ロクデナシ黙示録 ~夕立市最悪の三日間~

松山リョウ

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第1話 二〇××年五月十八日 ××県夕立市 丑三つ時

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 満月が雲に見え隠れする丑三つ時。築城以来不戦の山城であった夕立城は、令和の世に戦火に照らされて本丸の白壁を橙色に染めていた。

「無様だな、ルガール」

 天守閣の最上部にて、赤目の少年が、子犬の首元を掴んで瓦屋根の上に立っていた。南西の三の丸広場は弓形に飛来するミサイルによって絶え間なく爆撃され、東側の城下町通りからは橙白色の光線が天の雲を穿った。二の丸庭園では合戦さながらに、雄叫びと剣撃の音が響き渡っている。

「戦場の特等席にいる気分はどうだ?」

「――クソ喰らえッ!」

 少年は八重歯を覗かせながら満足げに笑い、子犬を放り投げ、右手を突き下ろす。子犬は放たれた衝撃波に抗う術もなく、本丸広場まで叩き落とされた。

「そこで見ていろ」

 少年は歯を剥き出しにして睨みつける子犬に語りかける。

「この地から、災厄が始まるのをな」

 少年は喝采を受け止めるように両手を広げた。

 夕立城が揺れる。どどどっと鳴り止まむ地鳴りが大きくなるに従い、石垣から砂礫がこぼれ落ちていく。

「すごいぞ、これが『謳われた力』なのかっ!」

 少年の高笑いが響くなか、雲が晴れる。

 難攻不落と語られてきた夕立城は、満月の光に照らされて、ついにその天守を空に浮かべた。

 夜空に浮かび上がるその姿は、まるで――。





 いや待て、とめろ。待ちやがれ。

 なんだって俺がやられるシーンから語られねぇといけねぇんだ?

 確かにここではしてやられたがな、ここに至るまでにはそれはもう語り切れないほどの紆余曲折があるんだよ。そこを見せないことには、俺がチンケな犬っころだと勘違いされちまうだろうが。

 そうだな、初めは俺がどっかの公園を散歩させられているところからだ。リリスがドッグフードすら寄越さなかったところから、俺の苦労話は始まってんだ。

 あとは、ほかのロクでなしどもの視点もちゃんと見せてくれよ? 俺と激戦を繰り広げた奴の視点があれば、俺がいかに奮闘していて、誇り高き戦士だったかがわかるだろうよ。
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