30 / 46
【6】婚約者の前の婚約者に目を付けられてしまいました。
5
しおりを挟む
それを見送り、部屋に二人きりになる。
私は隣のシュリオス様のお顔を見上げた。眼鏡のせいで表情は読めない。だけど、どことなくばつが悪そうなのはわかった。
本当は聞きたいことがいっぱいある。まだ私に話してないことが、たくさんあるみたい。ただ、それは内緒にしているのではなくて、たぶん、これから機会を見て話すつもりだったのだと思う。シュリオス様が、私の悪いようにはしないのはわかっているもの。
だって、はずしてはいけないはず(?)の眼鏡をはずして一緒に来てくれたし、怖がっていた私を、何よりもまず抱きしめてくれたし。
「駆けつけてくれて嬉しかったです」
シュリオス様の心配そうななお顔を思い出して、幸せな気持ちで抱きつく。
「あなたが無事でよかった」
ぎゅっと抱きしめ返してくれた。あー! このままでいたい! 二人きりでイチャイチャしたい! けれど、今日を逃したら、私達の婚約を広めるいい機会がなくなってしまう。
「……私達も行かないといけませんね」
「それは先程のでじゅうぶんでしょう」
先程? あっ、お姫様抱っこ!? それに婚約者宣言もしましたね! なるほど、たしかにあれでじゅうぶんだわ。……次に知り合いに会ったときが怖い。絶対からかわれる……。
「ですから、よければこれからお時間をもらえませんか? あなたにお話ししておかなければならないことがあります」
彼は抱擁をといて、神妙な様子で言った。
「ええ。もちろんいくらでもお聞きしますが、もしも殿下がおっしゃっていたことについてなら、またでもいいですよ。落ち着いてから、しっかりお話しくださるおつもりだったのでしょう?」
普段はあまり会えないし、その時間だけですむ話でもないのだろう。だからこその花嫁修業期間なのかもしれないと、両親の態度を見て思っていた。だって、そうでなかったら、今では婚家での花嫁修業なんて流行ってないし、娘でいられる最後の時間を、一緒に過ごそうとしない両親ではないもの。
彼は数瞬立ち尽くし、力が抜けたように抱きついてきた。
「あなたを愛しています」
耳元で囁かれる。隙間なく抱きしめられて、少し苦しい。そんなに緊張していたなんて、いったいどんな隠し事なのかしら? きっと大層なお話なのよね。そう推測できるのに、ちっとも怖くない。
どうにか乗り越えると腹をくくっている自分に気づいて、ふふっと笑ってしまう。乗り越えられなかったときのことなんて、想像できない。地べたを這ってでも、乗り越えるまで挑戦するもの!
「私も愛しています」
「あなた以外、考えられないのです」
「ええ、私も」
「セリナ嬢」
「セリナ、と」
婚約しているのを知られてもよくなったから、もう他人行儀に敬称を付けなくてもいいんですよ。
「ああ、そうでしたね」
彼が、ふっと顔を上げて、愛しげに微笑む。いえ、ぐるぐる眼鏡と唇しか見えないのだけれど、最近、雰囲気で眼鏡でも表情豊かに見えるようになってきた。
「セリナ」
ほら、気のせいではない。とても甘い、切望する声。愛していると、心から私を望んでいると、その声音だけでわかる。
答える代わりに目をつぶった。だって、私も同じ。あなたをもっと感じたい。
衣擦れの音がして、唇にやわらかいものが触れた。食まれるような動きに唇がこすれて、甘い疼きが生まれる。
ふ、とこぼした吐息に、彼の吐息も重なった。頭をかき抱かれ、口づけが深まる。世界の何もかもが遠ざかっていく。
夜会から離れた二人きりの部屋で、私達は時間も忘れて、初めての口付けに溺れた。
私は隣のシュリオス様のお顔を見上げた。眼鏡のせいで表情は読めない。だけど、どことなくばつが悪そうなのはわかった。
本当は聞きたいことがいっぱいある。まだ私に話してないことが、たくさんあるみたい。ただ、それは内緒にしているのではなくて、たぶん、これから機会を見て話すつもりだったのだと思う。シュリオス様が、私の悪いようにはしないのはわかっているもの。
だって、はずしてはいけないはず(?)の眼鏡をはずして一緒に来てくれたし、怖がっていた私を、何よりもまず抱きしめてくれたし。
「駆けつけてくれて嬉しかったです」
シュリオス様の心配そうななお顔を思い出して、幸せな気持ちで抱きつく。
「あなたが無事でよかった」
ぎゅっと抱きしめ返してくれた。あー! このままでいたい! 二人きりでイチャイチャしたい! けれど、今日を逃したら、私達の婚約を広めるいい機会がなくなってしまう。
「……私達も行かないといけませんね」
「それは先程のでじゅうぶんでしょう」
先程? あっ、お姫様抱っこ!? それに婚約者宣言もしましたね! なるほど、たしかにあれでじゅうぶんだわ。……次に知り合いに会ったときが怖い。絶対からかわれる……。
「ですから、よければこれからお時間をもらえませんか? あなたにお話ししておかなければならないことがあります」
彼は抱擁をといて、神妙な様子で言った。
「ええ。もちろんいくらでもお聞きしますが、もしも殿下がおっしゃっていたことについてなら、またでもいいですよ。落ち着いてから、しっかりお話しくださるおつもりだったのでしょう?」
普段はあまり会えないし、その時間だけですむ話でもないのだろう。だからこその花嫁修業期間なのかもしれないと、両親の態度を見て思っていた。だって、そうでなかったら、今では婚家での花嫁修業なんて流行ってないし、娘でいられる最後の時間を、一緒に過ごそうとしない両親ではないもの。
彼は数瞬立ち尽くし、力が抜けたように抱きついてきた。
「あなたを愛しています」
耳元で囁かれる。隙間なく抱きしめられて、少し苦しい。そんなに緊張していたなんて、いったいどんな隠し事なのかしら? きっと大層なお話なのよね。そう推測できるのに、ちっとも怖くない。
どうにか乗り越えると腹をくくっている自分に気づいて、ふふっと笑ってしまう。乗り越えられなかったときのことなんて、想像できない。地べたを這ってでも、乗り越えるまで挑戦するもの!
「私も愛しています」
「あなた以外、考えられないのです」
「ええ、私も」
「セリナ嬢」
「セリナ、と」
婚約しているのを知られてもよくなったから、もう他人行儀に敬称を付けなくてもいいんですよ。
「ああ、そうでしたね」
彼が、ふっと顔を上げて、愛しげに微笑む。いえ、ぐるぐる眼鏡と唇しか見えないのだけれど、最近、雰囲気で眼鏡でも表情豊かに見えるようになってきた。
「セリナ」
ほら、気のせいではない。とても甘い、切望する声。愛していると、心から私を望んでいると、その声音だけでわかる。
答える代わりに目をつぶった。だって、私も同じ。あなたをもっと感じたい。
衣擦れの音がして、唇にやわらかいものが触れた。食まれるような動きに唇がこすれて、甘い疼きが生まれる。
ふ、とこぼした吐息に、彼の吐息も重なった。頭をかき抱かれ、口づけが深まる。世界の何もかもが遠ざかっていく。
夜会から離れた二人きりの部屋で、私達は時間も忘れて、初めての口付けに溺れた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!
吉野屋
恋愛
母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、
潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。
美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。
母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。
(完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)
完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。
梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。
16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。
卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。
破り捨てられた婚約証書。
破られたことで切れてしまった絆。
それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。
痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。
フェンリエッタの行方は…
王道ざまぁ予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる