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第二章
19話 駆け引き
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祝宴には国内の有力者たちが招待されていた。
政治家、貴族、商人――皆が列をなし、アメリアとヴァルクへ祝いの言葉を述べに来た。
しかしその多くは、ノルディアが手に入れた幸運にあやかろうとする者ばかりだった。
あからさまに下心を隠そうともしない者も多く、アメリアは思わず気分を害した。
だがヴァルクはそんな相手に対しても表情を崩さず、淡々と応対していく。
時には相手をたしなめるような言葉も添えながら、その振る舞いは王女の婚約者として申し分なかった。
来訪客がひと段落すると、ようやくアメリアたちにも食事が運ばれた。
「驚きました。ああいう人たちの相手が得意なのね」
「なんだそれは。意外だったか」
ヴァルクは眉をひそめながらも、どこか嬉しそうに笑った。
「伯爵位を賜った直後はもっと酷かったからな。若かったし、腹も立ったから色々とやらかしたが……まあ、もういい年だ。あの程度の者たちは相手にもならん」
「そうですか……。皆、ノルディアの鉱山を狙っていますね」
「なんらかの恩恵を得ようと、どこも必死だ。
だが、我々もあれだけのものを独り占めしても仕方ない。ノルディアがさらに豊かになるには、周りとの協力も不可欠だ。
要は――使いようだ」
ヴァルクが嬉しそうに語るのは、ノルディアの未来を明るく見据えているからなのだろう。
前世の未来を知らなければ、アメリアも同じように笑えたはずだ。
そう思いながらも、彼女は精いっぱいの笑顔を返した。
「やあ! アメリア! ストーン伯爵! このたびは婚約おめでとう!」
意気揚々と現れたのは、フィリップ・モリスだった。
「あら……フィリップ。モリス公爵はいらっしゃらないの?」
「ああ、父は体調を崩していてね。それよりアメリア、大変だったらしいね。大丈夫かい?」
何を指しているのか言わずとも、それが誘拐の件であることは明らかだった。
ヴァルクはすぐに立ち上がり、フィリップの手を取る。
「ご心配感謝いたします。モリス公爵にもよろしくお伝えください。
それと……どこでそのことをお聞きに?」
「ダリオンだよ。僕は彼の相談役だからね。
でも安心してくれ、僕から外へ漏れることはない」
冷たい青い目。
吸い込まれるように美しく、同時に感情の読めない瞳だった。
「ダリオンはあなたになんでも話すのね……」
そう告げると、フィリップはゆっくりと口元を緩めた。
「そうだね。どんなことを話してくれるか、教えてあげようか?」
そしてアメリアの前へ静かに手を差し出す。
「ダンスの間に……どうだい?」
アメリアは差し出されたフィリップの手を静かに取った。
その瞬間、隣で控えていたヴァルクが、ほんのわずかに目を見開く。
驚き――そして、止めるべきか一瞬迷う気配。
だがアメリアはフィリップの背に隠れる角度で、ヴァルクへそっと視線を送った。
(ごめんね……大丈夫だから)
ヴァルクは苦く息を吐く。
その表情には混乱が見え隠れしていた。
「行こう、アメリア」
フィリップが軽く腰に手を添え、ダンスの円へと導く。
触れた指先は礼儀を守ってはいるものの、どこか冷たい。
その温度に、アメリアは胸の奥からわずかな警戒心がせり上がるのを感じた。
(フィリップには何かある……彼の本性を暴いてみせる)
フィリップの横顔を盗み見る。
彼は微笑んでいる。柔らかく、社交的で――
誰もを魅了する美しさを持った人。
やがて音楽が流れ出し、ふたりのステップが始まった。
アメリアはドレスの裾を翻しながら、静かに覚悟を固める。
これはただの祝宴のダンスではない。
彼の口から少しでも“本音”を引き出すための――危うい駆け引き。
(必ず……聞き出してみせる)
煌めく宴の中央で、アメリアとフィリップの舞踏が始まった。
アメリアはステップを合わせながら、できるだけ何気ない調子で口を開いた。
「それで……いつもお兄様とはどんなお話をされているのかしら?」
フィリップは視線を合わせず、軽やかに彼女を回しながら答えた。
「大したことじゃないよ。彼とマリアの――将来のことがほとんどだ」
「……将来?」
「うん。彼はいつもマリアに相応しい未来を見据えてるからね」
「ダリオンお兄様はずいぶんマリアを大切にしてるのね」
「当たり前じゃないか。伯爵だって、君を誰よりも大切にしているだろう」
ようやく彼はアメリアを見た。
微笑んでいる。
だが、その奥の青い瞳は、氷のように静かで冷たい。
「カリオンお兄様のことは? お二人の関係はどうかしら」
「カリオン王子? どうって……普通じゃないか」
アメリアは胸のざわつきを悟られぬよう、表情を保つ。
「ほんとう?」
「どういう意味だい?」
フィリップはアメリアの指を引き、深くステップを踏ませた。
まるで彼女の反応を楽しむように。
「ふたりの間に溝ができてるって知っているんじゃない?」
「……ダリオンはいつだって家族のために行動する男だ」
その言い方には確かな意図があった。
だが、真意は読ませない。
アメリアの心臓がわずかに強く跳ねる。
(もう少しで何か掴めそうなのに……)
「では、あなたはどうして私があなたを嫌っているか……覚えている?」
フィリップは目を見開いた。
驚き――そして、その瞳に喜びが宿る。
口を開きかけた、その瞬間。
祝宴会場の舞踏会場の扉が大きく開かれ、数人の護衛たちが入ってきた。
政治家、貴族、商人――皆が列をなし、アメリアとヴァルクへ祝いの言葉を述べに来た。
しかしその多くは、ノルディアが手に入れた幸運にあやかろうとする者ばかりだった。
あからさまに下心を隠そうともしない者も多く、アメリアは思わず気分を害した。
だがヴァルクはそんな相手に対しても表情を崩さず、淡々と応対していく。
時には相手をたしなめるような言葉も添えながら、その振る舞いは王女の婚約者として申し分なかった。
来訪客がひと段落すると、ようやくアメリアたちにも食事が運ばれた。
「驚きました。ああいう人たちの相手が得意なのね」
「なんだそれは。意外だったか」
ヴァルクは眉をひそめながらも、どこか嬉しそうに笑った。
「伯爵位を賜った直後はもっと酷かったからな。若かったし、腹も立ったから色々とやらかしたが……まあ、もういい年だ。あの程度の者たちは相手にもならん」
「そうですか……。皆、ノルディアの鉱山を狙っていますね」
「なんらかの恩恵を得ようと、どこも必死だ。
だが、我々もあれだけのものを独り占めしても仕方ない。ノルディアがさらに豊かになるには、周りとの協力も不可欠だ。
要は――使いようだ」
ヴァルクが嬉しそうに語るのは、ノルディアの未来を明るく見据えているからなのだろう。
前世の未来を知らなければ、アメリアも同じように笑えたはずだ。
そう思いながらも、彼女は精いっぱいの笑顔を返した。
「やあ! アメリア! ストーン伯爵! このたびは婚約おめでとう!」
意気揚々と現れたのは、フィリップ・モリスだった。
「あら……フィリップ。モリス公爵はいらっしゃらないの?」
「ああ、父は体調を崩していてね。それよりアメリア、大変だったらしいね。大丈夫かい?」
何を指しているのか言わずとも、それが誘拐の件であることは明らかだった。
ヴァルクはすぐに立ち上がり、フィリップの手を取る。
「ご心配感謝いたします。モリス公爵にもよろしくお伝えください。
それと……どこでそのことをお聞きに?」
「ダリオンだよ。僕は彼の相談役だからね。
でも安心してくれ、僕から外へ漏れることはない」
冷たい青い目。
吸い込まれるように美しく、同時に感情の読めない瞳だった。
「ダリオンはあなたになんでも話すのね……」
そう告げると、フィリップはゆっくりと口元を緩めた。
「そうだね。どんなことを話してくれるか、教えてあげようか?」
そしてアメリアの前へ静かに手を差し出す。
「ダンスの間に……どうだい?」
アメリアは差し出されたフィリップの手を静かに取った。
その瞬間、隣で控えていたヴァルクが、ほんのわずかに目を見開く。
驚き――そして、止めるべきか一瞬迷う気配。
だがアメリアはフィリップの背に隠れる角度で、ヴァルクへそっと視線を送った。
(ごめんね……大丈夫だから)
ヴァルクは苦く息を吐く。
その表情には混乱が見え隠れしていた。
「行こう、アメリア」
フィリップが軽く腰に手を添え、ダンスの円へと導く。
触れた指先は礼儀を守ってはいるものの、どこか冷たい。
その温度に、アメリアは胸の奥からわずかな警戒心がせり上がるのを感じた。
(フィリップには何かある……彼の本性を暴いてみせる)
フィリップの横顔を盗み見る。
彼は微笑んでいる。柔らかく、社交的で――
誰もを魅了する美しさを持った人。
やがて音楽が流れ出し、ふたりのステップが始まった。
アメリアはドレスの裾を翻しながら、静かに覚悟を固める。
これはただの祝宴のダンスではない。
彼の口から少しでも“本音”を引き出すための――危うい駆け引き。
(必ず……聞き出してみせる)
煌めく宴の中央で、アメリアとフィリップの舞踏が始まった。
アメリアはステップを合わせながら、できるだけ何気ない調子で口を開いた。
「それで……いつもお兄様とはどんなお話をされているのかしら?」
フィリップは視線を合わせず、軽やかに彼女を回しながら答えた。
「大したことじゃないよ。彼とマリアの――将来のことがほとんどだ」
「……将来?」
「うん。彼はいつもマリアに相応しい未来を見据えてるからね」
「ダリオンお兄様はずいぶんマリアを大切にしてるのね」
「当たり前じゃないか。伯爵だって、君を誰よりも大切にしているだろう」
ようやく彼はアメリアを見た。
微笑んでいる。
だが、その奥の青い瞳は、氷のように静かで冷たい。
「カリオンお兄様のことは? お二人の関係はどうかしら」
「カリオン王子? どうって……普通じゃないか」
アメリアは胸のざわつきを悟られぬよう、表情を保つ。
「ほんとう?」
「どういう意味だい?」
フィリップはアメリアの指を引き、深くステップを踏ませた。
まるで彼女の反応を楽しむように。
「ふたりの間に溝ができてるって知っているんじゃない?」
「……ダリオンはいつだって家族のために行動する男だ」
その言い方には確かな意図があった。
だが、真意は読ませない。
アメリアの心臓がわずかに強く跳ねる。
(もう少しで何か掴めそうなのに……)
「では、あなたはどうして私があなたを嫌っているか……覚えている?」
フィリップは目を見開いた。
驚き――そして、その瞳に喜びが宿る。
口を開きかけた、その瞬間。
祝宴会場の舞踏会場の扉が大きく開かれ、数人の護衛たちが入ってきた。
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