7 / 46
【2】お礼をしにまいりました。
4
しおりを挟む
今の季節に合わせて、初夏に咲く花や、よく見られる鳥や虫が刺繍されたものばかり。
「ラーニア様、もしかして季節ごとに変えていらっしゃるのですか?」
「ええ、私はあまり外に出られないものですから、手慰みに刺繍をすることが多くて。人にさしあげたりもするのだけれど、そういう相手も少ないものだから、たくさんたまっているのです」
お体が弱いと聞いている。あまり社交界に出なくて、出てもあの眼鏡で表情がわからないと、なかなか打ち解けるのは難しいかもしれない。きっとそれで気難しいなんて言われているのだわ。だって、全然気難しい方ではないもの。
「これからも度々来てもらえると嬉しいわ」
「はい、ぜひ。もっと刺繍のお話を伺いたいですし、見せていただきたいです」
「趣味の仲間ができて嬉しいわ。……どう? どれか気に入ったものはあって?」
「どれもこれもです! このテーブルクロスの花びらのグラデーションの素晴らしいこと! あの、失礼ですが、裏を見せてもらってもよろしいですか?」
どんなふうに糸を重ねているのか見たい!
「ええ、はずして持っていらっしゃいな。座ってゆっくり見ましょう」
途中から本当に気兼ねなくお喋りしてしまった。年上で身分のある方というのを時々思い出しては気をつけるのだけれど、夢中になってくると、つい……。
様々な色に染めた刺繍糸を見せてもらっているところでノックの音がして、誰かと思ったら、シュリオス様がいらっしゃった。
「おばあ様、そろそろお開きにしませんと」
「あら、もうそんな時間? まだ途中なのよ。そうだわ、今日はもう泊まっていけばいいのではないかしら。ねえ、セリナさん、泊まっていきなさい」
「駄目ですよ。私がレンフィールド伯爵と約束して連れてきたのですから。きちんと時間通りに送らないといけません。また来てもらえばいいでしょう」
「そうだったわね。セリナさん、今度は私から招待状を送るわ」
「はい、楽しみにしております」
「シュリオス、しっかり送ってあげてくださいね」
「わかっています。……これはセリナ嬢の荷物ですか?」
「はい、あとこれも」
手元で広げていたものをまとめて入れると、シュリオス様が籠を手に取った。
「あ、自分で」
「レディに荷物を持たせられませんよ」
爽やかに笑って(たぶん! 口元しか見えませんが、高貴な爽やかさが滲み出ていた!)、空いた手を差し伸べてくれた。その手を取ってソファから立ち、改めてラーニア様に向き直って、ご挨拶をする。
「たいへん楽しゅうございました。ありがとうございました。御前を失礼させていただきます」
「私も楽しかったわ。お気を付けてね」
廊下に出ると、楽しかった時間が終わってしまったことに、一抹の寂しさを感じた。
はー、夢みたい。初めて会った高貴な人と、こんなに親しくお話ししたなんて……。
地に足が着かない感じで、ぼんやりと歩く。
「大丈夫ですか? 疲れたみたいですね。祖母はああ言っていましたが、付き合うのが大変ならば、私のほうからうまく諦めさせます」
「え? 違います! とても楽しかったです! ……その、あまりに楽しかったので、はしゃいでしまって。今は夢見心地といいますか……」
「祖母とは気が合いそうですか?」
「はい。畏れ多いことですが、つい気楽にお話ししてしまって……。こちらこそ、粗相がなかったか心配です……」
思い返せば返すほど、ずうずうしくて馴れ馴れしかった言動しか見当たらない。うわああああ、淑女教育どこ行ったー!?
「祖母は社交辞令でまた会いたいなどとは言いません。はっきりと楽しかったと言っていたでしょう?」
そうですね! ラーニア様はつまらないお世辞を言う方じゃありません!
「それに、あなたの快活さは好ましいと、私も思います」
ふわっ、唐突に褒められた!? そういうことを、さらっと言えてしまうところが、ある意味お人が悪いですよ、シュリオス様! 心臓に悪いです!
「それと、あらためてお礼を。ハンカチをありがとうございました。素晴らしい刺繍ですね」
彼がポケットチーフに触れた。えっ!? それ、私の刺繍したハンカチだったんですか!?
「お使いいただけて嬉しいです」
もう、さっきから顔が熱い! きっと赤くなってしまっている!
「ラーニア様、もしかして季節ごとに変えていらっしゃるのですか?」
「ええ、私はあまり外に出られないものですから、手慰みに刺繍をすることが多くて。人にさしあげたりもするのだけれど、そういう相手も少ないものだから、たくさんたまっているのです」
お体が弱いと聞いている。あまり社交界に出なくて、出てもあの眼鏡で表情がわからないと、なかなか打ち解けるのは難しいかもしれない。きっとそれで気難しいなんて言われているのだわ。だって、全然気難しい方ではないもの。
「これからも度々来てもらえると嬉しいわ」
「はい、ぜひ。もっと刺繍のお話を伺いたいですし、見せていただきたいです」
「趣味の仲間ができて嬉しいわ。……どう? どれか気に入ったものはあって?」
「どれもこれもです! このテーブルクロスの花びらのグラデーションの素晴らしいこと! あの、失礼ですが、裏を見せてもらってもよろしいですか?」
どんなふうに糸を重ねているのか見たい!
「ええ、はずして持っていらっしゃいな。座ってゆっくり見ましょう」
途中から本当に気兼ねなくお喋りしてしまった。年上で身分のある方というのを時々思い出しては気をつけるのだけれど、夢中になってくると、つい……。
様々な色に染めた刺繍糸を見せてもらっているところでノックの音がして、誰かと思ったら、シュリオス様がいらっしゃった。
「おばあ様、そろそろお開きにしませんと」
「あら、もうそんな時間? まだ途中なのよ。そうだわ、今日はもう泊まっていけばいいのではないかしら。ねえ、セリナさん、泊まっていきなさい」
「駄目ですよ。私がレンフィールド伯爵と約束して連れてきたのですから。きちんと時間通りに送らないといけません。また来てもらえばいいでしょう」
「そうだったわね。セリナさん、今度は私から招待状を送るわ」
「はい、楽しみにしております」
「シュリオス、しっかり送ってあげてくださいね」
「わかっています。……これはセリナ嬢の荷物ですか?」
「はい、あとこれも」
手元で広げていたものをまとめて入れると、シュリオス様が籠を手に取った。
「あ、自分で」
「レディに荷物を持たせられませんよ」
爽やかに笑って(たぶん! 口元しか見えませんが、高貴な爽やかさが滲み出ていた!)、空いた手を差し伸べてくれた。その手を取ってソファから立ち、改めてラーニア様に向き直って、ご挨拶をする。
「たいへん楽しゅうございました。ありがとうございました。御前を失礼させていただきます」
「私も楽しかったわ。お気を付けてね」
廊下に出ると、楽しかった時間が終わってしまったことに、一抹の寂しさを感じた。
はー、夢みたい。初めて会った高貴な人と、こんなに親しくお話ししたなんて……。
地に足が着かない感じで、ぼんやりと歩く。
「大丈夫ですか? 疲れたみたいですね。祖母はああ言っていましたが、付き合うのが大変ならば、私のほうからうまく諦めさせます」
「え? 違います! とても楽しかったです! ……その、あまりに楽しかったので、はしゃいでしまって。今は夢見心地といいますか……」
「祖母とは気が合いそうですか?」
「はい。畏れ多いことですが、つい気楽にお話ししてしまって……。こちらこそ、粗相がなかったか心配です……」
思い返せば返すほど、ずうずうしくて馴れ馴れしかった言動しか見当たらない。うわああああ、淑女教育どこ行ったー!?
「祖母は社交辞令でまた会いたいなどとは言いません。はっきりと楽しかったと言っていたでしょう?」
そうですね! ラーニア様はつまらないお世辞を言う方じゃありません!
「それに、あなたの快活さは好ましいと、私も思います」
ふわっ、唐突に褒められた!? そういうことを、さらっと言えてしまうところが、ある意味お人が悪いですよ、シュリオス様! 心臓に悪いです!
「それと、あらためてお礼を。ハンカチをありがとうございました。素晴らしい刺繍ですね」
彼がポケットチーフに触れた。えっ!? それ、私の刺繍したハンカチだったんですか!?
「お使いいただけて嬉しいです」
もう、さっきから顔が熱い! きっと赤くなってしまっている!
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。
梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。
16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。
卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。
破り捨てられた婚約証書。
破られたことで切れてしまった絆。
それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。
痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。
フェンリエッタの行方は…
王道ざまぁ予定です
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
【完結】捨てられた聖女は王子の愛鳥を無自覚な聖なる力で助けました〜ごはんを貰ったら聖なる力が覚醒。私を捨てた方は聖女の仕組みを知らないようで
よどら文鳥
恋愛
ルリナは物心からついたころから公爵邸の庭、主にゴミ捨て場で生活させられていた。
ルリナを産んだと同時に公爵夫人は息絶えてしまったため、公爵は別の女と再婚した。
再婚相手との間に産まれたシャインを公爵令嬢の長女にしたかったがため、公爵はルリナのことが邪魔で追放させたかったのだ。
そのために姑息な手段を使ってルリナをハメていた。
だが、ルリナには聖女としての力が眠っている可能性があった。
その可能性のためにかろうじて生かしていたが、十四歳になっても聖女の力を確認できず。
ついに公爵家から追放させる最終段階に入った。
それは交流会でルリナが大恥をかいて貴族界からもルリナは貴族として人としてダメ人間だと思わせること。
公爵の思惑通りに進んだかのように見えたが、ルリナは交流会の途中で庭にある森の中へ逃げてから自体が変わる。
気絶していた白文鳥を発見。
ルリナが白文鳥を心配していたところにニルワーム第三王子がやってきて……。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる