【完結】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!

カナタカエデ

文字の大きさ
18 / 117
第一章

17話 練習

しおりを挟む
朝の村はまだ涼しく、空気には焚き火の残り香が漂っていた。
馬たちがいなないて、鉄の蹄が石を打つ軽快な音があたりに響く。

アメリアは小さく息を吸った。目の前に立つのは大きな栗毛の馬。穏やかな瞳をしているのに、近づけば圧倒される迫力がある。

「怖いか?」
背後から落ちたヴァルクの低い声に、肩が震える。

「……少し。でも、大丈夫」

おずおずと答えると、彼は小さく笑い、馬の手綱を取った。

「こいつは気性が穏やかだ。最初は歩かせるだけでいい。俺が横にいるから落ちる心配はない」

「……はい」

ヴァルクの大きな手がアメリアの腰を軽々と持ち上げる。思わず声が漏れた次の瞬間、彼女は鞍の上に座っていた。

「……っ」
視界がぐんと高くなり、地面が遠のく。背筋が強張り、無意識に手綱を握りしめる。

「力を入れすぎだ」
ヴァルクが後ろから手を添え、彼女の指をゆるめさせる。
(この人のどこが女慣れしていないのか……)
エインハルト卿の言葉を思い出し、憎らしくなるほど胸がときめいた。

「馬はお前を落とそうなんて思っちゃいない。呼吸を合わせろ。すぐ慣れる」

「呼吸を……」

馬の体がゆるやかに揺れると、自然に身体がそのリズムを受け入れていく。歩みは思った以上に穏やかで、不安はすぐに薄れていった。

「……歩けてます」

「そうだ。その調子だ」
ヴァルクの声は、誇らしげに響いた。

振り返ると、いつの間にか彼も愛馬に乗り、真っ直ぐこちらを見つめていた。厳しい戦士の顔ではなく、優しく見守る眼差し。胸が熱くなり、アメリアは思わず視線を逸らす。

(……どうしよう。本当に、この人がどんどん素敵に見えてしまう)

馬の揺れに合わせるように、心も静かに波打っていった。

「歩くのには慣れてきたな」

「ええ、思ったより怖くないです」

「なら、少し速足にしてみるか」

「えっ……!」
振り返ると、ヴァルクはにやりと唇を上げた。本気とも冗談ともつかぬ目をしている。

「無理はさせない。俺がついている。手綱を少し、軽く前へ」

深呼吸をして、アメリアは恐る恐る手綱を動かす。
次の瞬間、馬が軽やかに歩みを速めた。

「きゃっ……!」
体が揺さぶられ、思わず鞍にしがみつく。

「落ち着け、背筋を伸ばせ!」
すぐそばから声が飛んできた。ヴァルクの馬が横につき、片手で彼女の腕を支える。

必死に息を整え、揺れに合わせると、恐怖は次第に興奮に変わっていった。

「……走ってる……! わたし、本当に……」

「そうだ。よくやった」
ヴァルクの口元に誇らしげな笑みが浮かぶ。

やがて馬が止まり、アメリアは息を切らしながらも晴れやかな顔をしていた。

「……すごい……思ったよりずっと、気持ちいい……」

「だろう?」

そう言って彼は馬から軽々と下り、アメリアに手を差し伸べた。
その掌に導かれ、彼女は鞍から降りる――その瞬間。

「きゃっ……」
足がもつれてよろめき、胸元に強い腕が回り込む。

「……大丈夫か?」
至近距離で響く低い声。

彼の体温が近すぎて、アメリアの頬は熱を帯びた。

「……だ、大丈夫です……」

「本当か?」

顔が近づく気配に慌てて視線を逸らす。

「アメリア様、お見事でしたー!」

小走りで近づいて来たテティを見て、アメリアは慌てて体を離した。
手拭いを受け取り、額ににじむ汗を拭う。

「さすがの馬術の腕ですね!」

「え?」

「え?って、アメリア様は毎年秋の馬術大会に出られてるじゃないですかぁ!」

血の気が引くように心臓が跳ねる。

(しまった……馬術はアメリアの特技だった)

自然に馬と呼吸を合わせられたのも、この身体が覚えていたから。

恐る恐るヴァルクを盗み見たが、彼はこちらの会話を聞いていないのか、自分の愛馬とアメリアが乗った馬を繋いでいた。
ホッとして努めて平静を装う。

「ええ。でも、山道での乗馬は競技とはまるで違うわ」

「そうなんですか?私は乗ったことないので不安ですぅ」

「……乗ったこと、ない?」

アメリアは驚き、ヴァルクのもとへ駆け寄った。

「ヴァルク様、私の侍女も馬に乗るのですか?」

不思議そうに「そのつもりだ」と答えるヴァルク。

(……この人、侍女の立場を兵士と同じだと思ってるの?)

「ヴァルク様、テティは馬に乗れません。おそらく私よりも。ここから山を越えるのは彼女には厳しいかと」

ヴァルクは鼻歌交じりに歩くテティを一瞥し、大きくため息を吐いた。

「少し待て。どうにかしよう」

やがて、年若い青年を連れてきた。

「アメリア殿下、ご挨拶申し上げます。リンク・メルディと申します」

「リンクはメルディ家の三男で、騎士団入りを志願した変わり者だ。まだ見習いだが、乗馬の腕は団内随一。彼が侍女と相乗りする」

メルディ家といえば、高位の貴族。――婚約者を決める夜会でヴァルクに従っていた青年ではなかったか。
屈強な騎士たちよりも、彼となら相乗りしても負担は少ないだろう。

「相乗りっ!? わ、私……相乗りするんですか?!」

涙目になるテティの肩を、アメリアは安心させるように撫でた。

「大丈夫よテティ。ひとりで乗るより安全だから。ここからは馬車では行けない道らしいの。少しだけ我慢して」

「……時にテティ殿、体重はいかほどですか?」

「えええっ!」

リンクの唐突な質問に、アメリアもテティも目を丸くする。

「あっ……すみません。ただ、馬の負担を考えて確認しておきたくて」

「ううう……あなたにだけ言います……」

「では、あちらで。馬も見ていただけると助かります」

テティとリンクは厩舎へと向かった。

「お手間かけてすみません」

「いや、侍女のことを考えなかったのは俺の落ち度だ」

「テティ、かなりショック受けてましたね」

「まあ……自分で操るよりはマシだろう。殿下も『相乗りが良かった』と泣き言を言うかもな」

意地悪く言う彼に、アメリアは頬を膨らませて反論した。

「いいえ! 私は最後まで一人で乗り切ります!」

「では……お手並み拝見しよう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

処理中です...