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私の始まり
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はじめまして
ページを開いてくれてありがとうございます
これは実話です。
私という人間が出来始めた頃の
幼少期からの話を始めましょう。
私が物心ついた頃の記憶はDVだ
父が母に炊飯器を投げつけ
必死に玄関から飛び出した母を
髪を掴み戻ってきた父の姿でした。
何に怒っているのかは
毎回わからない。
お酒を飲んでるわけでもなく
父は母によく手をあげていた
8歳だった私は
髪をひっぱられて連れ戻される母の泣き声と
反抗的に父に逆らっている母の声
聞いた事もない声だ
その光景がとても怖く震えていました
母が叫びながら
父方の祖父に助けて欲しいと電話をして!と
泣いていました
私は受話器をとったものの
指まで震えて
ボタンをうまく押せなかった
何とか電話が繋がり
祖父が慌てて2人を引き離した
祖父は父に怒っている
その時はそれで収まる。
そんな頃からか
週末になると勉強を習いに行く。と
兄と姉が泊まりで居なくなる
私も愚図り、ついて行きたいと
毎週泣いて駄々をこねていた
兄、姉が好きだったわけではないのだけれど
何故 一緒に行けないのか…
私がまだ小さいからだと言われた
謎めいた事ばかりだった
私は音楽を聴くのが好きで
兄の部屋でカセットテープを流し
気分良く歌っていた
押入れがあり
キチンと整理された中に
アルバムのような物を見つけた
笑っている兄と姉
後ろには海が写っている
白いバルコニーのような場所で
私の記憶にはない場所
ページをめくると
黒髪のロングヘアーの女性が
兄や姉と笑って写っている
これは誰なのか…
聞いていた曲は耳に届かず眺めていた
それを見ても私は
すぐには母に聞けませんでした
兄が中学生になった頃
小児糖尿病だとわかりました。
母は毎日のようにカロリー計算の本を読み
お弁当や夕飯を作っているのを
私は隣でくっついて見ていた
子供ながらに
母の必死さが伝わった
母が懸命でも
姉は思春期で母に強く当たり
小学生の頃から冷蔵庫から
ビールを取り出し
私と2人部屋の勉強机に座って
「チクるなよ」
と言い、窓を開け2階から
空き缶を捨てていた
兄は糖尿病から目を背け
母に隠れてお菓子を沢山食べていた
今思えば反抗期、真っ盛りだったのだろう
私と弟は母っ子でしたが
兄と姉に手がかかり
あまり相手にしてもらえる時間が
ありませんでした
一緒に居れたのは
母が内職をしている時
リュックサックのほつれをハサミで
切る作業でした
私もハサミを借り、母と畳の上に座り
「傷つけないようにね」
と、優しい母
唯一 母に甘えられる時間だったように
感じていた
優しい母も厳しさは勿論あり
兄、姉、私は
お風呂掃除、食器拭き、食器を直す
これが毎日3人のお手伝いでした。
私は楽しくやっていたけれど
年頃になってきた上の2人は
部屋に戻るなり
母を悪く言うのを聞いていた
特に姉は逆らう事を覚え
母に怒鳴り部屋にこもったりでしたが
父は子育てにはノータッチでした
上の2人に手がかかるからか
私と弟は父方の祖父に懐き
毎日のように泊まりに行くようになった
祖父は優しく
母が今日は駄目だと反対しても
電話1本で原付に乗って迎えにきてくれた
弟とじゃんけんをして
前に乗るか後ろに乗るか
今日はどっちが祖父の布団で寝るか
じいちゃんの取り合いでした。
私も小学生3年になった頃
急に兄と姉が家から居なくなりました
4人での生活は
何だか居心地が悪かった
祖父の家への泊まりも反対され
母は急に厳しくなりました
急に卵焼きとお味噌汁の作り方を教え
料理する時は必ず横に居るように
なりました
私の家庭は今では珍しくないですが
兄と姉は父の連れ子で
私と弟の4人兄妹でした
姉が2歳の頃、母と結婚
6つ離れた兄は優しく
4つ離れた姉とは
うまくいっていなかったように思います
私と2つ下の弟はまだ幼く
父と母の現状と兄と姉の関係は
わかっていませんでした。
私は黒髪の女性が
兄と姉の本当の母なのかなと
半信半疑でしたが
2人の笑顔の写真を見ると
何となくそうなんだと胸の内に置きました
ある日 突然
母が夕飯を作っていると
誰かと電話で話していました
どこか焦った様子で
机の上には一人分の食事が置いてあった
いつものようにテレビを見ながら
様子を伺う私のそばで
母は押し入れを開け旅行バッグに
何か詰めている
弟はコタツで寝ている
私は気になって母ばかり見ている
すると突然
「早く靴履いて!!!」と母が言う
車に荷物をのせ
弟を抱き、後部座席に寝かせている
私も慌てて靴を履こうとするが
母の慌て方に動揺して上手く履けない
仕方なく靴のかかとを踏み
車に飛び乗りました
アクセルを踏む母
ハンドルを持つ手が震えている
私も助手席で震えていました
「お母さん…どこに行くん?」
「おばあちゃん家やで」
「なんで?お父さんは?」
「もうお父さんとは暮らせんねん」
「喧嘩ばっかりするから?」
「お母さんな、お兄ちゃんとお姉ちゃんが出て行ったら離婚するって決めてたんや」
私は離婚と言う言葉の意味は
わからなかったけれど
父と離れる事はテーブルの上の
一人分の食事を思い出して察した
緊張するつま先がガタガタ震えている
少しずつ暗くなっていく道が
余計に怖さを増していく
父があの日のように追いかけて来ないかと
その晩
私は眠れませんでした
弟はスヤスヤ寝ている
私は興奮状態で
今にも父が追いかけてきて
母を連れて行くんじゃないかと…
それは的中した
夜の23時頃インターフォンが鳴る
玄関を叩く
ガシャンガシャンと鳴る音が恐く
布団に潜り込み耳を塞いだ
母も動揺している
母方の祖父が玄関を開ける
父が怒鳴る
「嫁も子供も返せ!!」
「娘も孫も物じゃない、今まで何年も頑張ってきたが娘が帰って来た事など1度もないんだから気持ちは固まって帰って来てるはずや」
それでも父は母の名前を叫び呼ぶ
母は怯えながらも立とうとする
私は母の服を掴んで
人差し指を立てて静かにと首を振る
父はまた叫ぶ
「子供だけでも返せ!」と
母の顔が変わった
立ち上がり玄関に向かう
母の声が微かに聞こえる
「2人は私の子や 渡さへん」
そう…お母さん…
渡さないで…と何度も願った
祖父との話もあり
その日父はそのまま1人で帰って行った
恐ろしくて眠れなかった
母も眠れないようだった
私は母の服を握って明るくなった頃
眠りについた
弟は何も知らず
何故母方のおじいちゃんの家に居るのか
不思議に思いながらも遊んでいた
それから母は度々出掛けるようになった
私と弟はしばらく学校を休んでいたが
母が1人でどこに行っているのか…
その時間も不安だった
ある夜
玄関が開き 父の声がした
私は心臓がバクバクしている
母は泣いている
どうなってしまうのか
私達の名前を呼んでいる
母は泣き崩れながら
連れて行かないでと言っている
そんな母を見て私も涙が出たけど
拒めば拒むほど母が苦しいのがわかった
寝ている弟を車に乗せる父
母が泣きじゃくる
後は私だ…
「優華…絶対迎えに行くからな…」と
母が言う
「うん、絶対来てな」
と袖で涙を拭きながら
父の車に乗った
車が動き出しても母の叫び泣く声が聞こえる
私はここまでして私達を連れ出す父が
怖い人だと思った
車の中はシーンとしていて
父は無言だ
家の方ではない山道に入る
どれくらい時間が経ったのかさえ
分からないほど無音だ
父は車を停車させた
ライトを当てるとわかった
父の職場の近くの橋の手前だった
私の父はトラックの仕事をしていて
たまに乗せてくれた
事務所にも連れて行って貰った事がある
そこで見た事もない大きな砂山や
高い場所があり、そこに向かって
落ちている石を蹴って遊んだ
会社のおじさん達とも
話をして遊んでもらった事があった
今、まさにそこにいる
父が口を開いてドキッとした
「優華…ここでお父さんと死のうか」と。
私は返事をするのが怖かったけど
「ウチお母さんと住みたい」と言った
「お父さんも一緒や」と言う
「でも、もう住めんねんやろ?」と言うと
父は泣き出した
私は父が泣き止むまで無言を続けて
死と言う言葉の恐怖に耐えていた
父がニュートラルからバックに
ハンドルをきりだした時
死んでしまうのか、どこに行くのか怖くて
弟の服を掴んだ
車は走り出し
母と住んでいた家に着いた
父が弟を4人で寝ていた寝室に寝かし
私も自分で布団に入ったが
母を想うと涙が止まらなかった
いつもいるはずの母が居ないからだ
それを父に気付かれるのが嫌で
息をころして泣いた
目が覚めると父は居なかった
きっと仕事だろう…
目が覚めた弟は泣いている
こっちが泣きたいくらいだ。
と思いながら慰める
夕飯の時間になると父は
じいちゃんとばあちゃんの家に
私達を連れて行き夕飯を食べ
また家に帰る。
学校は休んだままだった
そんな日が数日続いて思った
父はほとんど居ない。
結局私達の御飯は、ばあちゃんだった
私も弟も孤独だった
父に言った
じいちゃんとばあちゃんの家に行きたいと。
父はためらわず
やっと言ってくれたか…
のように見えた。
毎晩泣く弟を寝かしつけるのも無理な人だ。
一緒の時間に
布団に入った事もない父だからだ。
全部母がしていた
父は何も出来ない人だった。
母が居る時も夜になると麻雀を友達を集めて
ジャラジャラと音を鳴らして
給料が入ればパチンコに行く。
生活費を母に渡せば自分の好きな事を
しているような人だったが
仕事は真面目だった
私達は祖父母の家に行き
そこから学校に通った
とにかくお弁当の時間が嫌だった
ばあちゃんは料理が苦手で
混ぜ寿司や煮物か卵焼きくらいしか
出来なかった
だから、お弁当に入っているのは
卵焼きと赤いウインナーと
白ご飯に梅干しがのっているだけだった
母の時は可愛い弁当箱に色とりどりで
可愛い包みに可愛いポーチに
フルーツもあった。
友達に自慢するほどだった
のが、一変
2色弁当でアルミの弁当箱に
昔ながらのハンカチの包みだった。
お弁当の中身を隠して急いで食べた
弟も同じ気持ちじゃないだろうか?
とも思っていた
きっと、この日が来る事を
母はわかっていたんだろう。
だから料理を教えたのだと思う
2色弁当が我慢出来なくなり
ばあちゃんに言うと
「そんなに食べたい物があるなら自分で作れ!」と怒られた。
あんなに優しかったばあちゃんが
意地悪に思えた。
じいちゃんもそうだった。
母の事を言おうものなら怒られた
私はばあちゃんにお金をもらって
自分で買い物に行き
母のお弁当を思い出し
教えてもらった卵焼きやウインナーに
プラスしてブロッコリーや、ちくわにキューリを入れて見よう見真似で
5時半に起きてお弁当を毎日作った。
寝坊した日にはパン屋さんに行き
パンの日もあった。
それは新鮮で嬉しかった。
ひと月程経った頃
帰り道の電信柱の影に母を見つけた
涙が出そうになりながら走った
久しぶりに呼ぶ
「お母さん!」
と言うのが嬉しくてたまらなかった。
母はギューッと抱きしめて
「ごめんな…ごめんな…」と泣いている
私は少し大人になったかのように
「ウチお弁当作れるようになったよ!」と
自慢げに言った
母は
「えらいな えらいな」と頭を撫でた
弟も学校から出てきて母に気付き
抱きついた
3人で抱き合った
このぬくもりが恋しくてたまらなかった
離れるのは寂しいけれど
母は、またこんな風にして
会いに来るからと言った。
こんな日が数回続いた
母の提案で学校が終わって遊ぶ時間に
バスに乗って母の実家に遊びに来ないかと
言った。
私達は声を揃えて「行く!」と言った
ドキドキしながら初めて乗るバス
バス停で手を振って待ってくれている母
母と会ってコミュニケーションをとって
笑っている時間が幸せだ
兄も姉も居なく
母をひとりじめした優越感だ
祖父母にも父にも秘密だけれど
幸せの為に嘘をつくしかなかった
毎日のお小遣いが120円だった
その頃の缶ジュースが120円だったからか
120円と決まっていた。
お菓子を買うもよし、
缶ジュースに使うもよし。
とにかく120円と決まっていたのに
ある日、弟がやらかしてしまった
バス代が子供90円だったのを
120円ではなく、90円ちょうだいと
言ってしまったのだ。
ばあちゃんは何故90円や?と聞く
ばあちゃんは、察していた
私が帰って来てお小遣いを貰うまでに
じいちゃんに大きな声で怒鳴って叱られた
じいちゃんは母に激怒していた
いらない知恵を与えて
子供に、嘘をつかせたと。
電話をしてやる!と怒っている
ごめんなさいと何度謝っても
聞いてくれない
「お母さんには言わんであげて!」と
頼んだけれど、もう手遅れだった
怒鳴る声が聞こえる。
もう会えなくなる。と、悲しくなった
胸が引き裂かれるような気持ちだ
それから会えなかった。
母からはダンボールで季節に合わせた服が
送られてきた
夏には可愛いムラサキ色の花柄の水着が
入っていた。
母らしい服が、沢山あった
私と同じように弟も感じていたのか…
弟は寂しいのだろうが毎日楽しそうだった
父はほとんど居なかったが
たまに正装のような服で
夕飯を食べに寄る事があった
子供ながらに思った
大事な用事に行っているんだろう…
ページを開いてくれてありがとうございます
これは実話です。
私という人間が出来始めた頃の
幼少期からの話を始めましょう。
私が物心ついた頃の記憶はDVだ
父が母に炊飯器を投げつけ
必死に玄関から飛び出した母を
髪を掴み戻ってきた父の姿でした。
何に怒っているのかは
毎回わからない。
お酒を飲んでるわけでもなく
父は母によく手をあげていた
8歳だった私は
髪をひっぱられて連れ戻される母の泣き声と
反抗的に父に逆らっている母の声
聞いた事もない声だ
その光景がとても怖く震えていました
母が叫びながら
父方の祖父に助けて欲しいと電話をして!と
泣いていました
私は受話器をとったものの
指まで震えて
ボタンをうまく押せなかった
何とか電話が繋がり
祖父が慌てて2人を引き離した
祖父は父に怒っている
その時はそれで収まる。
そんな頃からか
週末になると勉強を習いに行く。と
兄と姉が泊まりで居なくなる
私も愚図り、ついて行きたいと
毎週泣いて駄々をこねていた
兄、姉が好きだったわけではないのだけれど
何故 一緒に行けないのか…
私がまだ小さいからだと言われた
謎めいた事ばかりだった
私は音楽を聴くのが好きで
兄の部屋でカセットテープを流し
気分良く歌っていた
押入れがあり
キチンと整理された中に
アルバムのような物を見つけた
笑っている兄と姉
後ろには海が写っている
白いバルコニーのような場所で
私の記憶にはない場所
ページをめくると
黒髪のロングヘアーの女性が
兄や姉と笑って写っている
これは誰なのか…
聞いていた曲は耳に届かず眺めていた
それを見ても私は
すぐには母に聞けませんでした
兄が中学生になった頃
小児糖尿病だとわかりました。
母は毎日のようにカロリー計算の本を読み
お弁当や夕飯を作っているのを
私は隣でくっついて見ていた
子供ながらに
母の必死さが伝わった
母が懸命でも
姉は思春期で母に強く当たり
小学生の頃から冷蔵庫から
ビールを取り出し
私と2人部屋の勉強机に座って
「チクるなよ」
と言い、窓を開け2階から
空き缶を捨てていた
兄は糖尿病から目を背け
母に隠れてお菓子を沢山食べていた
今思えば反抗期、真っ盛りだったのだろう
私と弟は母っ子でしたが
兄と姉に手がかかり
あまり相手にしてもらえる時間が
ありませんでした
一緒に居れたのは
母が内職をしている時
リュックサックのほつれをハサミで
切る作業でした
私もハサミを借り、母と畳の上に座り
「傷つけないようにね」
と、優しい母
唯一 母に甘えられる時間だったように
感じていた
優しい母も厳しさは勿論あり
兄、姉、私は
お風呂掃除、食器拭き、食器を直す
これが毎日3人のお手伝いでした。
私は楽しくやっていたけれど
年頃になってきた上の2人は
部屋に戻るなり
母を悪く言うのを聞いていた
特に姉は逆らう事を覚え
母に怒鳴り部屋にこもったりでしたが
父は子育てにはノータッチでした
上の2人に手がかかるからか
私と弟は父方の祖父に懐き
毎日のように泊まりに行くようになった
祖父は優しく
母が今日は駄目だと反対しても
電話1本で原付に乗って迎えにきてくれた
弟とじゃんけんをして
前に乗るか後ろに乗るか
今日はどっちが祖父の布団で寝るか
じいちゃんの取り合いでした。
私も小学生3年になった頃
急に兄と姉が家から居なくなりました
4人での生活は
何だか居心地が悪かった
祖父の家への泊まりも反対され
母は急に厳しくなりました
急に卵焼きとお味噌汁の作り方を教え
料理する時は必ず横に居るように
なりました
私の家庭は今では珍しくないですが
兄と姉は父の連れ子で
私と弟の4人兄妹でした
姉が2歳の頃、母と結婚
6つ離れた兄は優しく
4つ離れた姉とは
うまくいっていなかったように思います
私と2つ下の弟はまだ幼く
父と母の現状と兄と姉の関係は
わかっていませんでした。
私は黒髪の女性が
兄と姉の本当の母なのかなと
半信半疑でしたが
2人の笑顔の写真を見ると
何となくそうなんだと胸の内に置きました
ある日 突然
母が夕飯を作っていると
誰かと電話で話していました
どこか焦った様子で
机の上には一人分の食事が置いてあった
いつものようにテレビを見ながら
様子を伺う私のそばで
母は押し入れを開け旅行バッグに
何か詰めている
弟はコタツで寝ている
私は気になって母ばかり見ている
すると突然
「早く靴履いて!!!」と母が言う
車に荷物をのせ
弟を抱き、後部座席に寝かせている
私も慌てて靴を履こうとするが
母の慌て方に動揺して上手く履けない
仕方なく靴のかかとを踏み
車に飛び乗りました
アクセルを踏む母
ハンドルを持つ手が震えている
私も助手席で震えていました
「お母さん…どこに行くん?」
「おばあちゃん家やで」
「なんで?お父さんは?」
「もうお父さんとは暮らせんねん」
「喧嘩ばっかりするから?」
「お母さんな、お兄ちゃんとお姉ちゃんが出て行ったら離婚するって決めてたんや」
私は離婚と言う言葉の意味は
わからなかったけれど
父と離れる事はテーブルの上の
一人分の食事を思い出して察した
緊張するつま先がガタガタ震えている
少しずつ暗くなっていく道が
余計に怖さを増していく
父があの日のように追いかけて来ないかと
その晩
私は眠れませんでした
弟はスヤスヤ寝ている
私は興奮状態で
今にも父が追いかけてきて
母を連れて行くんじゃないかと…
それは的中した
夜の23時頃インターフォンが鳴る
玄関を叩く
ガシャンガシャンと鳴る音が恐く
布団に潜り込み耳を塞いだ
母も動揺している
母方の祖父が玄関を開ける
父が怒鳴る
「嫁も子供も返せ!!」
「娘も孫も物じゃない、今まで何年も頑張ってきたが娘が帰って来た事など1度もないんだから気持ちは固まって帰って来てるはずや」
それでも父は母の名前を叫び呼ぶ
母は怯えながらも立とうとする
私は母の服を掴んで
人差し指を立てて静かにと首を振る
父はまた叫ぶ
「子供だけでも返せ!」と
母の顔が変わった
立ち上がり玄関に向かう
母の声が微かに聞こえる
「2人は私の子や 渡さへん」
そう…お母さん…
渡さないで…と何度も願った
祖父との話もあり
その日父はそのまま1人で帰って行った
恐ろしくて眠れなかった
母も眠れないようだった
私は母の服を握って明るくなった頃
眠りについた
弟は何も知らず
何故母方のおじいちゃんの家に居るのか
不思議に思いながらも遊んでいた
それから母は度々出掛けるようになった
私と弟はしばらく学校を休んでいたが
母が1人でどこに行っているのか…
その時間も不安だった
ある夜
玄関が開き 父の声がした
私は心臓がバクバクしている
母は泣いている
どうなってしまうのか
私達の名前を呼んでいる
母は泣き崩れながら
連れて行かないでと言っている
そんな母を見て私も涙が出たけど
拒めば拒むほど母が苦しいのがわかった
寝ている弟を車に乗せる父
母が泣きじゃくる
後は私だ…
「優華…絶対迎えに行くからな…」と
母が言う
「うん、絶対来てな」
と袖で涙を拭きながら
父の車に乗った
車が動き出しても母の叫び泣く声が聞こえる
私はここまでして私達を連れ出す父が
怖い人だと思った
車の中はシーンとしていて
父は無言だ
家の方ではない山道に入る
どれくらい時間が経ったのかさえ
分からないほど無音だ
父は車を停車させた
ライトを当てるとわかった
父の職場の近くの橋の手前だった
私の父はトラックの仕事をしていて
たまに乗せてくれた
事務所にも連れて行って貰った事がある
そこで見た事もない大きな砂山や
高い場所があり、そこに向かって
落ちている石を蹴って遊んだ
会社のおじさん達とも
話をして遊んでもらった事があった
今、まさにそこにいる
父が口を開いてドキッとした
「優華…ここでお父さんと死のうか」と。
私は返事をするのが怖かったけど
「ウチお母さんと住みたい」と言った
「お父さんも一緒や」と言う
「でも、もう住めんねんやろ?」と言うと
父は泣き出した
私は父が泣き止むまで無言を続けて
死と言う言葉の恐怖に耐えていた
父がニュートラルからバックに
ハンドルをきりだした時
死んでしまうのか、どこに行くのか怖くて
弟の服を掴んだ
車は走り出し
母と住んでいた家に着いた
父が弟を4人で寝ていた寝室に寝かし
私も自分で布団に入ったが
母を想うと涙が止まらなかった
いつもいるはずの母が居ないからだ
それを父に気付かれるのが嫌で
息をころして泣いた
目が覚めると父は居なかった
きっと仕事だろう…
目が覚めた弟は泣いている
こっちが泣きたいくらいだ。
と思いながら慰める
夕飯の時間になると父は
じいちゃんとばあちゃんの家に
私達を連れて行き夕飯を食べ
また家に帰る。
学校は休んだままだった
そんな日が数日続いて思った
父はほとんど居ない。
結局私達の御飯は、ばあちゃんだった
私も弟も孤独だった
父に言った
じいちゃんとばあちゃんの家に行きたいと。
父はためらわず
やっと言ってくれたか…
のように見えた。
毎晩泣く弟を寝かしつけるのも無理な人だ。
一緒の時間に
布団に入った事もない父だからだ。
全部母がしていた
父は何も出来ない人だった。
母が居る時も夜になると麻雀を友達を集めて
ジャラジャラと音を鳴らして
給料が入ればパチンコに行く。
生活費を母に渡せば自分の好きな事を
しているような人だったが
仕事は真面目だった
私達は祖父母の家に行き
そこから学校に通った
とにかくお弁当の時間が嫌だった
ばあちゃんは料理が苦手で
混ぜ寿司や煮物か卵焼きくらいしか
出来なかった
だから、お弁当に入っているのは
卵焼きと赤いウインナーと
白ご飯に梅干しがのっているだけだった
母の時は可愛い弁当箱に色とりどりで
可愛い包みに可愛いポーチに
フルーツもあった。
友達に自慢するほどだった
のが、一変
2色弁当でアルミの弁当箱に
昔ながらのハンカチの包みだった。
お弁当の中身を隠して急いで食べた
弟も同じ気持ちじゃないだろうか?
とも思っていた
きっと、この日が来る事を
母はわかっていたんだろう。
だから料理を教えたのだと思う
2色弁当が我慢出来なくなり
ばあちゃんに言うと
「そんなに食べたい物があるなら自分で作れ!」と怒られた。
あんなに優しかったばあちゃんが
意地悪に思えた。
じいちゃんもそうだった。
母の事を言おうものなら怒られた
私はばあちゃんにお金をもらって
自分で買い物に行き
母のお弁当を思い出し
教えてもらった卵焼きやウインナーに
プラスしてブロッコリーや、ちくわにキューリを入れて見よう見真似で
5時半に起きてお弁当を毎日作った。
寝坊した日にはパン屋さんに行き
パンの日もあった。
それは新鮮で嬉しかった。
ひと月程経った頃
帰り道の電信柱の影に母を見つけた
涙が出そうになりながら走った
久しぶりに呼ぶ
「お母さん!」
と言うのが嬉しくてたまらなかった。
母はギューッと抱きしめて
「ごめんな…ごめんな…」と泣いている
私は少し大人になったかのように
「ウチお弁当作れるようになったよ!」と
自慢げに言った
母は
「えらいな えらいな」と頭を撫でた
弟も学校から出てきて母に気付き
抱きついた
3人で抱き合った
このぬくもりが恋しくてたまらなかった
離れるのは寂しいけれど
母は、またこんな風にして
会いに来るからと言った。
こんな日が数回続いた
母の提案で学校が終わって遊ぶ時間に
バスに乗って母の実家に遊びに来ないかと
言った。
私達は声を揃えて「行く!」と言った
ドキドキしながら初めて乗るバス
バス停で手を振って待ってくれている母
母と会ってコミュニケーションをとって
笑っている時間が幸せだ
兄も姉も居なく
母をひとりじめした優越感だ
祖父母にも父にも秘密だけれど
幸せの為に嘘をつくしかなかった
毎日のお小遣いが120円だった
その頃の缶ジュースが120円だったからか
120円と決まっていた。
お菓子を買うもよし、
缶ジュースに使うもよし。
とにかく120円と決まっていたのに
ある日、弟がやらかしてしまった
バス代が子供90円だったのを
120円ではなく、90円ちょうだいと
言ってしまったのだ。
ばあちゃんは何故90円や?と聞く
ばあちゃんは、察していた
私が帰って来てお小遣いを貰うまでに
じいちゃんに大きな声で怒鳴って叱られた
じいちゃんは母に激怒していた
いらない知恵を与えて
子供に、嘘をつかせたと。
電話をしてやる!と怒っている
ごめんなさいと何度謝っても
聞いてくれない
「お母さんには言わんであげて!」と
頼んだけれど、もう手遅れだった
怒鳴る声が聞こえる。
もう会えなくなる。と、悲しくなった
胸が引き裂かれるような気持ちだ
それから会えなかった。
母からはダンボールで季節に合わせた服が
送られてきた
夏には可愛いムラサキ色の花柄の水着が
入っていた。
母らしい服が、沢山あった
私と同じように弟も感じていたのか…
弟は寂しいのだろうが毎日楽しそうだった
父はほとんど居なかったが
たまに正装のような服で
夕飯を食べに寄る事があった
子供ながらに思った
大事な用事に行っているんだろう…
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