの花がさくきせつになりました。
よく晴れたある日のこと、スイートピーはめざめました。空にむかってのびをすると、お日さまがきらきらとかがやいているのが見えます。
「あぁ……よくねましたわ……。そよ風が気もちいい」
「ごきげんよう、スイートピーさん」
「ごきげんよう、えっと……あなたは……」
スイートピーはとなりにさく花がだれなのかわかりません。なんせ、はじめて会ったのですから。
となりにさく花は、おもたそうな顔をうごかしてスイートピーに名のりました。
「はじめまして、わたしはヒマワリよ」
あこがれつづけたその名前に、スイートピーはとてもおどろきました。風にゆられるばかりで、しばらく声を出すことができませんでした。
「さくねんの夏のおわり……わたしがたねをつくったころ、あなたはここにやってきたの」
「ここは……どこなんですの……?」
スイートピーはやっとのことでたずねました。
「ここは花がだいすきなごふうふのおうちよ。あなたをうえるのが少しおそかったみたいで、もう春の花たちはあまりのこっていないのだけれど……あら、あなた、どうしたの……? わたし、気にさわるようなことを言ってしまったかしら……」
「いいえ……いいえ……!」
あたりを見まわすと、スイートピーのまわりにはたくさんのヒマワリがさいていました。つるをのばしたアサガオや、まっかなサルビアも花ひらいています。たくさんのセミの鳴き声が聞こえ、お日さまはじりじりとてりつけるようで少しくらくらとしましたが、ずっと見たかった夏が、目の前にありました。
「わたくし、とてもうれしいんです。ああ、やっと……やっと夏に出会えましたわ!」
スイートピーはあつい空気を体いっぱいにすいこみました。
ついにねがいをかなえたスイートピーは、夏の日ざしのもと、あまいかおりをただよわせ、もも色の花びらをきらきらとかがやかせていたのでした。
おしまい
そう――夏です。
かだんにさいていた春の花たちはほとんどがかれ、かわりに夏の花たちが顔をのぞかせています。
さぎょうぎをきた人たちが、公園のいたるところにいます。かれた花も生きている花もひっこぬき、それぞれに台車にのせていきます。
スイートピーのさいていたかだんでも、同じようにさぎょうが行われていました。
かれた花は山のようにつまれ、生きている花は一つずつポットやプランターにうつしかえられています。
いそがしくうごく手が、スイートピーにもさしかかりました。そして、くきをつかむとスイートピーの体をいきおいよくぬきました。
そのままかれた花の山へ……つみあげられようとしたそのときです。
「あら」
一人がスイートピーにのこった、小さなさやに気がつきました。
「これ、たねができてる」
すてられるよていだったスイートピーは、たねの入ったさやのぶぶんをぷちんとおられ、どこかへつれて行かれました。
♦︎♦︎♦︎
つぎの年、ふたたび色とりどりの花がさくきせつになりました。
よく晴れたある日のこと、スイートピーはめざめました。空にむかってのびをすると、お日さまがきらきらとかがやいているのが見えます。
「あぁ……よくねましたわ……。そよ風が気もちいい」
「ごきげんよう、スイートピーさん」
「ごきげんよう、えっと……あなたは……」
スイートピーはとなりにさく花がだれなのかわかりません。なんせ、はじめて会ったのですから。
となりにさく花は、おもたそうな顔をうごかしてスイートピーに名のりました。
「はじめまして、わたしはヒマワリよ」
あこがれつづけたその名前に、スイートピーはとてもおどろきました。風にゆられるばかりで、しばらく声を出すことができませんでした。
「さくねんの夏のおわり……わたしがたねをつくったころ、あなたはここにやってきたの」
「ここは……どこなんですの……?」
スイートピーはやっとのことでたずねました。
「ここは花がだいすきなごふうふのおうちよ。あなたをうえるのが少しおそかったみたいで、もう春の花たちはあまりのこっていないのだけれど……あら、あなた、どうしたの……? わたし、気にさわるようなことを言ってしまったかしら……」
「いいえ……いいえ……!」
あたりを見まわすと、スイートピーのまわりにはたくさんのヒマワリがさいていました。つるをのばしたアサガオや、まっかなサルビアも花ひらいています。たくさんのセミの鳴き声が聞こえ、お日さまはじりじりとてりつけるようで少しくらくらとしましたが、ずっと見たかった夏が、目の前にありました。
「わたくし、とてもうれしいんです。ああ、やっと……やっと夏に出会えましたわ!」
スイートピーはあつい空気を体いっぱいにすいこみました。
ついにねがいをかなえたスイートピーは、夏の日ざしのもと、あまいかおりをただよわせ、もも色の花びらをきらきらとかがやかせていたのでした。
おしまい
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
予想外の展開で、スイートピーの気持ちに寄り添えました 笑
美しい作品で、命の尊さや季節の移り変わり、繊細で色鮮やかで、花の表情や風景が目に浮かびました!
予想しなかった展開で面白かったです。
感想をお寄せくださりありがとうございます!
無謀とも思える願いなので、このあとどうなるの!?と思っていただけるようなストーリーを考えました。
楽しんでいただけたようで嬉しいです!