いつかペンと制度の力で 〜公書士アンリエッタ〜

ktktkenji

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第5話「繋がりゆく共謀の輪」

5ー4

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「あの、ロラン所長」
 どうも複雑そうなニーナとシモンの関係性も気になるものの、聞かせたい提言はそれとは別だ。
「さっきの発言をまるまま組合の耳に入れるとまずいのは、そうなんですけど――私はシモンさんには、きちんとご協力を頂いた方が良いと思うんですが」
 ちょうど今しがた、長々と口論をした後である。横から述べた主張は否定を受けるかと思われたが、返されたのはしっかりとした頷きだった。
「ああ。それについては私も同意見だ」
 あっさりとした返答に、「は?」と目が点になるシモン。
「君はどうだね、シモン? 記事を書くつもりはあるか」
「はああ?」
 完全に面食らった顔で、シモンはただただ声を上げた。
「て、手のひら返しにも程があるでしょうっ。今の今まであんなことを言って」
「あれは仮定の話だろう。まあ嘘を言ったつもりはないが、協力があれば助かるのも本当だ」
「僕は、御用記者になるつもりは」
「何もクーポンや組合に対して賛辞を送れと言っているわけじゃない。老人どもが上がりを決め込もうとするのに牽制をかけたいだけでね。君がしたいような主張とも、それほど食い違いはしないと思うが」
「しかし」
 とシモンは呻いて、いかにも屈託ありげに視線を落とす。内容の如何はどうあれ権力側と談合して記事を書けと求めているのだから、ためらう気持ちが湧くのも無理からぬことと思われた。
 しかしけれども、できればここは飲んで欲しいところだ。彼が寄稿する新聞社であれば、いち早く組合と銀行の件を取り上げていた分話題性がある。しかもその続報なのだから、再び一面に取り上げられる可能性も高い。その事実は、組合の重鎮たちへ訴えかける要素となり得る。
「シモンさん」
 アンリエッタは呼びかけて、言う。
「組合がクーポンをやめた時の影響は、きっともっと末端の人たちが大きく受けることになると思います。あなたのペンが、そういった人たちを守ることになるかもしれないんです。私はこれは、あなたが自分の主義を曲げてでもやる価値のあることなんじゃないかと思います」
 そうそう! と、横からアニーが高らかに同意した。
「かぁっこいいじゃん、ねえ。ニーナちゃんもそう思うでしょ?」
 ふいに水を向けたために一同から視線が注がれて、「え」とたじろいだニーナは目を泳がせる。
「そ、そうね……」
 シモンが彼女を見つめている。青年の眼差しから落ち着かなさげに顔を逸らしたニーナは、ガヤからぶんぶんと腕を振って声援を促すアニーを見つける。
「ええと。少し、見直すと思うわ。あ、いや、かなり。かっこいいはず。だから頑張って」
 過剰な頷きとサムズアップでニーナに正解の旨を伝えるアニー。その、かろうじてといった具合で引き出された鼓舞を受け取ったシモンは、俯きなおもためらうふうに黙り込んだ。
 しばらくすると首を振って、口を開く。
「別に、君らにのせられるわけじゃない」
 はっきりと前置きをして、続ける。
「だけども公平に考えて、これは、確かに、意義あることかもしれない。さっきアンリエッタさんが言ったようにね。やろうじゃないか。僕のペンで、世論を動かすんだ」
 調子が乗ってきたのかわずかに上擦った声音で宣言してみせる。息巻くシモンに、自分が最初に依頼したというのにロランはまるきり情動を示さないで、新聞を再び手に取った。
「その気になったのなら何よりだ――しばらく彼を借りるぞ、ニーナ。そちらも、ウチの部下の手が欲しい時は好きにすると良い」
 出し抜けに業務提携について言い渡されて、ニーナとアンリエッタは互いとロランを見比べる。
「ああだが、彼女も見習いとはいえ忙しい身だ。重々ご配慮頂けると助かる。事情が事情だけに、きちんと委託契約を結べないのは心苦しいがね」
 言いながら、広げた新聞の記事を追い始める。続きの言葉がないものかと二人して目を凝らしたが、返ってくるのは隣のアニーの視線ばかりである。彼女はちょっと考える様子で天井を見上げて、そして言う。
「あー……だから言ったでしょ? 気にかけないでもいいって」
 ちょっと皮肉に頬と眉を歪めて言うそれは、中々に的確な軽口ではあったが。
 けれども特段、晴れやかさなどもないのだった。
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