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第一章
15話 兄貴分
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宴も終盤に近づいた時、すっかり良い感じに酔いの回ったガルドが、ワインを片手にアメリアの前にやって来た。
「殿下、お腹は十分満たされましたか?」
「ええ! 皆さんが作ってくださった串焼きを三本も頂いてしまいました。」
「えっ、たったの?! そんな雀の飯程度で大丈夫ですか?」
かぶりつかないといけない大きさの肉の塊が四つも刺さった串だったので、食べ過ぎてお腹がはち切れそうなくらいなのだけれど……。
ガルドは本当に心配そうな顔をしてアメリアを覗き込んだ。
「もちろん、お腹いっぱいですわ。」
「そうですか、それなら良かった。
それはそうと……殿下にひとつお聞きしたいことがあります。」
少し真面目な顔をして、隣にどかっと座ると、小さな声で耳元に手を寄せてきた。
「ヴァルクは……ああ見えて女の扱いに慣れていないんですが、大丈夫ですか?」
「ええっ!」
突然何を言い出すのかと思ってガルドの顔を見上げると、本人は至って真剣な顔をしていた。
「あの……でもヴァルク様は、街へ行った時もきちんとエスコートしてくださいましたし、慣れていないというふうには、あまり見えませんでしたけど……」
「いやいや!それは護衛していたからでしょう?仕事なら平気でなんでもする奴ですから。
俺はあいつが子どもの頃から同じ部隊にいてね、勝手に兄貴分だと思っているんですよ。ずっと戦場にいて、急に領主になって、それからは領地を治めるためにひたすら生きてきた。まさか王女と婚約することになるなんて……まともな対応が出来ているのか心配なんですよ。」
(驚いた……エインハルト卿は、ヴァルク様のご家族のようなお気持ちなのかしら?)
ガルドはさらに身を乗り出して、小声で問いかけてきた。
「殿下がヴァルクを選んだのは……少しはお気持ちがあると、信じて良いんでしょうか?」
「えっ……!そ、それは……ヴァルク様はとても誠実で、部下や領民のことを誰よりも大切にしていらっしゃいますし……どんな人とも分け隔てなく接する優しさもあって……それに……」
思わず次々と言葉が溢れ、慌てて口を閉ざす。
ガルドはじっと彼女を見て、やがてニヤリと笑った。
「なるほど、十分伝わりましたよ。――ふふ、あいつは鈍い男ですからね。殿下がしっかりリードしてやってくださいよ」
「……っ!」
アメリアは耳まで真っ赤に染め上げられてしまった。
――その時。
「……ガルド」
低い声が頭上から降ってきて、アメリアはびくりと肩を震わせる。
顔を上げると、いつの間にかヴァルクが立っていた。
「何してる?」
鋭い視線を送られたガルドは、まるで子どもを叱られたように「おっと」と肩をすくめ、酒杯を持ち直して立ち上がった。
「はは、心配性な奴だ。殿下とはちょっと世間話をしていただけですよ。じゃ、楽しんでください」
そそくさと退散していく背中を見送り、アメリアは慌てて口を開く。
「その……エインハルト卿は、本当にヴァルク様のことを大切に思っておられるのですね」
ヴァルクは一瞬むっとしたように眉を寄せたが、やがてふっと息を吐いた。
「……昔から、余計な口を出すんだ。俺のことなんて放っておけばいいのにな」
小さくそう言って視線を逸らす彼の横顔に、アメリアは胸の奥がくすぐったくなるような温もりを覚えた。
「本当に素敵な方ですわ。
ヴァルク様のご家族は……どんな方でしたの?」
その問いかけが地雷だったことは、ヴァルクの鋭い視線で瞬時に悟った。
(……しまった)
「あっ、もちろん、言いたくなければ――」
「ふっ。別に大した話じゃないさ。今さら思い出すのも苦労するくらいの昔話なだけだ。
だけど……あなたには、俺の過去を知る権利がある」
「ち、ちがっ……違うんです! 本当に。あなたが出自を明かしていないのは存じておりますし、王もそれを承知の上で婚約者に選んだのです。
わたし、聞き出そうとしたわけじゃ……」
慌てて紡ぐ言葉は、どれも言い訳のようにしか聞こえなかった。
横目でこちらを射抜くように向けられる視線が、痛いほど胸に突き刺さる。
「つまらない話だが……そろそろ宴もお開きだ。いずれ、また。
今日は窮屈でしょうが、馬車で休んでください」
そう言い残して歩き去る後ろ姿は、どこか遠く隔たって見えた。
「殿下、お腹は十分満たされましたか?」
「ええ! 皆さんが作ってくださった串焼きを三本も頂いてしまいました。」
「えっ、たったの?! そんな雀の飯程度で大丈夫ですか?」
かぶりつかないといけない大きさの肉の塊が四つも刺さった串だったので、食べ過ぎてお腹がはち切れそうなくらいなのだけれど……。
ガルドは本当に心配そうな顔をしてアメリアを覗き込んだ。
「もちろん、お腹いっぱいですわ。」
「そうですか、それなら良かった。
それはそうと……殿下にひとつお聞きしたいことがあります。」
少し真面目な顔をして、隣にどかっと座ると、小さな声で耳元に手を寄せてきた。
「ヴァルクは……ああ見えて女の扱いに慣れていないんですが、大丈夫ですか?」
「ええっ!」
突然何を言い出すのかと思ってガルドの顔を見上げると、本人は至って真剣な顔をしていた。
「あの……でもヴァルク様は、街へ行った時もきちんとエスコートしてくださいましたし、慣れていないというふうには、あまり見えませんでしたけど……」
「いやいや!それは護衛していたからでしょう?仕事なら平気でなんでもする奴ですから。
俺はあいつが子どもの頃から同じ部隊にいてね、勝手に兄貴分だと思っているんですよ。ずっと戦場にいて、急に領主になって、それからは領地を治めるためにひたすら生きてきた。まさか王女と婚約することになるなんて……まともな対応が出来ているのか心配なんですよ。」
(驚いた……エインハルト卿は、ヴァルク様のご家族のようなお気持ちなのかしら?)
ガルドはさらに身を乗り出して、小声で問いかけてきた。
「殿下がヴァルクを選んだのは……少しはお気持ちがあると、信じて良いんでしょうか?」
「えっ……!そ、それは……ヴァルク様はとても誠実で、部下や領民のことを誰よりも大切にしていらっしゃいますし……どんな人とも分け隔てなく接する優しさもあって……それに……」
思わず次々と言葉が溢れ、慌てて口を閉ざす。
ガルドはじっと彼女を見て、やがてニヤリと笑った。
「なるほど、十分伝わりましたよ。――ふふ、あいつは鈍い男ですからね。殿下がしっかりリードしてやってくださいよ」
「……っ!」
アメリアは耳まで真っ赤に染め上げられてしまった。
――その時。
「……ガルド」
低い声が頭上から降ってきて、アメリアはびくりと肩を震わせる。
顔を上げると、いつの間にかヴァルクが立っていた。
「何してる?」
鋭い視線を送られたガルドは、まるで子どもを叱られたように「おっと」と肩をすくめ、酒杯を持ち直して立ち上がった。
「はは、心配性な奴だ。殿下とはちょっと世間話をしていただけですよ。じゃ、楽しんでください」
そそくさと退散していく背中を見送り、アメリアは慌てて口を開く。
「その……エインハルト卿は、本当にヴァルク様のことを大切に思っておられるのですね」
ヴァルクは一瞬むっとしたように眉を寄せたが、やがてふっと息を吐いた。
「……昔から、余計な口を出すんだ。俺のことなんて放っておけばいいのにな」
小さくそう言って視線を逸らす彼の横顔に、アメリアは胸の奥がくすぐったくなるような温もりを覚えた。
「本当に素敵な方ですわ。
ヴァルク様のご家族は……どんな方でしたの?」
その問いかけが地雷だったことは、ヴァルクの鋭い視線で瞬時に悟った。
(……しまった)
「あっ、もちろん、言いたくなければ――」
「ふっ。別に大した話じゃないさ。今さら思い出すのも苦労するくらいの昔話なだけだ。
だけど……あなたには、俺の過去を知る権利がある」
「ち、ちがっ……違うんです! 本当に。あなたが出自を明かしていないのは存じておりますし、王もそれを承知の上で婚約者に選んだのです。
わたし、聞き出そうとしたわけじゃ……」
慌てて紡ぐ言葉は、どれも言い訳のようにしか聞こえなかった。
横目でこちらを射抜くように向けられる視線が、痛いほど胸に突き刺さる。
「つまらない話だが……そろそろ宴もお開きだ。いずれ、また。
今日は窮屈でしょうが、馬車で休んでください」
そう言い残して歩き去る後ろ姿は、どこか遠く隔たって見えた。
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