【完結】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!

カナタカエデ

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第三章

32話 冠なき誓い

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「この男の言葉を、どう受け止めている」

国王の低い声が、執務室に響いた。

――この男。

その呼び方には、明らかな不信が滲んでいる。
だが同時に、その言葉を完全には切り捨てきれない迷いも、確かに宿っていた。

「僕は……そう悪くもない話だと思います」

最初に口を開いたのは、カリオンだった。

「父上は、国王としてこの国を守ってこられました。だからこそ、伯爵の提案を受け入れがたいお気持ちは理解できます」

一度言葉を切り、まっすぐ国王を見据える。

「ですが……私が国を継がないという選択を、許してくださったではありませんか。
それと同じことが、この先、アメリアの子や孫の代で起こらないとは限りません」

静かに、しかし確信をもって言葉を重ねた。

「そのとき、王室が必ず存続できる保証はない。
そして、その“隙”には……必ず、良からぬことを考える者が現れます」

「僕も、兄上と同じ意見です」

続いて、ダリオンが一歩前に出た。

「領主代理として働き、統治の現場を見てきました。
王室だけでなく、各領地も同じです。継ぐ人間が、必ずしも知恵と責任を備えているとは限らない」

淡々とした語り口が、かえって現実味を帯びていた。

「領主であれば、国王が任を解くこともできます。
ですが……今の制度では、大きな問題が起きない限り、各地の歪みは表に出てきません」

一拍置き、続ける。

「父上ご自身が王政を終わらせ、国として自立する仕組みを整えることができれば……
それは、世界に一つしかない国になります」

二人の言葉に、感情の高ぶりはなかった。
ただ、未来を見据えた冷静な判断だけがあった。

そして――
その視線が、静かにアメリアへと向けられる。

「わ、私は……」

言葉に詰まった瞬間、背中にそっと温もりが触れた。

振り返らなくても分かる。
ヴァルクの手だった。

――大丈夫だ。
そう告げられている気がして、胸の奥がじんと熱くなる。

「私は……ロキアが、これからも続いてほしいと思っています」

震えを抑えながら、言葉を紡ぐ。

「他国の侵略を許さず、民が飢えることなく、豊かな土地であり続けてほしい。
でも……それは、今だけ守れればいいものではありません」

顔を上げ、国王を見つめた。

「未来の世代まで続く国でなければ、意味がないんです」

深く息を吸い、はっきりと告げる。

「だから……ヴァルクの提案に賛成します。
私は……女王にはなれません」

その言葉に、玉座の間の空気が張り詰めた。

「ですが、ロキア王室の一員として。
この国が、この先五百年続くよう――制度を支え、見届ける役目を引き受けます」

背中の温もりが、ほんのわずかに強くなった。


王冠を戴かずとも、
王家の終わりから目を背けるつもりはなかった。

ヘブラム国王は、深く溜息をつき、項垂れた。
その苦悩と葛藤の重さが、子どもたちのそれとは比べものにならないことを、誰もが理解していた。

誰もが国王の言葉を待っていたが、彼自身もまた、答えを導き出せずにいた。

「……すまないが、少し時間を貰いたい。
即位してからこれまでで、最も大きな決断になる」

「では、陛下……こちらを」

ヴァルクが差し出したのは、分厚い書類の束だった。

「なんだ、これは?」

「領地で不正を行っている者たちのリストです。
証拠が揃っている者もおりますが、まだ十分でない者もいます。
時間が足りず……申し訳ございません」

一度頭を下げ、続ける。

「アメリアが国王になるとしても、各地の不正を正さなければ、新たな国づくりは難しい。
そう考え、調べておりました」

「……そうか」

国王は、遠い目をした。

「お前の先を見る力は、いつ身についたのだろうな。
初めてわしの前に現れたときは……力を得ただけの無邪気な子どものように思えたものを」

「何をおっしゃいますか」

ヴァルクは静かに跪いた。

「伯爵として、騎士団団長として、上に立つ者として必要な術は……
すべて、あなたが教えてくださったのです」

その姿を見て、誰もが理解していた。
彼が忠誠を失っていないことを。
そして――これからも尽くし続けるであろうことを。

「ふっ……つくづく、私は……見る目があったということか」

「はい」

ヴァルクは、わずかに笑みを浮かべた。

「あなたは、何も持たなかった私にすべてを与えてくださいました。
金も、名誉も、権力も……そして――」

彼は振り返り、初めてアメリアを見た。
鋭かった瞳は、穏やかに、慈しむように彼女を映している。

その視線を受け止められただけで、アメリアの胸はいっぱいになった。

「そのすべてを失ってもいいとすら思えるほど、愛おしい人を。
あなたのおかげで、私は手にすることができたのです」

「彼女が生きる未来を、幸福な日々にしたい。
……私の望みは、それだけです」

涙が頬を伝った瞬間、アメリアは立ち上がり、衝動のままヴァルクを抱きしめていた。

跪く彼を包み込むように、強く、強く。
これから先、何があっても決して失うことのないように。



--この人のすべてを私にください。


心の中ではじめて、大きな欲望の塊が芽生えた瞬間だった。


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