【完結】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!

カナタカエデ

文字の大きさ
116 / 117
第三章

35話 最後の王

しおりを挟む
ヘブラムにとって、この国は我が子も同然だった。

彼が国王となったのは、父王が戦争の最前線で命を落としたからだ。
即位当時、隣には王妃と、まだ幼い王子が一人いた。

“戦王”と呼ばれるほど戦に明け暮れた父とは異なり、ヘブラムは他国との調和を重んじる王だった。
しかし、父王の代に激しく刃を交えた隣国ユーラシアでは、いまだ武将の権威が強く、両国は名ばかりの停戦を挟みながらも、実質的には戦争状態にあった。

王妃は第二王子を、そして第三子として王女を産んだのち、彼女はこの世を去った。
深い喪失と空虚が胸を満たしたが、それに打ちひしがれている時間はなかった。
国は常に、侵略の脅威に晒されていたからだ。

王子たちの教育は王宮の教育係に一任し、王女の養育は、王妃の友人でもあった一人の女性に託した。
彼女は侍女として王宮に入り、王女の世話に心血を注いだ。

国王は子どもたちを深く愛していた。
だが、彼らに向けられる時間は、あまりにも少なかった。



「愛情が……足りなかったのだろうか……」

国王陛下は、ローラが淹れた温かい茶から立ちのぼる湯気を見つめながら、ぽつりと呟いた。

何を、どこで、間違えたのだろう。
自分は疑うことなく父の後を継いだ。
国を支え、戦争を終結させ、他国と和平を結び、民を守り、豊かにする。
それが当然の使命として、魂に刻まれていた。

子どもたちも同じだと信じていた。
同じように教育を受け、同じように国のために生きるのだと。

だが――
次男は若くして突然結婚し、妻のために王位を捨てた。
長男は芸術に心を奪われ、ついにはその道を生きたいと懇願した。

そして、娘は……。

「陛下がお子様方を誰よりも愛してこられたことは、皆様がよく理解しておられますわ」

ローラは穏やかな微笑みを浮かべ、静かに言った。

「だからこそ、彼らは、どのような形であれ、陛下をお支えすることをやめるつもりはございません」

「……だが……誰一人、この国のために生きる道は選ばなかった」

「それは――陛下の愛情を一心に受けて育ったからではございませんか」

ローラは少しだけ視線を伏せ、言葉を続ける。

「ダリオン様は、妻を亡くした後もなお想い続ける陛下のお姿を見て育ち、誰よりもマリア様を大切にしておられます。
カリオン様は、陛下を敬い、国を想うがゆえに、これまで王太子として懸命に務めてこられました。
そして――アメリア様は、この国の未来を……ずっと先の時代を見据えておられます」

「私はずっと見てまいりました。
陛下が仕事を終えられるたび、子どもたちの寝室を一つずつ回り、眠る姿を確かめてから、再び自らを奮い立たせてこられたことを」

「その愛情があったからこそ、皆様は自分の意志を曲げず……そして、それぞれにとっての最善を生きておられるのですわ」

「……ふっ。そなたは、まるで母のようだな……」

「私は母にはなれません」

ローラは、静かに、しかしはっきりと答えた。

「あの子たちの母は、亡くなられた王妃様です。
今もなお陛下の心を掴んで離さないように、あの子たちの母としても、決して消えることはありません」

自らの立場をわきまえたその言葉に、国王は小さく息を吐いた。
ゆらりと揺れる茶の水面に、溜息が落ちる。

そのとき――

「じじさまぁぁぁ!」

扉が勢いよく開き、小さな影が部屋へ飛び込んできた。
ふわりと揺れる銀色の髪――ヴィータだった。

「そんなに走って……どうした」

国王がそう言って身を起こすより早く、ヴィータは彼の足元に駆け寄り、ぎゅっとその衣を掴んだ。

「ねえ!じじさま!見てこれ!
街で会った人が作ってくれたんだよ」

それはヴィータが貰った革の腕輪だった。金色で刺繍が入れられた王家の紋章と銀色の刺繍の騎士団の紋章が重なり合う。

「これは……素晴らしい」

「でしょ!僕のお気に入りだよ」

「ヴィタリス様、陛下は今取り込み中ですから、ローラと遊びましょう?」

「いや、良い。ヴィタリス、そなたはこの国が好きか」

「うん、大好き!ノルディアも大好き!」

「そうか……では、わしの次にこの国を統べてくれるか。この国のために、国王になるか?」

ゆっくりとヴィータを抱き上げると膝の上に乗せ柔らかく語る。

「うーん、ごめんね、じじさま。それは無理だ」

決して言い淀むこともなく、はっきりそう言ったヴィータに国王もローラも唖然とした。

「僕ね、決めてるの!大人になったら鳥みたいに世界を見て回るって!!
父上がね、この世界にはいろんな国があるんだって教えてくれたの!」

「父上は子どもの時に一人で世界を見て回ったって。それでこの国が一番好きになって、ここで生きるって決めたんだよ」

「僕もね、世界中を見て回るんだ。だからごめんね、王様にはなれないの」

国王は下がった眉のまま、大きく笑った。

「そうか…そうか……お前は世界を見に行くか」

「ふふ……そういえば昔のアメリア様もそんなこと言ってらっしゃいましたね」

「そうだったか?」

「ええ、お父様はいつもお忙しいから、私が世界を見て回ってお父様のお手伝いをできる人を探してあげるって」

「なるほど……」

「ヴィタリス様はさすがはアメリア様のお子ですね」

「……そうだな……のう、ローラ」

「はい」

「無事にこの国の最後の王の勤めを果たしたら、わしと結婚せぬか?」

突然の宣言にローラはピタリと止まる。

「え……」

「王室を終わらすのだ。妻に禊を立て続けずとも彼女も許してくれるだろう」

「え!じじ様ローラが好きなの?」

間にいるヴィータが遠慮なく聞き、ローラは自分が年甲斐もなく赤くなるのを感じた。

「ああ、彼女のような人がそばにいてくれたことに感謝してる」

「ローラは?ローラはじじ様好き?!」

「え、え……それは」

「ヴィタリスよ……こういうものは無理矢理言わすものではない」

「そうなの?」

「まだ時間はあるからな。ゆっくり攻めるのが攻略の鉄則だ」

「な、なにをおっしゃってるのですか」

ローラは呆れたように声を荒げた。
その日、国王の執務室からはヴィータとふたりの笑い声が絶えなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

処理中です...