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旅の終わり

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 ヤマネコ、ネズミ、イノシシがゴリラの住む森をぬけると、すぐに『ニシダカやま』への道が見えてきました。
 三びきは高い高い『ニシダカやま』をけんめいに登ります。冬をむかえようとしている山は食べものも少なくつめたい風がふきつけますが、イノシシの鼻はわずかな食べものをさがし出し、三びきはおなかの虫になやまされることなく頂上ちょうじょうを目指すことができました。
 寒い夜には大きなを見つけ、みんないっしょに中でねむりました。ぎゅうっと集まると寒さもなんのその。三びきの中で一番小さなネズミは、ヤマネコとイノシシの温かな毛につつまれて、少しもこわくありませんでした。
 ヤマネコは道中で見つけたものについて、二ひきに教えました。もちろん、うそか本当かわからない話もありましたが、それが時にはわらいにわり、時にはネズミやイノシシに直してもらい、ヤマネコはより多くの知識ちしきを身につけることができました。なにより、たくさんの色にかこまれて仲間なかまと旅をしていることが幸せでした。

 星のきれいな夜のこと。
 三びきはようやく『ニシダカやま』の頂上ちょうじょうへたどり着きました。
「ネズミくん、イノシシくん、ここが頂上ちょうじょうだよ」
「うわあ! すごいながめ!」
「プゴッ! 星がとってもきれいだね!」
 夜空はどこまでも続き、真っ暗な空にはいくつもの星がかがやいています。夜目よめのきくヤマネコはあちこちを指さして、三びきが通ってきた場所をネズミとイノシシに教えました。
 三びきはそれぞれに、落としものをとどける旅のことを思います。道にまよったり、おそろしいヘビに出会ったりもしましたが、なんとかここまでくることができました。

「さあ、そろそろこのぼうしをお星さまに返そうか」
 ヤマネコのことばを合図に、三びきは大きな声で星をよびました。
「おぉーい! お星さまー! ぼうしを返しにきましたー!」

 すると、一つの星がひときわ強くかがやきました。
「おはよう、きみたち。今日もいい夜だね」
 星はやさしい声で三びきにこたえます。
「お星さま、これをどうぞ」
 ヤマネコは星に黄色いぼうしをかぶせました。
「おや、ぼうしだね。これをとどけにきてくれたのかい?」
「ぼくたちの住む森に落ちていたんです」
 ネズミはぼうしを見つけたときのことを思い出しながら言いました。
「そうだったんだ。とても温かいや。どうもありがとう」
「それじゃあおいらたちは帰るね! プゴッ!」
 イノシシがそう言うと、ヤマネコとネズミは手をふるように星に向かって前足を上げました。星もそれにこたえるように、きらっと体をかがやかせ、三びきを見送ります。

 ヤマネコ、ネズミ、イノシシの顔はれとしていました。ようやく旅の目的を達成たっせいしたのです。三びきは歌い、おどるようにはねながら、夜の山を下っていきました。

 一方、ぼうしを受け取った星は、空から三びきを見守りながらつぶやきました。
「ところであの子たちは、どうしてこんな所までぼうしを持ってきてくれたんだろうなあ」

 ♦︎♦︎♦︎

 知ったかぶりのヤマネコ、ちょっぴりこわがりのネズミ、食いしんぼうのイノシシが旅を終えてからしばらくたち、三びきからぼうしを受け取った星は、流れ星になりました。
 落ちた先はヤマネコたちの住む森からそう遠くない、一軒いっけんの家の近く。星のかぶっていた黄色いぼうしはふわりと地面に落ちました。
 朝になり、家から出てきた子どもは落っこちているぼうしに気づきました。とても見おぼえのあるぼうしです。
「あれっ? なくしたと思ってたぼうし、どうしてこんな所にあるんだろう」
 子どもはぼうしについたよごれを手ではらうと頭にかぶります。

 ぼうしは子どもの頭の上で太陽の光をびて、きらきらとかがやきました。
 それはまるで、夜空にきらめく星のまたたきのようにも見えたのでした。



 おしまい
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みんなの感想(2件)

Y.Itoda
2024.01.19 Y.Itoda

この作品の魅力は、動物たちのキャラクターと、絵本の役割にあると思いました。主人公のヤマネコは、知ったかぶりで自信過剰ながらも、仲間を思いやる優しい心を持っています。ネズミは、こわがりで臆病ながらも、ヤマネコについていく勇気を見せます。イノシシは、食いしんぼうでおっちょこちょいながらも、力強くて頼りになります。彼らは、それぞれの長所と短所を持ちながらも、協力して目的を達成しようとします。絵本は、彼らの旅のきっかけであり、目標であり、報酬でもあります。絵本は、彼らに夢や希望を与えるだけでなく、彼らの成長や感動を読者に伝える手段にもなります。
この作品は、短いながらも、動物たちの冒険と絵本の魔法を感じさせる作品で、最後のシーンで、ほっこりしました。この作品は、絵本のように、読者の心に残る作品だと思います。

ありがとうございました。

あしたてレナ
2024.01.19 あしたてレナ

読了いただきまして、ありがとうございます!
それぞれが自分の弱さを乗り越え、目的を達成する旅を描きたいと思いつくったお話です。
旅の終わりに、成長した三匹の姿を感じていただけたのでしたら嬉しいです!
絵本には発見や興味や学びが必要と考えています。
そういったものが読んだ方に伝われば幸いです。

解除
朱村びすりん

最後まで読ませていただきました! 世界観がとっても綺麗なお話で、小学生の頃に読んだファンタジー作品を思い出しました。

こわがりのネズミくん、仲間のためにとっても勇敢に頑張ったね! ヘビとの戦いのとき、心の中で頑張れ!!と叫んじゃいました😌

最後、星に無事ぼうしを届けられてよかった。そのまたあとに届くべき相手に届いたのも……✨

読了したあとに懐かしい気持ちにさせてくれる、素敵な作品でした。
ありがとうございました!

あしたてレナ
2023.09.29 あしたてレナ

お返事が遅くなり申し訳ありません!
読了いただき、ありがとうございます。
それぞれの動物が自分の問題と向き合い、解決していくなかに読者へも学びがあったらいいなと思いながら書かせていただきました。
素敵な作品と言っていただけて嬉しいです!

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