残念令嬢の恩返し~婚約者に浮気されている公子様、あなたにお味方いたします!~

伊簑木サイ

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【7】魔法を使ってみたかったのです。

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「他にも聖女や勇者はいるのですか?」
「ヴェステニアが聖女です。それに、あなたの父上と兄君も。現在確認できているのは、それだけですね」
「まあ。父や兄も?」

「……実を言うと、あそこであなたに会ったのも、偶然ではありません。一人になったのを見計らって、声を掛けました」
「私が聖女かもしれなかったから?」
「そうですが、誤解しないでください! 聖女なら誰でもいいわけではありません!求婚したのは、あなたの人柄に惹かれたのです。私にはあなただけです!」

 きゅうっと握られて、手が痛いほど。切々としたまなざし。熱のこもった口調。気持ちが痛いほど伝わってくる。

 そうだった。気持ちを打ち明けてくれたとき、最初に「愛しています」と言ってくれたのだった。にわかには信じられなかった私に、何度も繰り返して、人々の前で宣言するとまで言ってくれた。「愛している」から「結婚してください」と、彼は言ったのだ。
 胸いっぱいになって、すぐに言葉が出てこない。嬉しいのに、泣きそう。口元に力が入って、変な笑顔になってしまう。

「……私だって、あなただけです」

 もっと話したいと思ったのも、ダンスのお相手を一度はしてみたいと思ったのも、――キスしたいと思ったのも。

「セリナ」

 引き寄せられて、抱きしめられる。こめかみにキスをされ、私も彼の頬にキスを返した。見つめ合って微笑み合う。
 今は本格的なキスはおあずけだって、わかっておりますよ! まだお話の最中ですからね!

「ヴィルへミナ殿下との婚約は、幼い頃に大人たちが決めたことでした。殿下の夫は王配となりますから、身分の低い者では務まりません。それに、魔王を国外に出すわけにもいきませんから。
 そういう理由を隠れ蓑にして、私への縁談を封じていたという側面もあります。魔王の伴侶は、聖女か勇者しか務まりませんから。
 もしもそのまま婚姻に至ったとしても、政略的な意味でも、魔王を封じる意味でも、都合がよい縁組みだったのです」

 かすかな溜息が聞こえた。たぶん、いたと自分でも気付いてないくらいの。きっと、これまでたくさん呑み込んできたのだわ。

「これからは私がおそばに居ます」
「はい」

 嬉しそうに答えてくれる。

「……私の力は歴代でも強いほうらしく。先日のうちの夜会で紹介した親族は、私が幼い頃に誤って魅了してしまった者ばかりです。十年以上、眼鏡なしでは絶対に見ず、なるべく会わないようにしていても、まだ影響が残っています。……その気遣いも、もうやめましたが」

 あ、そうね。王宮の夜会で助けてもらったわ。あの時シュリオス様は、彼らが居ても眼鏡をはずしていた。

「十年以上掛けて躾けてきましたので、絶対に裏切らない手駒と言っても過言ではありません。何かあったときは、躊躇わずに彼らを使ってください。暴走させるより、手綱を握ったほうがいいので」
「は、はい……」

 あんな立派な方たちの手綱を握るとか、いったいどうすれば……。
 私の戸惑いを感じ取ってくれたのだろう、少し体が離され、顔を覗き込まれた。

「簡単に考えてください。守ってとか、助けてとか、伝えるだけで充分です。細かいことは彼らに任せれば。最も穏便にすますようにと、言い聞かせてあります」

 たしかに。トラブル時に経験の浅い私が考えつく解決方法なんて、高が知れている。それよりは、あの方たちに任せたほうが良い結果を出すに違いない。

「わかりました」
「あなたから質問はありませんか?」

 ええと、……こんなこと聞いていいのかな。でも、今聞かないと、ずっと聞けないままになりそうだし……。

「どんなことでもいいですよ。できうるかぎり答えます」
「あの、……その、本当に魔……、いえ……」
「『本当に』、なんですか?」

 優しく微笑みかけられる。

 どうして私、口にしてしまったのかしらー!? これはもう引っ込みが付かない! 聞くしかない! 馬鹿な質問だってわかってる! ああ、恥ずかしい! 顔が熱い!

「ま、魔法は使えないのですか?」

 彼は鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔をした。そうなりますよねー!!!

「はい、魔法は使えないですね。……がっかりさせてしまって、すみません」
「いいえ、シュリオス様、……ではなくてシュリオス、が悪いのではなくて! ……その、子どもの頃から魔法に憧れてて……。
 建国記には、魔王はたった一人で大いに世を乱したと書かれているではないですか。どんなすごい魔法を使ったのかしら、て。それに、勇者や聖女がどんな魔法で対抗したのだろうって、子供心にわくわくして。
 建国記を描いた絵画だって、ぶわーって風みたいなのが描かれていたり、ぱーって光が放たれていたり、していますでしょう?
 魔王のシュリオスが魔法を使えるなら、聖女の私も、て……」

 あああ、お馬鹿っぽいにもほどがある! 顔から火が出そう! シュリオス様が申し訳なさそうな表情から、微笑ましいまなざしになってくれたのはよかったけれど!

「あなたは魔法を使っていますよ」
「え?」
「いつだって、私を幸せな気分にしてくれます」

 うっ! そんなことを、言葉通りに幸せそうな神々しい笑みで言われたら、心臓が止まってしまう! 昇天してしまいそう!

 私は息も絶え絶えに言い返した。

「シュリオスだって、そうですよ」
「あなただけの魔法使いになれるなら、こんなに嬉しいことはありませんね」

 今度は悪戯そうな笑みー!! 生き生きとした楽しそうな表情に、心臓が痛くなる。ううう。確実に息の根を止めに来ているわ。これはたしかに、魔王の所行ね……。

 私は本当に心臓が止まってしまう前に、近付いてくる彼の顔がこれ以上よく見えてしまわないように、強制的に目を閉じた。
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