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第一章
16話 小休止
しおりを挟む「うぅううう~」
うめくような泣き声を上げたのは、侍女のテティだった。
簡易テントの中で這いつくばっている。
「大丈夫?テティ?」
「脚はパンパン、身体はギシギシですぅぅう」
連日の馬車移動に、睡眠も馬車の中、食事も馬を狩る騎士たちのために塩気の強いものばかり。
慣れない生活に、彼女の体が悲鳴を上げているのだろう。
「マッサージしようか?」
「ええっ、大丈夫です! アメリア様にそんなことさせるわけにはいきません!」
「あら、こういう時は侍女も王女もないわ。お互い助け合わなければ。あなたを先にマッサージしてあげるから、楽になったら私の番をお願いしていい?」
「ううう……ありがとうございます……実はもう立つのも辛いんです……」
(可哀想に……馬車の中で少しでも足を動かすようにって教えてあげればよかったわね。いつも幸せそうに居眠りしているから……)
うつ伏せに寝転がったテティのふくらはぎをゆっくり揉み込む。
腰から背中、肩へと指を滑らせていくうちに、呻き声を漏らしていたテティは、いつしかすうすうと寝息を立てていた。
(これは……寝たわね)
そっと顔を覗くと、穏やかな寝顔に変わっている。
(ふう……今のうちに軽く身体を動かしておこうかしら)
アメリアはそっとテティのそばから離れ、伸びをしながら身体を解す。
こうして少しずつ動かしてきたおかげで、彼女自身はまだ耐えられていたが、それでも体の芯には確かな疲労が残っていた。
「殿下、今少しいいか?」
外からヴァルクの声がする。
アメリアは眠るテティに毛布をかけ直し、足音を忍ばせて外へ出た。
昼の日差しは強いが、木陰には心地よい風が吹き抜けている。
騎士たちが馬を休ませ、簡単な食事をとっていた。
「休んでいるところ、すまない」
「いいえ。どうかなさったのですか?」
ヴァルクは顎で前方を示した。
「このまま進めば今日中に小さな村に着くはずだ。騎士団は村の一角で野営するが、あなた方には宿を押さえてあるから、今夜はゆっくり休んでください」
「まあ……ありがとうございます」
「ただ……明日からは馬車を降り、馬に乗って進むことになる。村で補給を済ませたらすぐに出発する予定なので、あらかじめお伝えしておこうかと」
「馬で……」
アメリアは思わず息を呑む。
ヴァルクの視線が彼女を捉えた。その瞳は鋭さの奥に、不思議と優しさを宿している。
「最初から無理に速く走らせたりはしない。明朝、補給の間に少し練習してみよう」
「……ええ、挑戦してみますわ」
思いのほか落ち着いて答えられた自分に内心驚いていた。
ヴァルクの口元がふっと緩み、昼下がりの光に照らされ、その笑みは鮮やかさを増す。
「……あなたは…城で守られてきたお姫様のはずなのに、度胸があるな」
「……それは……」
(だって、私は本当の姫様じゃないもの……)
自嘲めいた笑みを浮かべたアメリアに、ヴァルクは怪訝そうに首を傾げた。
「なにもかも新鮮なので、楽しめるんです」
「そうか……」
彼の声音はどこか柔らかく、真摯な眼差しが添えられる。
「だが、身体に負担があるようなら遠慮なく言ってくれ。こっちは熊と戦うような男どもばかりだから、気づけないことも多いだろう」
思わず微笑みがこぼれる。
「……それなら、遠慮なく甘えさせていただきますわ」
「ぜひそうしてくれ」
目尻をわずかに和らげたヴァルクの笑みは、戦士の顔というより、ただ彼女を安心させようとするひとりの男性のものだった。
(……やっぱり、彼を選んで正解だった。きっと彼なら、アメリア様を救ってくださる)
その優しさに惹かれる気持ちを必死に抑えながら、アメリアは頭の中で本当の王女の姿を思い浮かべる。
そうしなければ――自分自身に嫉妬してしまいそうだった。
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(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
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