侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!

カナタカエデ

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第二章

10話 与えられたのは…

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シンシアと別れたあと、ヴァルクは小隊を連れて、いちばん近くの村へ降りた。
貸し切った宿は古びた造りだったが、隅々まで掃き清められ、温厚そうな老夫婦が営んでいた。

アメリアの身分は明かされなかったが、ボロボロの衣服を見た女将は、「娘のお古だけど」と言って、清潔な服や靴を用意してくれた。

湯浴みを済ませ、ベッドに横たわると――この一日がまるで夢だったように思えた。
昨日の昼間は、花を摘んでいただけなのに。
目を閉じると、ローラやシーリーンの顔が浮かんだ。
(きっと、心配しているだろうな……)

コンコン。
扉がノックされる音がした。

「どうぞ」と答えると、ヴァルクが盆を持って入ってきた。

「わざわざヴァルクが持ってきてくれたんですね?」

「ここには侍女がいないからな。役不足かもしれないが、我慢してくれ。」

彼はベッドの隣の椅子に腰を下ろすと、匙でスープを掬った。

「え……?」

ヴァルクは一瞬、不思議そうに彼女を見てから、思い出したようにスプーンに優しく息を吹きかけた。

「もしかして……食べさせてくれるつもりですか?」

「……な、何か変だったか? 病人にはこうすると、さっき奥方に聞いたのだが。」

その不器用な仕草に、アメリアは思わず吹き出してしまった。

「い、いえ……ごめんなさい。まさかヴァルクに世話してもらえる日が来るとは思わなくて。」

「……食べないのか?」

どこか不満げな顔をする彼に、慌てて首を振る。

「い、いただきます!」

匙を口に含むと、山羊のミルクの香りがふわりと広がり、優しい温もりが喉の奥に落ちていった。

「ん……!」

「熱かったか?」

「美味しい!!」

呆気にとられたヴァルクに、満面の笑みを向ける。

「ふふっ、とても美味しいです。」

「そ、そうか。もっと食べた方がいい。……ゆっくりな。」

人生で、こんなふうに誰かに世話を焼かれることがあるなんて――。
まるで子どもに戻ったような時間が、一口ごとに胸の奥へと染み込んでいく。

(どうしよう……こんなにも、嬉しいなんて)

長い人生を経て、愛情を受けるということが、
こんなにも温かいものだったと――そのとき、初めて気づいた。

カリナだった頃、幼い子どもたちが病に伏せたとき、同じようにスープを口に運んでやった。
あの子たちに向けた想いは、何にも代えがたい宝物のような愛情だった。
――そんなふうに「与える側」だった自分に、
今度はその愛が向けられている。
それがただ、嬉しかった。

「部屋の外で見張りをしている。何かあれば、すぐ声をかけろ。」

食べ終わったスープを片づけながら、ヴァルクがそう言った。
アメリアは布団の中に潜り込み、小さく「はい」と答える。

ヴァルクが灯りを落とし、扉が閉まると、部屋に静寂が満ちた。
目を閉じた途端――あの夜の闇が蘇る。

暗闇の中、靴音と男の息遣いが響き渡る地下道。
乱暴に揺れる馬車。
腕を掴まれた痛み。
そして、アレクサンダーの常軌を逸した瞳。

胸の奥が締めつけられ、息が苦しくなる。
体が勝手に震え始めた。

「……ぅうっ……」

部屋の扉を見つめた。外にはヴァルクがいる。

「ヴァルク……」

声を絞り出すと、すぐに扉が開いた。
ヴァルクが駆け寄り、心配そうに彼女を見下ろす。

「どうした?」

「ごめんなさい……なんだか、息苦しくなって……」

アメリアは視線を逸らしながら、それでも勇気を振り絞って口を開いた。

「……あの……隣に、いてもらえませんか?」

ヴァルクは一瞬、言葉を失ったように黙り込んだ。
その沈黙のあいだに、外から夜風が入り、蝋燭の炎が小さく揺れる。

「それは……」

「お願い! 一人になると、またあの男が来るような気がするの!」

アメリアの懇願する瞳を見て、やがて彼は無言で椅子を引き寄せ、ベッドのそばに腰を下ろした。
そっとアメリアの手を握る。

「眠るまで、そばにいよう。」

その言葉に、アメリアの胸の奥で張りつめていた糸がふっと緩む。
温かい手の感触が伝わり、恐怖が少しずつ溶けていった。

(ああ……この人の手は、ずっと、あたたかい……)

ヴァルクの指先が、静かに彼女の指を包む。
やがてアメリアのまぶたはゆっくりと閉じ、穏やかな寝息が部屋に満ちた。

ヴァルクはその手を離さぬまま、静かに夜の闇を見つめていた。
アメリアの寝息は穏やかで、さっきまでの怯えはもうどこにもない。

「どうしてお前は、俺なんかを信用できるんだ。」

小さな声が、夜気の中に消えていく。
返事はない。
彼女はただ、安らかな寝顔のまま、静かに呼吸を続けている。

ヴァルクは小さく息を吐き、握った手にもう一度力を込めた。

窓の外では、遠くで夜鳥の声がした。
その声を聞きながら、額にそっと口づける。

ただ――静かに眠れることを祈って。
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