【完結】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!

カナタカエデ

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第三章

33話 ほぐれた心

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執務室を出ると、張り詰めていた空気が嘘のようにほどけた。

それは数日前に、たった一人でこの部屋を出たときとは、まったく違う感覚だった。
アメリアはほっとしたように、小さく息を吐く。

結論は出なかった。
国王は決断を保留し、いったん解散となった。

それでも――
胸の奥に巣食っていた不安は、先ほどよりずっと静かだった。

「……疲れましたね」

ぽつりとこぼすと、隣を歩くヴァルクがわずかに口元を緩めた。

「ああ。今日は特に」

その声は、先ほど執務室で聞いていたものよりも、ずっと柔らかい。

二人は並んで歩き、私室へと戻る。
扉が閉まった瞬間、アメリアは思わず肩の力を抜いた。

「はあ……」

「そんなに大きな溜息をつくと、運が逃げていくぞ」

からかうように言われ、アメリアはむっとして振り返る。

「だって……緊張していたんだもの。
あなたが、あんなことを言い出すなんて、想像もしていなかったから……」

言い終わる前に、視界がふっと近づいた。

ヴァルクの腕が伸び、軽く引き寄せられる。
強く抱きしめるわけでもなく、ただ、逃がさない距離で。

「……なんて言うと思っていた?」

「……わからなかったから、すごく怖かったわ。
これで、もう終わりになるんじゃないかって思ってたから」

「ふっ……信用がないな」

「そういうわけじゃ……。
だって、一度も顔を出さないし、どこにいるのかもわからなかったから」

「君の話を聞いて、考えていたんだ」

静かな声で、ヴァルクは続ける。

「なぜ、国王や殿下たちが暗殺されたのかを」

「暗殺って……前世でのこと?」

「ああ。君は、その直接の原因はわからないと言っていただろう」

「……ええ。そのことは、初代国王様も、アメリア様もおっしゃらなかったから」

「もし前世で暗殺が企てられたのなら、その火種は今も存在しているはずだ。
もともと不正を行う領主たちの粛清はするつもりで調べていたが……ここへきて、王宮内も調べる必要が出てきた」

「そうだったの……。じゃあ、証拠は見つけられたの?」

「正直なところ、まだだ。
さすがに王宮内のことは、陛下の協力がなければ厳しい」

ヴァルクは、ふっと柔らかく笑った。
――どうして、この状況でそんな表情ができるのだろう。
すべて話し終え、あとは国王の決断を待つだけだからだろうか。

「……私が女王になったとしても、不正を暴いて、粛清するつもりだったのね」

「ああ。
君が思うような慈悲深さは、俺にはない。
君が統治する国で、害になる者は一人残さず消すつもりだった」

見上げると、ヴァルクはどこか悲しげな目でアメリアを見つめていた。

「それが、本来の俺だ。
……それでも、そばにいてくれるか?
君が託された使命のために選んだだけなら、いつでも解放しよう」

「あなたって……時々、とても意地の悪いことを言うわよね」

アメリアは小さく笑う。

「私が、あなたを愛しているって……わかっているでしょう?」

ヴァルクの背に手を回すと、彼も同じようにアメリアを抱きしめた。
この温もりを、どれほど待っていただろう。

次の瞬間、ふわりと身体が浮いた。

「きゃっ」

背から倒れるようにして、二人は寝台へと転がり込む。

「ははっ……」

笑い声のあと、ヴァルクは少し気まずそうに言葉を切った。

「……そういえば。子どものことなんだが……」

「ヴィータを出産する前、君が何日も意識を失っていたことがあっただろう?」

「……二度と、あんな思いはしたくなかった。
だから、妊娠は避けようと思っていたんだ」

「え……」

「君に話すべきだったが……子どもが好きだから、きっと上手く丸め込まれてしまうと思って、言えなかった。すまない」

「で、でも……あれは……」

アメリアは視線を泳がせながら言う。

「初代国王様とアメリア王女と、夢の中で会っていたからで……
妊娠で身体に問題が起きたわけじゃないのよ」

「……は?」

ヴァルクの眉間に、深い皺が刻まれた。
彼は上体を起こし、アメリアの腕を掴む。

「それは本当なのか?
君は、あの出来事の原因をわかっていたのか?」

「……そうね。まあ……」

「はああああ……」

これまでにないほど大きな溜息を吐き、ヴァルクはアメリアを恨めしげに睨んだ。

「さすがに、それは……
もっと早く言ってほしかった……」

「そ、そうね……ごめんなさい」

互いに目を合わせ、苦笑する。
そして、自然と柔らかな眼差しで向き合った。

「……まだ、君の名を聞いていなかったな」

「え?」

「なんて呼べばいい?
さすがに、他の者の前では呼べないが……」

アメリアは少し考え、
気づけば彼の膝の上に跨ったまま、にこりと笑った。

「アメリアでいいわ。
だって私は、もう“アメリア”として生きていくと決めたから」

「そうか……」

ヴァルクは静かに頷く。

「君の前世の話を、聞きたいと思っていたんだが……」

「え? 前に話したでしょう?」

「あれは、国とアメリア王女の前世であって……
君自身のものではなかっただろう?」

「……そう、かも……」

「なら、話してくれ」

真っ直ぐな視線が向けられる。

「君が、どんな人生を歩んできたのかを」

「……私の話なんて、興味ある?」

「当たり前だ」

ヴァルクは、迷いなく答えた。

「やっと、本当の君と向き合える」

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