夏のスイートピー

あしたてレナ

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たね

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 お日さまのかがやきはまし、セミたちがくきせつがやってきました。
 そう――なつです。
 かだんにさいていたはるの花たちはほとんどがかれ、かわりになつの花たちがかおをのぞかせています。

 さぎょうぎをきた人たちが、公園こうえんのいたるところにいます。かれた花も生きている花もひっこぬき、それぞれに台車だいしゃにのせていきます。
 スイートピーのさいていたかだんでも、おなじようにさぎょうがおこなわれていました。
 かれた花は山のようにつまれ、生きている花は一つずつポットやプランターにうつしかえられています。

 いそがしくうごく手が、スイートピーにもさしかかりました。そして、くきをつかむとスイートピーの体をいきおいよくぬきました。
 そのままかれた花の山へ……つみあげられようとしたそのときです。
 
「あら」
 
 一人がスイートピーにのこった、小さなに気がつきました。
「これ、たねができてる」

 すてられるよていだったスイートピーは、たねの入ったのぶぶんをぷちんとおられ、どこかへつれてかれました。

 ♦︎♦︎♦︎

 つぎの年、ふたたびいろとりどりの花がさくきせつになりました。
 よくれたある日のこと、スイートピーはめざめました。空にむかってのびをすると、お日さまがきらきらとかがやいているのが見えます。
「あぁ……よくねましたわ……。そよかぜが気もちいい」
「ごきげんよう、スイートピーさん」
「ごきげんよう、えっと……あなたは……」
 スイートピーはとなりにさく花がだれなのかわかりません。なんせ、はじめてったのですから。
 となりにさく花は、おもたそうなかおをうごかしてスイートピーに名のりました。

「はじめまして、わたしはヒマワリよ」

 あこがれつづけたその名前なまえに、スイートピーはとてもおどろきました。かぜにゆられるばかりで、しばらくこえを出すことができませんでした。
「さくねんのなつのおわり……わたしがたねをつくったころ、あなたはここにやってきたの」
「ここは……どこなんですの……?」
 スイートピーはやっとのことでたずねました。
「ここは花がだいすきなごふうふのおうちよ。あなたをうえるのがすこしおそかったみたいで、もうはるの花たちはあまりのこっていないのだけれど……あら、あなた、どうしたの……? わたし、気にさわるようなことをってしまったかしら……」
「いいえ……いいえ……!」

 あたりを見まわすと、スイートピーのまわりにはたくさんのヒマワリがさいていました。つるをのばしたアサガオや、まっかなサルビアも花ひらいています。たくさんのセミのごえこえ、お日さまはじりじりとてりつけるようですこしくらくらとしましたが、ずっと見たかったなつが、目のまえにありました。

「わたくし、とてもうれしいんです。ああ、やっと……やっとなつ出会であえましたわ!」
 スイートピーはあつい空気を体いっぱいにすいこみました。
 ついにねがいをかなえたスイートピーは、なつの日ざしのもと、あまいかおりをただよわせ、ももいろの花びらをきらきらとかがやかせていたのでした。



 おしまい
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みんなの感想(2件)

2024.02.03 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

解除
三谷朱花
2023.12.30 三谷朱花

予想しなかった展開で面白かったです。

2023.12.30 あしたてレナ

感想をお寄せくださりありがとうございます!
無謀とも思える願いなので、このあとどうなるの!?と思っていただけるようなストーリーを考えました。
楽しんでいただけたようで嬉しいです!

解除

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