【完結】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!

カナタカエデ

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第三章

最終話 時の風

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第十三代ロキア王国国王ヘブラム・ド・ロキアが、王政の廃止を宣言してから、
時は流れ、すでに十年以上の月日が過ぎ去っていた。

ストーン城はノルディア城と名を変え、ノルディアを含む近隣地区の中枢としての機能を有していた。

ヒューードンッ

まだ明るい空に、花火の音が鳴り響く。
夏祭りのはじまりを告げる合図だ。

空を見上げ、少年は微かに笑った。
爽やかな夏風が、彼の胸に懐かしさを呼び起こす。

「ヴィタリス!!」

丘の上に立つ、自分と同じ銀色の髪の女性を見て、少年は――帰ってきたのだと感じる。

「母上!!」

「ずいぶん早かったわね。もう少しかかるのかと思っていたわ」

「馬を飛ばしてきました!!」

「ふふっ、おかえりなさい」

「ただいま帰りました」

ヴィタリス・ストーンは、もうすぐ十八になる。
かつてヴィータと呼ばれていた幼さはなく、アメリアに似た面影を残しつつも、背丈はヴァルクに負けないほどに成長していた。
数年前、遊学を目的にサイグ民主共和国の寄宿校へ入学し、卒業を機に帰国したのだ。

「実は、お会いさせたい方を連れてまいりました」

「やあ、アメリア。久しぶりだね。
君は、いくつになっても変わらず美しい」

ヴィタリスの背後から顔を出したのは、フィリップ・モリスだった。
金色の髪に青い瞳。年を重ねて刻まれた皺は、老いよりも、彼の人生の重みを感じさせる。

「フィ……フィリップ……ど、どういうこと?!」

「モリスさんは、サイグ民主共和国の観光庁で働いてるんだ。
ダリオンおじさんが紹介してくれて、留学中はお世話になってたんだ」

「え……そんな……一度も手紙に書いてなかったじゃない!」

「それは僕が、言わない方がいいと口止めしたんだ。
ほら、言ったろ? 君の母上は僕のことが嫌いなんだって。昔、平手打ちを食らったこともある」

「ちょっと……やめてくださらない?」

「はは……ほら、怖いだろ?」

「母上。モリスさんは僕のお客様ですので、どうか穏便にお願いします」

「……まあ、いいわ。あなたを妹たちが待ちわびているから、行ってあげなさい」

「はい」

ヴィタリスの背中を見送り、アメリアはちらりとフィリップを睨みつけた。

「まさか、帰ってくるとは思わなかったわ」

「用事があったから一緒に来ただけだよ。叔母が亡くなった」

「え……」

「マリアから聞いてないのか。
ずっとまともじゃなかったから、表には出さなかったのか……。
僕は花だけでも手向けに行こうと思ってね」

「……そう。あなたは、大丈夫?」

「おや、優しいね」

「どんな人でも、自分を育てた人でしょう。辛くないわけがないわ」

「どうだろうね……。
母として愛していたのか、憎んでいたのか……自分でも、よくわからない」

フィリップ・モリスは、かつての感情の欠けた美しいだけの男ではなく、
人間らしい憂いを帯びた表情を見せていた。

「でも、久しぶりにダリオンや彼の子どもたちに会えたから、悪くなかったよ。
ああ、そうだ。実はテティにも会ったんだ。覚えているかい?」

「テティ?! どうして?」

「憑き物が落ちたみたいに、穏やかだった」

「……そうなの」

「人間って、本当に愚かな生き物だよね。

若さゆえの過ち――
そう言って済まされないことを、平気でしてしまう」

フィリップは、アメリアを試すように視線を向けた。

「ずいぶん清廉潔白に生きたものだね。
アメリア・ストーン」

「……なんなの、その言い方。
私は、私の願うままに努力しただけよ」

「たしかに……君たちの努力は認めざるを得ない。
サイグよりも後に民主化したというのに、ロキアは世界で最も発展した民主国家として認知されつつある」

並んで歩く先に、ヴァルクの姿が見えた。
アメリアは、ほっとしたように駆け寄る。

「ヴァルク!」

「アメリア、気をつけて。
フィリップ殿、よくお越しくださいました」

「招いてくれてありがとう、ヴァルク殿」

「ヴィタリスが、あなたに見せたいものがあると言って、向こうの建物で待っています」

「それは楽しみだ」

フィリップの背中を、二人で見送った。

「……あなた、知っていたの?」

「ああ。ヴィタリスが手紙で教えてくれた」

「言ってほしかったわ。彼は……アメリア王女の……」

「だから言わなかったんだ。
ヴィタリスは王女の生まれ変わりかもしれないが、彼女ではない。
俺たちが育てた子だ。不安になる気持ちもわかるが、信じてあげよう」

「……そうね」

「それに、俺はフィリップ殿を、そこまで嫌いじゃない」

「え?!」

アメリアの歪んだ表情に、ヴァルクは声を上げて笑った。

「今を生きている人を信じよう。
これまでも、そうしてきただろう?」

「……ねえ、あなたって人生何周目なの?」

「は?」

「未来を知ってる私よりいつも先を行くのよね」

ヴァルクは苦笑しつつアメリアに向き合った。

互いにいくつもの役職を抱え、忙しい日々を送りながらも、
ヴィタリスの帰国に合わせ、二人はノルディアに設けた小さな我が家へ戻ってきていた。

城ではなく、小さな家。
子どもたちの声が響き渡るその場所に帰ると、アメリアの胸には、不思議と幸福が満ちる。

「早く、落ち着きたいものね」

「そうだな。子どもたちも、ノルディアと首都を行き来する生活に疲れるだろうし。
そういえば……ヴィタリスが、十八になったらシンシアたちのところへ行きたいと言っていたが……」

「えっ!? 今どこにいるの?」

「さあ……どこだったかな」

「もう! ちゃんと確認しておいて」

「俺の姫君は、我が家で一番うるさいな」

ふざけてそう言うヴァルクに、アメリアはぽすんと彼の腕を叩く。

「もう姫なんて歳じゃないし、そもそも姫でもないから!」

ヴァルクは、少しつまらなそうにアメリアを見つめた。
次の瞬間、肩を掴まれ、顔が近づいてくる。

ぱちっ

慌てて、アメリアはヴァルクの頬を両手で押さえ、その行為を阻止した。

「また子どもたちに、年甲斐もなく外でいちゃつくなって怒られるからだめ!」

「……はあ。俺たちだって、いつでも会えるわけじゃないのにな」

そう言って、ヴァルクは穏やかに笑った。

「それなら、早く家に入ろうか」

腰に回された腕に、そっと身を預ける。

「ねえ……ヴァルク……あなた、九十歳まで生きてくれる?」

「……そんなに長生きできるか、自信がないな」

「だめよ。私、八十まで生きるのに。あなたも長生きしてくれないと」

慌ててヴァルクの腕を引き、見上げると、
彼は口角を上げ、一瞬の隙を突いてアメリアに口づけた。

柔らかな夏風が吹き抜け、再び祝いの音が響く。

新緑の夏は、ふたりの世界が、まだ続いていくことを祝福するかのように、きらきらと輝いていた。







最終章 完
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