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第一章
12話 準備
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ヴァルクが領地へ戻るのに合わせ、アメリアも共に訪問することになった。城の者たちはその準備に追われ、あちらこちらで声が飛び交っている。
ドレスに貴金属、靴に帽子。日用品や化粧品までもが専用に調合されたものでなくてはならない――侍女頭の号令のもと、用意された荷はすでに荷車一台分をゆうに超えていた。
「これはさすがに多すぎだと思うわ……」
呆れ顔でそう言うと、ローラがすかさず反論する。
「これでもかなり減らしたんです! アメリア様が思っている以上に、遠出には物が要るんですよ」
「だけど、ノルディアまでの道は平坦ばかりではないのよ? この荷物を抱えて移動するとなれば、回り道を強いられるわ」
「荷物は先に出発させよう。」
背後から響いた低い声に振り返ると、ヴァルクが立っていた。額には光る汗、いつもよりラフな服装に腰の剣。兵の訓練を見てきたのだろう。
胸元の襟が大きく開き、首筋を伝う汗が目に入り、アメリアは思わず前を向き直った。
「先に出発させても大丈夫なのですか?」
「もともと我々の荷もある。今日のうちに先発隊を出すつもりだった。移動に必要な分だけ下ろせるか?」
「は、はい!すぐに!」
ローラが使用人たちに指示を出すと、三週間の道のりに必要な分だけが選び分けられていった。
「アメリア様のご所望どおり、こちらの箱には身動きしやすい乗馬服を。あとは夜会用の服も少し……」
「そんなことよりローラ、例のものはちゃんと荷に入れた?」
ローラが言葉を止め、きょとんとする。
「例の……ああ、アレですか。はい、荷台の茶色いトランクの中に入れてあります。移動中には必要ないと思いますが……そもそもあんなもの、何に――」
「茶色いトランク……あれね。下ろしてちょうだい。」
使用人がトランクを下ろすと、アメリアはそそくさと蓋を開け、黒い袋を取り出した。袋の紐を解き、中身を確かめた途端、ふっと安堵の息を漏らす。
「これは肌身離さず持っていたいの。こちらに入れておいてくれる?」
袋をローラに手渡すと、彼女は不思議そうな顔をしながらも、黙って荷物の中に収め直した。
それでもまだ不安げに眉を寄せる。
「ですが……ノルディアまでの道は決して楽ではございません。雨の日も、野営の日もございます。王宮育ちのアメリア様には、とても耐えがたいのではと……私は同行できないので身の回りの世話をする者もいつもと違いますし…」
心配の言葉を聞きながら、アメリアは胸の内でくすりと笑った。
(子どもたちを背負って、凍えそうな風の中を歩き続けた日々を思えば……馬に乗れて、馬車に揺られて、しかも従者までついてくるなんて、最高に贅沢な旅よね)
口に出す代わりに、アメリアは軽やかに笑みを浮かべる。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。きっと楽しい旅になるわ」
ローラはまだ半信半疑の様子だったが、それ以上は口をつぐんだ。
やがて先発隊が荷を載せて出発していく。荷馬車の軋む音が遠ざかり、城門前に静けさが戻った。ヴァルクは見送りを終えると、隣に立つアメリアへ視線を向ける。
「……殿下は、本気で来るつもりなのか」
不意に問われ、アメリアはにっこり笑った。
「いまさらね。もちろん、楽しみで仕方ないわ。だって、あなたの自慢の場所でしょう?」
その言葉に、ヴァルクの目がかすかに揺れる。
「……あなたは本当に変わったお人だ。」
小さく肩をすくめ、口の端をわずかに上げる。
「あとで泣き言を言っても知らないぞ。」
「ええ、そのときは慰めてもらうわ。」
からかうように返すと、ヴァルクは呆れたように息を吐きつつも、どこか満更でもなさそうに口元を緩めた。
ドレスに貴金属、靴に帽子。日用品や化粧品までもが専用に調合されたものでなくてはならない――侍女頭の号令のもと、用意された荷はすでに荷車一台分をゆうに超えていた。
「これはさすがに多すぎだと思うわ……」
呆れ顔でそう言うと、ローラがすかさず反論する。
「これでもかなり減らしたんです! アメリア様が思っている以上に、遠出には物が要るんですよ」
「だけど、ノルディアまでの道は平坦ばかりではないのよ? この荷物を抱えて移動するとなれば、回り道を強いられるわ」
「荷物は先に出発させよう。」
背後から響いた低い声に振り返ると、ヴァルクが立っていた。額には光る汗、いつもよりラフな服装に腰の剣。兵の訓練を見てきたのだろう。
胸元の襟が大きく開き、首筋を伝う汗が目に入り、アメリアは思わず前を向き直った。
「先に出発させても大丈夫なのですか?」
「もともと我々の荷もある。今日のうちに先発隊を出すつもりだった。移動に必要な分だけ下ろせるか?」
「は、はい!すぐに!」
ローラが使用人たちに指示を出すと、三週間の道のりに必要な分だけが選び分けられていった。
「アメリア様のご所望どおり、こちらの箱には身動きしやすい乗馬服を。あとは夜会用の服も少し……」
「そんなことよりローラ、例のものはちゃんと荷に入れた?」
ローラが言葉を止め、きょとんとする。
「例の……ああ、アレですか。はい、荷台の茶色いトランクの中に入れてあります。移動中には必要ないと思いますが……そもそもあんなもの、何に――」
「茶色いトランク……あれね。下ろしてちょうだい。」
使用人がトランクを下ろすと、アメリアはそそくさと蓋を開け、黒い袋を取り出した。袋の紐を解き、中身を確かめた途端、ふっと安堵の息を漏らす。
「これは肌身離さず持っていたいの。こちらに入れておいてくれる?」
袋をローラに手渡すと、彼女は不思議そうな顔をしながらも、黙って荷物の中に収め直した。
それでもまだ不安げに眉を寄せる。
「ですが……ノルディアまでの道は決して楽ではございません。雨の日も、野営の日もございます。王宮育ちのアメリア様には、とても耐えがたいのではと……私は同行できないので身の回りの世話をする者もいつもと違いますし…」
心配の言葉を聞きながら、アメリアは胸の内でくすりと笑った。
(子どもたちを背負って、凍えそうな風の中を歩き続けた日々を思えば……馬に乗れて、馬車に揺られて、しかも従者までついてくるなんて、最高に贅沢な旅よね)
口に出す代わりに、アメリアは軽やかに笑みを浮かべる。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。きっと楽しい旅になるわ」
ローラはまだ半信半疑の様子だったが、それ以上は口をつぐんだ。
やがて先発隊が荷を載せて出発していく。荷馬車の軋む音が遠ざかり、城門前に静けさが戻った。ヴァルクは見送りを終えると、隣に立つアメリアへ視線を向ける。
「……殿下は、本気で来るつもりなのか」
不意に問われ、アメリアはにっこり笑った。
「いまさらね。もちろん、楽しみで仕方ないわ。だって、あなたの自慢の場所でしょう?」
その言葉に、ヴァルクの目がかすかに揺れる。
「……あなたは本当に変わったお人だ。」
小さく肩をすくめ、口の端をわずかに上げる。
「あとで泣き言を言っても知らないぞ。」
「ええ、そのときは慰めてもらうわ。」
からかうように返すと、ヴァルクは呆れたように息を吐きつつも、どこか満更でもなさそうに口元を緩めた。
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(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
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